「福祉のプロから学ぶ政治と暮らしの接点」 佐藤ことさん 【のりかえライナーノーツ 1本目】

のりかえライナーノーツ

足立区・荒川区の“外側”で活動している人に話を聞いて、そこから地域活動の学びを得る連載が「のりかえライナーノーツ」です。

今回の1本目では、障害者雇用支援事業を展開する「株式会社ゼネラルパートナーズ」広報室勤務で、今春の北区議会議員選挙に挑戦する佐藤ことさんにお話を伺いました。聞き手は、トネリライナーノーツ編集長の大島俊映が務めます。
(取材日:2023年1月30日)

佐藤ことさんのプロフィール

北区の東十条商店街で撮影した佐藤ことさんの写真
佐藤ことさん
  • 「株式会社ゼネラルパートナーズ」広報室
  • 「日本維新の会」北区政対策委員

1988年4月22日生まれ、静岡県浜松市出身。ダブリン大学トリニティカレッジ心理学部を卒業を経て、2013年より広告代理店2社で広告やマーケティング業務に5年間従事した後に、障害者雇用支援事業を幅広く展開する「株式会社ゼネラルパートナーズ」に入社。

また、2018年の夏より、音喜多駿事務所に政策スタッフとして参画して、統一地方選、参議院選挙のボランティアを経験、今春の北区議会議員選挙に挑戦する。

臨月でも選挙に挑戦する理由

北区の東十条商店街で撮影した佐藤ことさんの写真

――まずは、佐藤さんが今回の北区議会議員選挙に「投票日が出産予定日の前日」という異例の形で出馬されますが、そこまで突き動かされた理由を教えてください。

佐藤さん 私は、2020年の都議会議員補欠選挙と2021年の都議会議員選挙に北区から出ています。そもそもなぜ選挙に出たのかというと、障害のある方の就労支援の仕事をしている中で、制度や法律の壁を感じることがあったからです。そんな状況を変えていきたいと思った時、まずは議員さんとコネクションを作りたいなと思って、政治塾に行くようになりました。

その時はまだ自分が議員になるイメージは持っていなかったんですけど、政治塾に通う中で、当事者がもっと議会に入っていかないとダメだなと感じました。私が行っていたのは政党の政治塾ではなく、無所属の議員さんがやっている塾だったんですが、それでも男性がすごく多かったんです。それに、子育て中の人っていうのは、なかなか選挙に出ようと思わないんですね。そうすると、議会に子育てをしている人がいなくなってしまいます。

でも、議会で決めていることの中には、子育て支援のような大切な事もいっぱいあるじゃないですか。そこに声を届けるには、間接的に誰かにお願いするよりも、当事者自身が入っていったほうが、より声が届けられるんじゃないかなと考えました。今回もどうするかすごく迷ったんですけど、「小さい子どもを育てながら生活する」ってどういうことなのかを知っている当事者が議会に入るというのは、意味があるんじゃないかなと思ったんです。

インタビュー時に撮影した佐藤ことさんの写真

――そうですよね。とはいえ選挙に出るのって傍から見ていると、とても大変に思えます。お金もかかるだろうし。一般的な光景として「街頭演説をして地域の人とコミュニケーションしながら投票を迎える」というイメージもありますよね。

佐藤さん そうですね。

――佐藤さんの場合、臨月に近い時期に選挙になるわけですが、そのあたりはどうお考えですか?

佐藤さん 今までのような外での活動は、当然できなくなるとは思っています。自分自身、やっぱりすごく不安な気持ちは大きいですね。地域の方から「応援してるよ」って声をかけていただくとすごく元気になるんですけど、今回はそういうのがあまりない中でやっていかなきゃいけないので、心配な気持ちもあります。私は今まで2回の選挙を体力勝負でやってきて、それなりに手応えもありました。当時の私はたまたま自分が健康で、夫のサポートもあって、子どもは夫や友達が見てくれました。

