足立区・荒川区の“外側”で活動している人に話を聞いて、そこから地域活動の学びを得る連載が「のりかえライナーノーツ」です。

今回の7本目では、埼玉県越谷市でチョコレートの製造・販売を行う就労継続支援B型事業所の「CA.CA.O WORKS」を運営する大越善之さん、橋本哲寿さんにお話を伺いました。聞き手はライターの佐藤みなが務めます。
(取材日:2026年1月14日)
働く喜びと生活の豊かさへの挑戦

埼玉県越谷市の住宅街に立つ、白い壁のおしゃれな建物と「CA.CA.O WORKS」の文字が刻まれた緑の看板。2025年3月に開所したチョコレートの製造・販売を行う就労継続支援B型事業所です。
中では、清潔に保たれた作業スペースで障害のあるメンバーたちがチョコレート作りに取り組んでいます。器用にカカオ豆の皮を剥き実や芯を分けている人、型にチョコレートを流し込む人、みんなが顔を上げずに同じ姿勢でずっと手を動かしていました。
事業を立ち上げた大越さんと橋本さんは話します。「障害があっても自分らしく、豊かな人生を送れるような社会にしたい」

就労継続支援B型で働く人の賃金は、月に1万5000円〜2万円ほど。この金額では、生活面での制限が多くなってしまうと考えました。しかし、2人が目指したのは賃金を上げることだけではありません。「おしゃれな作業内容で楽しく仕事ができる環境を作れたらいい」と橋本さんは言います。
社会福祉の仕事に長年携わってきた橋本さんと、企業の業務効率化を専門としてきた大越さん。2人の専門性が重なって出た答えが「ビーントゥバーチョコレート(カカオ豆から板チョコを作る製法)」です。
「一人ひとりに合った作業とマッチさせることが必要」と橋本さん。高付加価値なチョコレート作りは作業工程が明確です。「高い価値を提供し、売上を働き手に還元する」。やりがいを持って働ける環境と高い賃金、それが「CA.CA.O WORKS」の挑戦です。
チョコレート作りという選択肢

「チョコレート作りって、ちょっとワクワクするんです」
甘いもの好きの大越さんは、美味しいものを自分たちが作り売っているのだというワクワクをみんなにも体験してもらいたいと言います。「『自分たちはショコラティエなんだ』と思えることをやりがいや生きがいにしてほしい」そんな想いがありました。
事業の立ち上げには、橋本さん自身の過去も関係しています。幼い頃から管理的な社会の空気に生きづらさを感じ、自身の存在意義に悩み続けてきたことを、言葉を探しながら話してくれました。同じように感じる人を応援したいという想いで、社会福祉の仕事を続けてきたそうです。

「CA.CA.O WORKS」が掲げる「自分らしく生きる」。橋本さんが思う「自分らしさ」の意味は、2つ以上の選択肢から選べること。「あなたにはAしかないですよ」ではなく、「AとBとCの中から、私はAがいい」と選択できることに自分らしさが生まれると話します。
障害のある人たちの仕事も同じです。「ビーントゥバーチョコレートというおしゃれな作業を選択肢に加えることで、一人ひとりが自分らしく働ける環境を作りたい」という想いは、「CA.CA.O WORKS」の現場で形になっています。
ショコラティエとして、通い続けられる場所

「CA.CA.O WORKS」で働くメンバーは、「ショコラティエ」の名刺を持っています。
名刺を作ったのは、「はじめて自分の名刺を持つ時の喜びをみんなにも感じてほしいから」と橋本さんは話します。
ショコラティエのメンバーが作るチョコレートは、カカオ豆70%、キビ砂糖30%以上という自然本来の製法です。「有名店とくらべても遜色ない味。この味に慣れたら市販のチョコレートは食べられなくなっちゃって」と大越さんは胸を張って教えてくれました。

