「全學寺」住職 大島俊孝上人 【全學寺じゅずつなぎ 第1回】

全學寺じゅずつなぎ

日暮里舎人ライナー「舎人駅」より徒歩6分の「全學寺」にご縁がある人の物語を、職業ライターが紹介する「全學寺じゅずつなぎ」。

地域メディア「トネリライナーノーツ」の編集長で全學寺副住職の大島俊映さんに「取材してほしい」という依頼を受けた。対象は、全學寺住職で父親でもある大島俊孝上人(しょうにん)。「ふだんはケンカばかり」だというが、そこは僧侶としての大先輩。40年余りも責任ある立場で生きてきたことへの尊敬の念から、もっと知りたいのだという。お寺の仕組みについて興味を持ったこともあり、こうして住職にお話を聞かせてもらうことになった。
(取材日:2020年9月26日)

「全學寺住職」大島俊孝上人
「全學寺住職」大島俊孝上人

檀家はたったの40軒。荒れ放題だったお寺をわずか一代で復興へ

1490年頃に創建された全學寺は、檀徒が約300軒、信徒が約600軒の足立区のお寺。建物はきれいで、参道などもしっかり整備されている。しかし、俊孝さんが正式な住職としてやってきた1960年頃のお寺は、人がとても住めないようなバラック建てのボロボロで、檀家はわずか40軒ほどだったという。

檀徒にとって、葬式や法要の読経などが僧侶の役割であるのはもちろん、お墓やお寺がきれいに保たれていることも願いだ。ただ、維持するにはたくさんのお金が必要で、それには檀信徒の数が関わってくる。わずか40軒ほどの檀家に支えられる当時の全學寺には、建て替えなど考えられない状況だった。

当時のこの地域は農家が多く、お彼岸やお盆の付け届け(お布施)に米を持ってくる檀家がほとんどだったという。当然、米だけではお寺を維持していくことはできないし、住職が生きていくのにもお金は必要だ。仏門を叩いたからといって、米だけで健康に生きていけるわけはないのだから。住職がそれを檀家に伝えたところ、米を焼いて作った煎餅を持ってくる人がたくさんいて困惑したという。その後、金銭を付け届けとすることに納得してもらえたが、とはいえ檀家は約40軒。余裕のある運営ができるわけではなかった。

本堂も母屋もボロボロ。そして米はあっても金はない。お寺を盛り上げるどころか、住職が生活に窮するような環境だったわけだ。そんな中でしばらくして、住職が復興の第一段階として行動を起こした。それは、土盛りや区画整理によって、檀家の墓地をきれいにすることだった。

全學寺書院でのインタビューの様子
全學寺書院でのインタビューの様子

お寺を盛り上げるため、必要なのは檀徒からの信頼

「正直なところ、本堂とか自分たちが住む母屋を改装したかったですよ」と、住職は当時の胸の内を明かしてくれた。しかし、檀家の立場に立ってみると、自分たちの先祖が眠る墓地がきれいであることがまず大切だろうと考えた。またその一方で、自分たちの墓地をきれいにするためのお金ならば出してくれるはずという目算もあったという。住職の読み通り、檀家からはお金が集まり、墓地は美しく生まれ変わった。

インタビューの初めに「住職というのはどういう立場か?」というざっくりとした質問をぶつけてみたところ、住職は「校長先生みたいなもの」と教えてくれた。すぐには理解できなかったが、話を聞いている中で納得できる部分がたくさんあった。

住職がこれまで最も大切にしてきたのは「檀信徒からの信用を得る」こと。それがないと、住職として何もできないのだという。そのために意識したのは相手を理解する努力。一人の人間としての欲求に従うなら自分が住む家をまず何とかしたいと思うものだが、そんな住職を誰が信用してくれるのかを自身に問うた。

自分が檀信徒のためにすべきことは何か、それをなすため、檀信徒の力を借りられるよう、信用をいかにして得るかを考える。お寺と檀信徒は密接につながり、地域の小さな社会ができあがる。まずは相手を思い、真になすべきことの実現のために道筋を立てるのは、まさしく学校長のそれと同じだ。

全學寺本堂にて
全學寺本堂にて

寺を守っていくために時代を読む目も必要

住職が檀信徒との信頼関係に最も重きを置くのは変わらないが、檀家制度が崩壊しつつある今、時代の流れを読むことも大切なのだという。その最たるものが2017年に全學寺で始めた樹木葬「舎人木花葬苑」だ。

日本が超高齢社会となって久しい。平成29年(2017年)の国民生活基礎調査によると、同年6月1日時点で、全国の世帯総数が5042万5000世帯に対して、65歳以上の者のみで構成するか、これに18歳未満の未婚の者が加わった「高齢者世帯」は1322万3000世帯。全世帯の26.2%となっている。そんな中で独居、あるいは夫婦だけで暮らし、自分の遺骨の行方が決まってないことに不安を抱える高齢者も多いという。また、埋葬する場所を見つけられずに遺骨を自宅で保管する人や、経済的な理由で檀信徒にならない人も多い。

どんな事情を抱える人でも「自分の死後」は気になるもの。そうした人たちにとって、宗旨を問われず、一年を通じて花が咲き誇る場所で永眠できる安心感は魅力的に映ったようで、これまでに多くの申し込みがあるという。また、全學寺には職員が9時〜17時で駐在しており、フォロー体制がしっかりしていることも利用者にとって安心なのだろう。

時代に沿ったお寺のかたちを模索して檀信徒を増やし、それによってお寺を強化することで檀信徒に還元する。その地道な積み重ねによって、今の全學寺がある。

全學寺
住所
東京都足立区古千谷本町2-22-20
ホームページ(舎人木花葬苑)
http://toneri-jyumokusou.com/lp/

今回の応援者 大島俊映(全學寺 副住職)

大島俊映
大島俊映

トネリライナーノーツ副編集長で友人の井上良太くんにお願いして、“全學寺じゅずつなぎ”という連載が始まりました。お寺の歴史というのは、住職やその家族だけによるものではなく、檀信徒をはじめとした地域のみなさんと作っていくものだと考えています。第1回となる今回は、住職で父親の大島俊孝上人の取材をお願いしましたが、今後は全學寺にご縁をいただいた方々の物語をお届けしていくつもりですので、ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。

文=井上良太(トネリライナーノーツ 副編集長)
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/inoue/

撮影=山本陸(トネリライナーノーツ サポーターズ)
Instagram
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