“ひょうたん芸人”あらぽん、種から夢を育てる 【街角ヒーローズ vol.2】

街角ヒーローズ

“人の魅力を伝える”をメインテーマに掲げ、情熱あふれる活動をしている人に話を伺う連載が「街角ヒーローズ」です。本連載は、将来“人の魅力を伝える”をコンセプトにしたメディアを立ち上げ、「地元の岐阜県、そして日本中を盛り上げたい!」という野望を抱く大学生の山下和真が執筆しています。

vol.2では、足立区出身の“ひょうたん芸人”あらぽんさんにお話を伺いました。

“ひょうたん芸人”のあらぽんさん
“ひょうたん芸人”のあらぽんさん

足立区出身の漫才コンビ「ANZEN漫才」で、相方のみやぞんさんと一世を風靡したあらぽんさん。コンビ解散後、ひょうたんから数々のアートを生み出す「ひょうたんアーティスト」としても活躍しています。「ひょうたんの町」として知られる、神奈川県大井町の「ひょうたんアンバサダー」も務め、種から育てたひょうたんで個性的な作品を生み出しています。

自身2回目となる個展のテーマは「sweets」。思わず手に取って食べたくなってしまうような作品が並ぶ個展にお邪魔して、ひょうたんアートとあらぽんさんの夢についてお話を伺ってきました。

100円から始まるひょうたん物語

現在、ひょうたんを通して様々な活動を行うあらぽんさん。

そんなあらぽんさんがひょうたんと初めて出会ったのは約14年前。場所はライブ会場の前にあったひょうたん屋さんだったそうです。

アイスクリームをイメージしたひょうたんアート
アイスクリームをイメージしたひょうたんアート

「当時受けていたオーディションは一発ギャグみたいな、短い時間でのパフォーマンスが求められていたのでどうやったらインパクトを残せるのかというのを常に考えていました。

ライブの待ち時間に外に出たら会場の目の前がたまたまひょうたん屋さんだったんです。形も面白いしこれは何かに使えるかもしれないと思いました。ネットでひょうたんを色々調べて、買おうと思ったんですけど30センチのものでも6000円くらいして。当時はお金がなくて買えませんでした。

でも、種は100円で売ってたんです。それなら自分で育てれば良いやって思ったのが始めたキッカケですね」

様々なひょうたんアート
様々なひょうたんアート

常にアンテナを張り巡らせていたからこそ、ひょうたんと出会い、魅力に気づくことができたのだと思います。

そんな出会いから現在は神奈川県大井町の「ひょうたんアンバサダー」も務め、中学校や幼稚園などを含めた様々な場所でひょうたんを共同栽培し、その輪は年を増すごとに広がっています。

ピン芸人としての再出発

「ひょうたん芸人」のあらぽんさん
「ひょうたん芸人」のあらぽんさん

当時はコンビでの活動を主軸としつつ、趣味としてひょうたんの栽培を行っていたあらぽんさん。そこからどのようにして現在のアート活動を始めることとなったのでしょうか。尋ねると、

「これからはアートで行くんだ!って決めたキッカケは、コンビの解散ですね。ピン芸人としてこれからどのようにしていくのか色々悩んでいて。

ひょうたんがずっと近くにあったのでこれを活かしたいっていう想いはずっとありました。解散をキッカケに、その日の夜から作品を作り続けています」

「sweets」展の様子
「sweets」展の様子

今ではアート作品を数多く作り上げているあらぽんさんですが、元々アートの経験はなかったと言います。

「アート作品を作らせてもらってますけど、本当は美術の才能は全然なくて、絵も全く描けないんです。でもひょうたんに穴を開けてランプを作ったり、和紙を貼って作品を作ったり、ひょうたんを活かして何か作るというのはずっと練習していました。

自分のできることで、かつ今の時代に受け入れられる加工は何かを考えた時に『フルイドアート』という技法を思いつきました。これなら若い子にもかわいいって見てもらえるんじゃないかって」

アイスクリームをイメージしたひょうたんアート
アイスクリームをイメージしたひょうたんアート

フルイドアートとは、キャンバスなどに絵の具を垂らしたり流し込んだりすることで、唯一無二の模様を生み出すことができます。この技法をひょうたんに応用して、自分にできることから作風を広げていったそうです。

「でも一番大事なのは、自分が好きなものを作ることだと思います」

アート作品は、上手いかどうかといった技術的なことよりも、自分の感情、熱意がどのようにして作品に乗っているのかが大切なのだと教えていただきました。

“ひょうたん絵画”という自分だけのカタチ

取材の様子
取材の様子

一つとして同じ形が無いひょうたんに、一つとして同じ模様にならないフルイドアート技法を組み合わせることで世界に一つしかない作品を生み出すあらぽんさん。

あらぽんさんの作品の中で特に目を引くのが、半分に切ったひょうたんをキャンバスに貼り付けて色をつけた絵画作品です。ひょうたんで絵画作品を作るアーティストは、世界であらぽんさんただ一人だといいます。

あらぽんさんが生み出した、ひょうたんを使った絵画作品
あらぽんさんが生み出した、ひょうたんを使った絵画作品

この作風を生み出すきっかけになったエピソードについても語ってくださいました。

「当時は今みたいに何か所にも栽培拠点があったわけではなかったので、採れるひょうたんの数が少なかったんです。作品を求められることが増えたのに、ひょうたんの数が足りなくて。それなら半分に切れば多く作品を作れるなっていう発想から今の作品の形になりましたね」

柔軟な思考がピンチをチャンスに、唯一無二の作品を生み出すこととなりました。自宅に作品を飾る場合、キャンバス型の絵画は”面”として鑑賞できるので壁に飾るなど、場所にとらわれずに楽しめるのではないかと思いました。