品質の高さは、丁寧に作業を進めているからこそ生まれています。「価格を抑えて美味しいチョコレートが提供できるのは、スタッフとメンバーが頑張っているからなんです」
それぞれの役割は、本人が楽しいと思うことを入口に決めていきます。カカオ豆の皮を手で剥く作業、石臼でなめらかにする工程、型に流し込む作業、ラッピング。大切なのはスピードではなく丁寧さです。一人ひとりのペースを守りながら作業を進めていくうちに、自分なりのやりやすい形を見つけていく人もいて、スタッフが工夫を教わることもあります。
作ったチョコレートは、販売会でお客様に届けられます。「その時の写真を見ると、みんながすごくいい表情をしているんです」と橋本さん。お客様に直接喜んでもらえる実感が、普段の地道な作業に結びつき、やりがいにつながっているのを感じると言います。

とはいえ、働き続けることは簡単ではありません。体調が変化する日もあるからこそ、「CA.CA.O WORKS」では働き続けられる環境を大切にしています。
通い続けられる理由を聞くと「スタッフが優しいから」という声が返ってきました。
スタッフはメンバーの様子を見守りながら、体調の変化に気を配ります。作業をしているメンバーの隣に座り、一緒に手を動かしながら言葉を交わす姿がありました。メンバーの支援プランを作成するサービス管理責任者は、看護師の資格を保有しています。医療的なケアも含めたサポートにより、安心して通えることも特徴の1つです。

環境面でのこだわりもあります。「とにかく清潔面にこだわりました。トイレの清潔さ、おしゃれできれいなところを重視して」と大越さんは話します。明るさを感じる室内、すれ違ってもぶつからないよう考えられたテーブルの配置、すぐに外へ出られる位置にある玄関や窓。息苦しくならないようにとの想いが伝わる空間です。
こうした環境のもと、変化も生まれています。最初は週1回だった人が週4回通えるようになったケースもあるそうです。働き手を尊重する環境が、通い続けたい場所を作ります。「CA.CA.O WORKS」の現場には、その好循環が生まれていました。
広がる輪と、「全国、そして世界へ」という夢

「CA.CA.O WORKS」は、今クラウドファンディングに挑戦しようとしています。
就労継続支援B型事業所を実際に立ち上げて、運営の厳しさを実感しているそうです。物価高騰でカカオ豆の価格は上がり、必要な機材も高額な状況。働きたいという人は集まってきているものの、揃えていかなければならないものは数多くあります。
とはいえ、販路は広がり始めています。市内の大手企業がバレンタイン用に社員へ配るチョコレートを発注してくれて、レストランへの卸や企業向けの定期購入も動き出し、ふるさと納税も間もなく始まるそうです。

「いい関係を築けるように甘いチョコレートで挨拶する。そんな手土産にしたいんです」
障害のある人たちの生活を豊かにして、越谷市の地域おこしにもつなげたいという想いが、今少しずつ形となってきています。
この可能性をもっと広げていくために「クラウドファンディングで応援の力を集めたい」と大越さんは言います。話す表情からは、絶対に賃金を上げたい、チョコレートを多くの人に届けたいという強い想いが伝わってきました。

さらに、2人の夢は続きます。
「カカオ豆を作ることからやりたいんです。夢ですけど」と橋本さん。「メンバーが心を込めて作ったチョコレートを全国、そして世界へ届けたい。みんなが甘くて優しい関係を築ける社会づくりに、自分たちの作業がつながっていると感じてもらえたら」
大越さんは「2店舗目3店舗目を作りたいんですよね」と話します。やりがいを持って働ける環境と高い賃金、両方が実現できる場所をもっと増やしていきたいと考えています。今、手応えを実感しているからこそです。

一方で、橋本さんには他の願いもあります。「人はなにかしらの障害や困難を抱えています。学校でいえばクラスに1人以上障害を持っている人がいて、それが家族や兄弟かもしれない。すべての人にとって自分事だと思うんです」だからこそクラウドファンディングを通じて、一人でも多くの人に携わってほしいと願います。
スタッフとメンバーの頑張りが、「CA.CA.O WORKS」を支えています。2人が自信を持って勧めるチョコレートをお客さんが「美味しい」と言ってくれること。その声が「CA.CA.O WORKS」の歩みを後押ししてくれる力となるでしょう。
CA.CA.O WORKS
ホームページ
https://cacao-works.com/
ブランドページ
https://shop.cacao-works.com/
オンラインショップ
https://cacaoworks.official.ec/

取材=佐藤みな
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/mina/
撮影=かんな


