日暮里舎人ライナー「江北駅」より徒歩圏内、2021年7月に足立区関原にてオープンした駄菓子屋「irodori」は、どんな環境で生まれ育った子も気軽に来られる、“子どもの居場所”を作るべく、 特定非営利活動法人「Chance For All(CFA)」の学生チームが立ち上げました。その内の1人、「irodori」PR長である松尾郁実さんが、この駄菓子屋プロジェクトに関わる人の物語を描く連載が「イロドリストーリー」です。
第2話では、「CFA」学生チーム物件担当の工藤綾乃さんを取材しました。
※「irodori」の最寄り駅は「西新井駅」となります。
(取材日:2021年9月2日)
工藤綾乃さん(以下、工藤さん)は、私もその一員である特定非営利活動法人「Chance For All(以下、CFA)」学生チームで、 駄菓子屋「irodori」の物件を担当。駄菓子屋「irodori」は、どんな家庭や環境で生まれ育った子も気軽に来ることができる“子どもの居場所”となることを目指しているが、工藤さんはどのような想いでその空間をデザインしていったのか、話を聞いた。
建築学生から“irodoriの匠”へ
工藤さんは元々建築デザインの学部に通っており、人と空間との関係性やデザインの力で、人の暮らしを豊かにする方法について学んでいた。その中でも特に、子どもたちの環境に興味があり、リアルな現場でこれまでに学んだ事を実践してみたいと思って、ボランティアに詳しい先輩に相談したという。
そこで紹介されたのが、「CFA」学生チームの代表、飯村俊祐さん(注1)だった。飯村さんは、こどもの居場所をゼロから作る駄菓子屋「irodori」 プロジェクトを始めようとしていた時。面白そうだなと思った工藤さんは、「CFA」学生チームに2番目のメンバーとして加わって、駄菓子屋「irodori」プロジェクトに、建築デザインという切り口から携わる事となった。
空間を構成するためには、建築的な図面上の間取りだけではなく、色や素材・ライトや家具の使い方がとても重要なのだとか。工藤さんが通う大学では、それらを駆使してどのように空間を構成するかについて、力を入れているそうだ。その中で、子どもの環境や医療福祉の現場についての設計、障害を持っている方でも平等に暮らす事ができるようなユニバーサルデザインを意識した設計、それらについて学ぶ機会が多くあった。
このような自身の経験を踏まえ、この駄菓子屋「irodori」プロジェクトでは、オシャレでかっこいい空間を創るのではなく、「できるだけ利用者に寄り添って考えるのを大事にし、利用者にとって使いやすいと思う空間を創りたい!」という意志が強かったという。
1番の難所はコンセプトの設定
空間を作る時は、目的がたいてい決まっているそうだ。「こういう目的があって、こういう人たちが来る」というようなテーマが決まっている中で、例えば、図書館の設計や、美術館の設計を考えたりする。
対して今回の「irodori」は、不特定多数の人が、不特定多数の目的で来る場所。「誰でも来ていいよ。何でもしていいよ」という場所のため、それが逆に最初のコンセプトを考える際に、悩んだそうだ。「“何でも”って、言葉にしたら簡単だけど、実際に考えるとなると、ものすごく難しくて」と、工藤さん。空間のコンセプトをメンバーと何度も時間をかけて話し合い、じっくり考えながら空間を作っていった。
最終的に決まったコンセプトが、“まっさらなキャンバス”。この「irodori」という場所はただのキャンバスで、ここを訪れてくれる1人1人が持つ個性を「色」と捉え、「色」が加わっていくというイメージだ。「まっさらなキャンバス(irodori)」に、それぞれの「色」を持った人たちが訪れてくれる事で、「彩りのある空間」になっていくというコンセプトを打ち出した。
そうやって決まったコンセプトを軸に、空間の設計を行っていったため、可変性を大事にしたという。訪れる人々や、行われる用途によって空間を変えることができるように、壁は全面真っ白にし、移動可能な棚を配置したり、壁面に子どもたちが自由に描ける黒板を取り入れたりして、可変性のある空間を実現した。
物怖じせずに飛び込む姿勢と、建築に携わる2番目のメンバーとして
「むしろ、新しい世界を知りたかった」全く違う業界のボランティアに飛び込むのに不安はなかったのかを聞いた時の、工藤さんの言葉が印象的だ。即答だった。教育や福祉に興味を持つ、自分と全く違う分野の人たちと話ができるのが楽しみだったという。
工藤さんが普段から関わっているのは、建築や空間のデザインを学んでいる人たち、オシャレな空間やかっこいい空間、実用性のある空間などを作っている人たち。逆に、今回の駄菓子屋「irodori」プロジェクトは、“子どもの居場所をつくる”という目的だったので、教育や福祉に興味を持った学生や、子どもが好きな学生が多く集まってきた。
「irodori」の空間デザインを担当したのが工藤さんだったのは、とても幸運だったと私は思う。工藤さんは専門分野だからといって、自分の考えだけでコンセプトや空間デザインを決めることはせず、教育や福祉に興味をもつ仲間の考えをリスペクトし、対話を重ねながらそれらを練り上げていく事ができたからだ。それができたのは、自分と異なる興味や思想を持つ仲間を関わることを不安ではなく「楽しみだった」と思う心があったからではないだろうか。
また、工藤さん自身も「建築デザインを学んでいる自分が入った事によって、ただの居場所ではなく、空間のコンセプトをしっかり考え、それに沿ってデザイン性を兼ね備えた空間としての居場所にする事ができた」と考察する。そして、次のように言葉を続けた。「自身が2番目のメンバーとして、このプロジェクトに加わった事に意味があった」
聞けば、飯村さんと工藤さんはそれぞれの得意な分野が異なるだけでなく、性格の部分も対照的との事。工藤さんが飯村さんの持っていない要素を持っていて、逆に、工藤さんが持っていない要素を飯村さんが持っていた。だから、プロジェクトを始めたばかりで色々と決めなければいけない時期に、2人で補い合いながら進められたのが良かったという。
重ね塗りされていく「キャンバス」
取材の最後、自身のデザインした駄菓子屋「irodori」が、今後はどんな居場所になっていってほしいかを、工藤さんに聞いてみた。「どんな人でも来ることができる空間になったらいいなと。人それぞれで、居心地が良いと感じるポイントって違うと思うんです。それを1つの空間で全てクリアするのは難しかったとしても、空間に可変性を持たせた事で、来る人や目的によってコロコロと表情が変わるような、そんな居場所になったら嬉しいです」と、工藤さん。
キャンバスは、なにかの絵を描いても、何度も重ね塗りして、変わっていく事ができる。そうかと言って、リセットされるわけではない。それまでの過程に色を重ねていく事で、変わっていく。だから、「irodori」もその時々に合わせて、それまでの過程も踏まえて、変化していくことができる空間になれば、という工藤さんの想い。
これからどんな風に「irodori」というキャンバスが塗り重ねられていくのか、楽しみだ。
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取材=松尾郁実(トネリライナーノーツ サポーターズ)
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