でも、見方を変えると、それって全員ができる事じゃないと思うんですよね。病気がちな方やそんなに体力がない方、子育てを他の人に頼めないシングルマザーやシングルファザーの方、そういった方々も戦える選挙をどこかで考えなきゃいけないなと思いました。過去2回の選挙では自分の体力があるし、サポートを得られる立場で選挙活動ができていたから、そういうことはあまり考えていなかったんです。今回は自分が当事者になるので、工夫してやってみる事が何か次に繋がるんじゃないかな、と前向きに捉えるようにしています。

インタビュー時に撮影した佐藤ことさんの写真

――なるほど。それって北区とか足立区とか荒川区とか関係なく、子育てママ世代の人たちの希望に感じます。佐藤さんは課題解決のために当事者として議会に入っていくわけですが、政治家を志していない人でも、やりたい事をやれる社会を作っていけるでしょうか?

佐藤さん そうですね。そういう事にも繋がるんじゃないかと思っています。私は出産を間近に控えた人が選挙に出る事がすごく正しいと思っているわけではないんですが、人間って生きていると、いろんなことが起きるじゃないですか。病気になったり、怪我をしたり、障害を持ったり、子どもが生まれたり、子育てをしたり。そういう時にも、何かやりたいと思ったら挑戦できる社会であったらいいなと思っています。

もちろん、まず安心して暮らせる・守られているっていう事も大切だけれど、やりたい事があった時に「危ないからやめたほうがいいよ」って言うだけではなくて、「じゃあ一緒に工夫してやってみようよ」っていう声がけができる社会になったらいいなと思います。

福祉のプロから見た行政の課題

北区の東十条商店街で撮影した佐藤ことさんの写真

――佐藤さんは現職で障害者の就労支援のお仕事をなさっていますが、具体的に「ここをこのように変えていきたい」というものはありますか?

佐藤さん 私が当時感じた「壁」は2つあります。1つは、就労支援移行事業所という福祉のサービスです。通所が基本になっているんですが、中には精神障害の方で電車に乗るのがキツいとか、身体障害の方で車椅子だとか、聴覚障害や視覚障害で家で仕事ができたほうが嬉しいという方もいらっしゃるじゃないですか。

でも、事業所には通所していないと報酬請求ができないというルールがあります。そうなると事業所として成り立たなくなるので、利用者の方々に来てもらわないといけないんです。対面支援の重要性も分かるのですが、在宅ワークを選択肢として除外してる気がして、それってどうなのかなと思っている中で起きたのが、コロナ禍です。コロナ禍のような状況で「利用者さんに来てもらわないと事業所が大赤字になります」となった時に「それでもやろう」と言えるかどうかって、事業所の体力に寄っちゃうじゃないですか。やっぱりいろいろなリスクがあるので、もう少し制度が柔軟なほうがいいんじゃないかなと思いました。

インタビュー時に撮影した佐藤ことさんの写真

――なるほど。

佐藤さん もう1つは、重度障害者の就労の問題です。重度の障害の方は、家にいると「重度訪問介護サービス」が受けられるんです。でも、働いたり通学したりすると、サービスが一気に使えなくなっちゃうんですね。これは、れいわ新選組の国会議員の方が最初に働き始めた時にもメディアに取り上げられた話です。家にいて何もしていない時はサービスを受けられるのに、「働きたい」「通学したい」となったらサービスが使えないって、それは障害者に「ずっと家にいろ」って言っているのとすごく近いと思うんですよね。

法律も「働ける人は自費で払ってください」となっているわけですが、これだと逆転現象が起きちゃうんです。働かなければ、介護サービスをタダで使える。でも、働いてしまうとそうはいかない。障害者の平均年収は250万円以下とも言われています。フルタイムで働くのが難しい方はもっと少ない。でも、ヘルパーさんに何百万も払わなきゃいけないとなったら、働けないですよね。当時はそういう状況も課題に思っていて、法律が変わったほうがいいと思いました。大阪府では国に先駆けて通学には使えるようになるなど支援を広げる自治体も出てきています。

