“人の魅力を伝える”をメインテーマに掲げ、情熱あふれる活動をしている人に話を伺う連載が「街角ヒーローズ」です。本連載は、将来“人の魅力を伝える”をコンセプトにしたメディアを立ち上げ、「地元の岐阜県、そして日本中を盛り上げたい!」という野望を抱く大学生の山下和真が執筆しています。
vol.1では、荒川区東日暮里にて“おこし”の製造を行う有限会社「丸文製菓」3代目の細谷誠さんにお話を伺いました。

「和菓子」
それは日本の季節や文化を五感で味わう伝統の結晶です。しかし現代、少子高齢化や若者の和菓子離れが加速する中、和菓子業界は人手不足や後継者難など存続の岐路に立たされています。和菓子製造を営む、荒川区東日暮里の「丸文製菓」もその限りではありませんでした。
そんな中、創業63年を迎える丸文製菓の3代目細谷誠さんは「OKOSHIYA TOKYO」という新たなブランドを立ち上げ、”ひとのココロを「おこし」たい。”をコンセプトに、業界に革新をもたらそうとしています。伝統を守りながら未来を切り拓く3代目の細谷誠さんの魅力を、この記事を通して感じていただければと思います。
「おこし」への愛と継承の決意
日暮里駅から徒歩10分。
新しさと伝統が入り混じるこの町で日本の伝統和菓子「おこし」の製造工場構える有限会社丸文製菓。創業63年を迎える丸文製菓は細谷誠さんの祖父が「人々を元気にしたい、笑顔にしたい、明るい日本を取り戻したい」(HPより)という想いから会社を立ち上げ、「おこし」製造を始めました。
その後、細谷さんの叔父にあたる海老原利幸さんが2代目を継ぎ「おこし」で地域を興してきました。しかし、時代の変化とともに2代目は自分の代で会社を畳むことを決意します。

そんな中で立ち上がったのが当時社会人1年目だった細谷誠さん。会社を畳む決意をしていた2代目には「下火な産業だから継がないでほしい」と大反対されたそうです。自分と同じ苦労をしてほしくないという2代目の優しさだったことと思います。しかし幼い頃から慣れ親しんだおこしを守りたいという意思が事業継承へと導きました。
継ぐ決意をした理由を尋ねると、
「とにかくおこしが大好きなんです」
そう語る3代目の姿は、強い使命感と溢れんばかりのおこしへの愛情が感じられました。

何事も身近すぎるとその魅力には気付きにくいものです。おこしの魅力を再認識したタイミングを尋ねると、
「継いだ後ですね。これまでは単純に美味しくて好きだったんですけど、お客さんや友人が自分たちの商品を食べて美味しいと言ってくれる、喜んでもらえる瞬間にうちのおこしってすごく良いものなんだなと思いましたね」
味へのプライドはさることながら、おこしという伝統、先代から受け継いだ想いへの絶対的な自信が細谷さんの瞳からは感じられます。
丸ビル出店 ―逆境からの挑戦―
2020年。
新型コロナウイルスの影響が世界を覆う中、「OKOSHIYA」は東京駅すぐの「丸の内ビルディング(丸ビル)」への出店という大きな挑戦を果たしました。当時、コロナ禍でどの企業も経営が厳しく、「丸ビル」にも空き店舗が出てしまっている状態でした。そんな中、素敵なご縁で「丸ビル」出店の話があり、他企業とのコンペティションの末、出店の切符を勝ち取ることができたそうです。

細谷さんはコロナ禍についてこう振り返ります。
「コロナ禍の時は今よりもっと会社が小さかったのでなんとか耐えることはできました。大変でしたけど、丸ビル出店がきっかけで取引も広がって、コロナの時は追い風というか、チャンスだなという状況でした」
本来は企業にとってピンチであるはずのコロナ禍において、その状況をチャンスに変えることができたのは細谷さんの決断力の賜物であると感じました。
「古い=新しい」幅広い世代に響く和菓子の魅力
和菓子屋として都心に店舗を構えるのはとても難しいことです。和菓子は季節感と密接にあることで一定の利益が見込めると考えられます。また、固定の顧客がつきやすいという点からも、地域に密着したお店になりやすいという特色を持っています。しかし、この特色が色濃く出るのは郊外や地方に店舗を構える和菓子屋に限られ、都心に店舗を構える「OKOSHIYA」はその恩恵があまり受けられないように思います。