職業「ひょうたん芸人」、一人一人に届ける単独ライブ

「トネリライナーノーツ」編集長の大島も取材に同行。あらぽんさんの作品を観賞した
「トネリライナーノーツ」編集長の大島も取材に同行。あらぽんさんの作品を観賞した

「お笑い芸人」と「アーティスト」という二つの側面を併せ持つあらぽんさん。ネタづくりとひょうたんの作品作りで感じたことについてこう語ります。

「ネタを作るのも、作品を作るのも、やっていることは同じなんです。テーマを決めて、どのように表現して、どのように伝えるか。発想力という意味で使っている頭は同じなんです。

ずっと、ひょうたんだからって自分が勝手に別物のように捉えてたんですけど、これでテレビにも出させてもらったり、いろいろなところに呼んでもらったりしてるので、今も昔も、何も変わらないんですよね」

本来交わらないであろう二つの職業に、あらぽんさんの人生が共通点を見つけ、「ひょうたん芸人」として唯一無二を表現し続けています。

「ひょうたん芸人」あらぽんさん

「解散前にやったトークライブ、覚悟はしてたんですけどお客さん10人しか来なかったんですよ。そのトークライブで喋ってる時、自分の中で何かしっくり来なくて。寄せて喋ってるというか、自分の好きなことを喋ってないなって気付いたんです。

その5ヶ月後に個展をやったんですけど、2日間で100人以上の人が来てくれました。作品全部に思い出があって、自分が作った”ネタ”なので、来た人一人一人に作品の話をさせてもらったら、トークライブの時より喋ってるし、トークライブの時より来てくれた人が笑ってくれたんです。

その時に、何十人も同時に来てもらわなくても、自分の好きなことをやって、それを見に来てくれた人にそれぞれのライブをすれば良いんだと思いました」

「ひょうたん芸人」あらぽんさん

「お笑い芸人」の活動は大衆を相手にすることが多く、一人一人に向けて何かを届けるといったイメージはあまりありません。一人一人に届けるからこそ、相手に一番伝わる形で自分のライブを行うことができるのだと思います。

2025年4月19日~29日まで開催した自身2回目となる個展のテーマは「sweets」。アイスクリームをイメージしたひょうたんなど様々なアートが展示されました。鮮やかなカラーリングも相まって陶器やガラスで作られているようにも見ることができ、ひょうたんの表現の可能性を感じることのできました。

ひょうたん新世界 in カナダ

カナダで刺激を受けて生まれたあらぽんさんの作品群
カナダで刺激を受けて生まれたあらぽんさんの作品群

現在、あらぽんさんはカナダでの個展開催に向けて、クラウドファンディングを立ち上げています。昨年の11月ごろに一度カナダでワークショプを開催したあらぽんさん。ワークショップはカナダに拠点をもつ知り合いの方が声をかけてくださり実現したそうです。

あらぽんさんのクラウドファンディング

「僕の目標はひょうたんアートを世界に持っていくこと。ワークショップでは、言葉は通じないのに来てくれた方がすごく楽しんでくれてアートの力を感じましたね。たまたまその年からひょうたんの栽培を始めたというカナダ在住の日本人の方がひょうたんの加工を学びに来てくれたりもして、すごい縁を感じました。ひょうたんって縁起物ですけど、ひょうたんと出会ってから本当に奇跡しか起きてないです」

ひょうたん作品を持つあらぽんさん
ひょうたん作品を持つあらぽんさん

このような経験から世界進出の1回目をカナダに決めたそうです。このプロジェクトへの意気込みも語ってくださいました。

「ワークショップでカナダに行った時、外国人アーティストの作品に多く触れたことでたくさん影響を受けました。それらも踏まえて、自分の中で表現したいことの最先端を全部出したいと思ってます。

そして、世界中で個展をして、ゆくゆくはひょうたんを持って足立区に帰って来たいと思っています。それまではできること全部やるつもりです」

「ひょうたん芸人」あらぽんさん
「ひょうたん芸人」あらぽんさん

ひょうたんを通して新たな世界に挑戦を続けるあらぽんさん。熱意溢れる活動を支えるモチベーションは、応援してくれる人がいるからだといいます。

「ピン芸人になってアート活動を手伝ってくれるチームができたり、コンビ解散時には妻から『パパの好きにした方がいい』と背中を押してもらったりと、応援してくれる人がたくさんできました。そういう人たちに喜んでもらうためにも結果を出して恩返しができたらと思っています」

夢を熱く語るあらぽんさんの瞳からは強い決意を感じました。

最後に

取材を通してあらぽんさんから、ひょうたんがとにかく好きで、「多くの人にひょうたんの魅力を知ってほしい!」という熱い想いを感じ取りました。現状に満足せず、自分自身と向き合い続け自分の輝くステージで、自分自身を表現し続けるあらぽんさん。筆者が感じたあらぽんさんの想いが、少しでも多くの人に伝わることを願っています。

「ひょうたん芸人」あらぽんさん(左)と筆者(右)
「ひょうたん芸人」あらぽんさん(左)と筆者(右)

筆者は取材前、お笑い芸人という職業はテレビなどに出て「ネタ」をやって人を笑わせる仕事だと漠然と考えていました。しかし、お笑い芸人の本質的な仕事は「人を笑顔にすること」。あらぽんさんは「ネタ」から「ひょうたんアート」に手段は変わりはしたものの、本質的なところは今も昔も何一つ変わっていません。

人を笑顔にするプロフェッショナル、「ひょうたん芸人」あらぽんさんが描く世界を一緒に応援してみませんか?

あらぽん
ホームページ
https://arapon.jp/

取材=山下和真
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/kazuma/

撮影=山本陸
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/riku/