日本は基本的にゼロリスクな社会で、福祉の在り方もそういうものが多いです。「お金をあげるから家でゆっくりしててね」というのが、日本の福祉の考え方で大きいと思うんですよ。でも、みんなやりたい事があるし、むしろ働いてもらったほうが社会的にも良いじゃないですか。働いて税金を納めてもらえれば税収は増えるし、そのあいだの社会保障費も多少は減る。働きたい人には働いてもらったほうが絶対に良いと私は思います。でも、それを後押しするような福祉の在り方が日本ではあまり多くないっていうことを感じていますね。

インタビュー時に撮影した佐藤ことさんの写真

――佐藤さんのホームページを拝見していて、1番出てくるワードが「多様性」だと感じました。障害者の方や子育て中の方、子どもたちや高齢者の方たちがイキイキとする社会を作りたいというイメージでしょうか?

佐藤さん そうですね。例えば、「高齢者の方はお金をもらって家にいるのが嬉しいだろう」って思うじゃないですか。でも、実際は「社会と関わりたい」という方も多いんです。それでシルバー人材センターに登録したくても、仕事がない。でも、例えばオムツは替えられなくても、コワーキングスペースで子どもをちょっと見るくらいだったらできる、っていうおばあちゃんたちもいらっしゃるんです。こういった社会に参加したい気持ち、感謝されたい気持ちって誰しもあると思っているので、それが当たり前にできる社会がいい。

特定の人々、例えば「健常な男性」といった属性の人以外は家にいてのんびりしてください、だとみんなが苦しくなっちゃうと思うので。だからこそ、本当にいろんな人がその場にいて、それで回っていくような社会にしたいというのが私の「多様性」という言葉のイメージですね。

4年間の政治活動を通して感じた事

北区の東十条商店街で撮影した佐藤ことさんの写真

――ここからは、佐藤さん自身について掘り下げたいと思います。都議会議員選挙に2回出られて、次点という形で政治家にはなれなくて、今度は区議会議員選挙に出る。この期間は、どんな事を意識して過ごしていらっしゃったんですか?

佐藤さん 難しい質問ですね。すごく迷う気持ちはありました。当時、もともと都議会選挙で当選は厳しいかもしれないから「都議選で頑張った分、みんなに知ってもらえたら、次は区議会議員選挙という選択肢もあるな」っていう考えは、ちょっとは頭にあったんです。

ご縁があったので都議会議員選挙に出ましたが、もともと子育てとか障害者支援は住民に近いサービスなので、どちらかというと区議会のほうが自分のフィールドと合っているのかなという想いはあって。でも、都議会議員選挙をやる間にすごく都政の課題を考えていたので、「じゃあ都議選は落ちたけど区議なら受かるんじゃないか」「区議選に出ればいいじゃないか」みたいな、そんな簡単な気持ちではなくて、迷いがありました。自分が本当に役に立てるのかとか、北区政の課題も改めて考えなきゃいけないとか。

インタビュー時に撮影した佐藤ことさんの写真

――国政は考えなかったんですか?

佐藤さん 私は国政にはあまり興味がなくて。というのも、国会議員って意外とたくさんいるじゃないですか。だから、その中で自分1人が受かって何かを変えられるイメージがあまりなくて。どちらかというと、区議会や都議会で自分なりの身近な課題を持って、当事者の人々と一緒に解決していくのが面白そうだなと思っています。地域から変えていきたいっていう想いのほうが強いんです。

――お話を伺っていると、地に足が着いているというか、本当に地域から変えていきたいという想いなんですね。佐藤さんは臨月で選挙に出る事で、特に子育てママさんたちを代表するような立場になると思います。足立区・荒川区の読者は投票する権利は持っていませんが、地域の子育てママさんたちに何かメッセージはありますか?