また、和菓子離れが進み、和菓子を手に取る人が減ってきているという現状について伺うと、
「チェキのように古いものが可愛いみたいな、逆説の言葉が増えてきていますよね。そう言った意味では逆にチャンスだと思ってます」
「OKOSHIYA」は時代の流れを打ち破る施策を多く行っています。その1つが、シンプルで洗練されたパッケージです。和菓子としての品や高級感を残しつつも、おしゃれで親しみやすいデザインとなっており、若い世代も手に取りやすいことと思います。また、味のバリエーションも豊富であることから従来のような「お茶のお供」にするだけでなく、珈琲やビールなど、シーンにあった楽しみ方ができます。
和菓子は年配の方が好むものという一般的なステレオタイプから、幅広い年齢層に支持されるような和菓子としての新たな存在価値を証明しています。
温もりを届ける ―直筆メッセージに込めた想い―
幅広い世代の人におこしを手に取ってもらえるような工夫を施す「OKOSHIYA」ですが、昔ながらの伝統や和菓子ならではの奥深さも大切に守っています。

取材前、筆者は「OKOSHIYA」のオンラインショップにて「OKOSHIYA START SET」を購入しました。個包装になった6種類のおこしが楽しめるというものです。そこには「OKOSHIYA」の商品紹介のチラシと細谷さんの熱意がこもったメッセージカードと共に、購入者への直筆のメッセージカードが同封されていました。
このことについて細谷さんに尋ねてみると、
「僕たちが一番大切にしているのは、おもてなしの精神です。デジタル時代で生産性や効率が重視されて、日本の古き良き文化がどんどんなくなっているように思います。そんな中で、商品に一筆添えることや、おもてなしの精神でお客さんを迎えることで和菓子、OKOSHIYAを通して日本の古き良き文化を感じてもらいたいと思っています」

続けて、商品を開発する上で大切にしていることも伺いました。
「常にどういった価値を商品に乗せることができるのかを考えています。デザインが良いといった見た目のことだけじゃなくて、商品を通してどんな体験ができるだろうみたいな。今、ドッグフードとかではないんですけどワンちゃん向けの商品も作ってるんです。休日のワンシーンを想像して、飼い主とワンちゃんが同じ時に同じものを食べられたら素敵じゃないですか?」

こうした発想から、ペットも食べられる安全なおこしの開発に取り組んでいるのだそうです。飼い主とペットが一緒に楽しめる商品というのは、単なる商品を超えた新たな価値を提供します。おこし屋でありながら、「おこし=日常を彩るアイテムの一つ」と捉える柔軟さが今日までの躍進の秘訣なのだと感じました。
和菓子文化を未来へ ―OKOSHIYAのこれから―
「OKOSHIYA」は教育事業への取り組みにも力を入れています。コロナ禍にはお子さんをターゲットにオンラインでのおこし作り体験を企画されていました。
「今後は保育園とECC(英会話教室)と連携して、英語を交えながらのおこし作り体験も企画していく予定です。これからも子ども達におこしの文化を知ってもらう取り組みは継続してやっていきたいです」

和菓子離れが進む現代において、こういった取り組みは子ども達にとって和菓子を身近に感じるだけでなく、和菓子の魅力を知ってもらうことができます。これからも「OKOSHIYA」の、細谷さんの情熱あふれる取り組みに注目していきたいです。
最後に
取材後、筆者は地元に帰省する際のお土産として「丸ビル」の店舗でおこしを購入させていただきました。祖父母に渡すと、パッケージや味のバリエーションにも興味津々でとても喜んでもらうことができました。まさしくおこしを通してココロが興され、繋がることができた瞬間でした。細谷さんの情熱が描く世界の一端を感じることができたように思います。

世代を超えて繋がることができるおこし。
老舗が培った確かな技術と、革新的なアイデアの融合。
そして「おこしが、仕事がとにかく大好きなんです」とキラキラした笑顔で語る3代目細谷誠さんが、どのようにして新たな価値を生み出していくのか。
その可能性をぜひみなさんも味わってみませんか?

取材=山下和真
トネリライナーノーツ記事
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撮影(取材時)=山本陸
トネリライナーノーツ記事
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