2021年7月に足立区関原にてオープンした駄菓子屋「irodori」は、どんな環境で生まれ育った子も気軽に来られる、“子どもの居場所”を作るべく、特定非営利活動法人「Chance For All(CFA)」の学生チームが立ち上げました。その内の1人、「irodori」前PR長である松尾郁実さんが、この駄菓子屋プロジェクトに関わる人の物語を描く連載が「イロドリストーリー」です。
第3話では、「CFA」学生チーム駄菓子の仕入れ・販売担当の久我凛太郎さんを取材しました。
※「irodori」の最寄り駅は「西新井駅」となります。
(取材日:2022年2月21日)
久我凛太郎さん(以下、久我さん)は、私もその一員である特定非営利活動法人「Chance For All(以下、CFA)」学生チームで、 駄菓子屋「irodori」の仕入れ・販売や、学生ボランティアをまとめる人事のリーダーを担当。立ち上げメンバーの1人でもある。駄菓子屋「irodori」は、どんな家庭や環境で生まれ育った子も気軽に来ることができる“子どもの居場所”となることを目指しているが、久我さんはどのような想いで「irodori」の活動に取り組んでいるのか、話を聞いた。
irodoriならではの駄菓子へのこだわり
駄菓子販売のリーダーとして、駄菓子屋におけるコミュニティとしての「居場所」と、事業としての「経営」の両立について、どう感じているか?冒頭で、私が1番気になる質問を早速ぶつけてみた。「こどもの居場所としては、そりゃ究極を言えば、0円で駄菓子を配布したいです!」と久我さん。
その方が子どもたちもたくさん来て、楽しんでくれるだろう。しかし、居場所とはいえ、駄菓子屋は事業だ。家賃や仕入れなどにお金はかかる。駄菓子屋での販売だけで収益を上げているわけではないが、そうは言っても、駄菓子の価格はバランスを考えて設定する必要がある。久我さんは、子どもたちが苦もなく駄菓子を買えるギリギリのライン攻めて価格を決めているのだそう。その点が、普通の駄菓子屋や小売店とは違う、難しいところだという。
また、駄菓子の仕入れでは、子どもたちがその商品を買う事によって、どのようなストーリーが生まれるかを考えているそうだ。例えば、一般の駄菓子屋には置いてない珍しい商品を仕入れたとしよう。その商品を買った子どもは、家に持ち帰って「これ、買ったんだよ!」「えっ、何?それ、知らない!」というような会話を親子でするかもしれない。もしくは、学校で「irodoriには、あれが置いてあるらしいよ!」と子ども同士の噂話の種になるかもしれない。だから、「もちろん定番の人気商品も置きますが、一つ一つストーリーが生まれるような駄菓子のラインナップにしたいです」と、久我さんは頷きながら説明した。
「子どもたちのために」irodoriの“価値”を作る40人超の学生ボランティア
駄菓子の品揃えにこだわる「irodori」だが、多くの方からの支援のもとに成り立っている事業と言える。例えば、「irodori」は開業の際、資金調達のためのクラウドファンディングを行った。その時に、久我さんは「お金ではなく、共感を集めるのが大事である」という事に気が付いたそうだ。「irodori」の価値を発信していく中で、応援の1つの形としてお金が集まってくると。
「いくら子どもたちのための活動とは言え、お金が欲しい!欲しい!って言っているだけの人には誰も寄付してくれない。この活動の価値をきちんと伝えていくのが非常に重要だと思っています」と、久我さんは真剣な表情で語った。では、その伝えていくべき“「irodori」の価値”とは、なにか。
久我さんはその価値を、「子どもが何をやってもいい場所、何を言っても否定されない場所」だと言う。どんな事をやっても怒られないし、その子の行動や思想などの価値観が絶対的に尊重される。そんな絶対的な居場所があるというのは、子どもたちに「自分はありのままで生きていいんだ!」という安心感を与える事に繋がると考えている。
そんな駄菓子屋「irodori」には、今年から新しく40人もの学生ボランティアが加入し、今や大所帯となった。人数が多ければ多いほど、価値観や考え方は多種多様になる。その中で、互いを否定せずに認めた上で「子どもたちのために」という同じ目標に向かって一緒に動いていくのは大変だが、「irodoriの価値を考えると、とても大事」と、久我さんは言う。
どういう事か。例えば、学生チームの中に価値観の違う人が10人いれば、異なる価値観の子どもたち10人を理解してあげられるかもしれない、という状態を作れる。「学生スタッフの多様な価値観=子どもたちにとっての居心地の良さ」と考えると、学生ボランティアそれぞれの価値観が異なるという事自体が、多くの子どもの居場所となれる可能性に繋がっているのだ。
また、久我さん自身も「irodori」の中で、他の学生ボランティアの価値観に触れて、自らの変化を実感したのだとか。「irodoriのスタッフになるまでは関わる人も少なく、学校という確立された組織の中ではある程度の価値観の模範があって、あるべき姿みたいなものを考えながら生きてきました。どっちかと言うと、僕は合わせにいくタイプで、先生のご機嫌を取ったりとか、周りに合わせていったりだったんですけど(笑)そうじゃなくて、色んな価値観があっていいんだ、価値観に善悪とか優劣とかは全くないんだ、という事に気付いて。それぞれが、それぞれの価値観で動きながらも、組織として1つにまとまっていけると知られた事に、自らの成長を感じました。そんな場所が小さい頃にもあったら良かったなと思うから、それが今もirodoriをやっている理由の1つです」と久我さんは語った。
“irodoriモデル”を目指して
久我さんは、学生ボランティアをまとめる人事のリーダーも担当している。駄菓子屋「irodori」のスタッフは全員が学生ボランティア。それぞれが学業やバイト、プライベートなどと両立しながら活動している。「これをやって!シフトに入って!」と仕事を一方的に任せるだけでは決して持続可能ではないだろう。学生ボランティア自身に「楽しい」「幸せ」「やりがいある」と感じてもらうにはどうすればいいのか。それが「irodori」の運営を継続していく上で、最も重要であり、今も試行錯誤を繰り返しているところだと言う。
実は、久我さんは昨年の秋から大学を休学して、駄菓子屋「irodori」の活動に取り組んでいる。「irodoriは学生が運営している事に大きな意味があると思っていて。…という事は、自分にもいつか終わりが来るわけですよね。だからこそ、自分が価値のあると思っているこの活動を、自分じゃなくても、どんな学生が来ても運営し続けることができるように、その仕組みを作りたいと思いました」と、久我さんは言う。それには、やはり時間が必要だと考え、休学して取り組む事を決意したのだそう。
久我さんは将来への展望をこう語る。「irodoriのような大学生による活動が、西新井だけでなく、日本全国に広がっていって、“irodoriモデル”なるものが確立できればいいなと思います」今の学生ボランティアが大学を卒業した後、3年後、5年後…、そして、10年後。駄菓子屋「irodori」は果たして、どうなっていくのだろうか。
取材の最後、駄菓子仕入れの司令塔である久我さんに、1番好きな駄菓子をきいてみた。「ヤッターメンですね」彼はケラケラと笑った。
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irodori
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取材=松尾郁実(トネリライナーノーツ サポーターズ)
トネリライナーノーツ記事
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