佐藤さん 「意外と私たちの身近な課題って変えられるんだな」というのが、私が政治活動を始めて4年経っての想いです。課題を見つけたら、ぜひ届けてほしいと思いますね。選挙の投票に行くっていうのは、本当に最後の最後というか、政治との関わりの中でごく一部なんですよ。もちろん投票に行くのはすごく大事なんですけど、それ以上に、自分の気づいた課題をぜひ政治家や議員に届けてほしいと思っています。

インタビュー時に撮影した佐藤ことさんの写真

――なるほど。

佐藤さん 本当に細かい事でいいんです。例えば、下の子の育休を取ったら上の子が保育園を退園しそうだとか。そういう小さい不安って、子育てをしているといっぱいあるじゃないですか。もし身近に政治家や議員がいなければ、私にSNSのDMなどでメッセージを送ってくれれば、対応できる事もあると思います。

ただ、荒川区にも足立区にも、子育て世代を代表した議員さんっていうのはこれから絶対に増えていくと思います。ぜひ選挙のタイミングで応援するとかじゃなくて、日々の課題を届けて、「変えられるんだ」っていう成功体験を一緒に作っていきたいなと思いますね。

「やりたい事は分からなくても、やりたくない事は分かる」

北区の東十条商店街で撮影した佐藤ことさんの写真

――以前にトネリライナーノーツ主催で学生向けにオンライン講演をしてもらった時に、私が1番印象に残ったのは「やりたい事は分からなくても、やりたくない事は分かると思う」っていう佐藤さんの言葉でした。めっちゃ良いなと思ったんですよね。

佐藤さん  本当ですか?

――はい。やりたくない事はやらない、それに、やりたい事を1個だけやり続けなきゃいけないっていうわけでもない。それって多様性の考え方にも繋がっていると思ったんですが、どうですか?

佐藤さん そうですね。私、日本人ってすごい頑張り屋さんが多いと思っているんです。私自身もプレッシャーを感じる時はあるんですけど、できない事をリカバーしようっていうのは日本人っぽいなと思っていて。

でも、好きな事をやっている時のほうが、絶対に人に貢献できると思うんです。だけど、好きな事を見つけるっていうのも、また難しい。「好きな事がないんです」っていう悩みを持つ人も多いので、まずは、「やりたくない事を、やらない」。その上で、「やりたくない事をやらなくなったら、何をやりたいか?」って考えていくといいんじゃないかなと思います。なんだかみんな苦しそうだなってすごく思うんですよね。あまり無理しなくていいのになって。

インタビュー時に撮影した佐藤ことさんの写真

――ちなみに、佐藤さんのやりたくない事って何かありますか?

佐藤さん めっちゃいっぱいあります(笑)

――例えば?

佐藤さん 私は銭湯が好きなんですけど、実は家のお風呂に入るのが苦手なんです。夜にお風呂に入るって、まず湯船を洗って、そこからお湯を溜めますよね。でも、お湯を溜めている間に入りたくなくなっちゃうんです。だから、その代わりに銭湯に行くんです。銭湯は、行けばお湯が溜まっているから。毎日家のお風呂に入るのがすごく苦痛です(笑)

――面白いですね(笑)

佐藤さん 本当ですか?もう本当に嫌いなんですよ。でも、お風呂自体が嫌いなわけじゃないんです。入れば入ったで、今度は出たくなくなります。でも、銭湯だったら絶対に出ないといけないですからね。スマホも持ち込めないし。銭湯は洗い場も温かいから、湯船から出るのにもあまり気合いがいらないというか。

――確かに!

佐藤さん 人の目があるから、キビキビ動けたりしますし。これも、やりたくない事から「好き」を発見した事例かもしれないですね。

北区の東十条商店街で撮影した佐藤ことさんの写真

――それでは最後に、足立区と荒川区のトネリライナーノーツの読者へメッセージをお願いします。

佐藤さん もともとは、私も政治に興味があったほうではありませんでした。でも、子育てをしていく中で、行政の対応などでつまずく事がすごくたくさんありました。そういう時にも政治を諦めないで、ちょっとした事から興味を持ってもらえたらと思います。つまりは自分の生活を良くするという事だと思うので、「政治と暮らしは地続きなんだ」っていう事を知ってもらえたら嬉しいです。

佐藤こと
ホームページ
https://satokoto.com/
Twitter
https://twitter.com/_satokoto

「のりかえライナーノーツ」聞き手の大島俊映
「のりかえライナーノーツ」聞き手の大島俊映

聞き手=大島俊映(トネリライナーノーツ 編集長)
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/oshima/

編集=三浦佐和子
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/miura/

撮影=山本陸
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/riku/