類を見ない!? 学生×お寺で南三陸復興支援

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2019年2月16〜17日、東京都足立区の全學寺で「すきだっちゃ南三陸」が開催された。

これまで大正大学の学生たちは、東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県南三陸の復興支援に取り組み、学内のイベントで同地の今を伝える写真展示などを行ってきた。今回は、より多くの人に向けて発信すべく、学外で開催する運びとなった。なぜお寺で? 大正大学の講師を務める齋藤知明先生は僧侶でもあり、全學寺の大島俊映副住職と修行仲間。齋藤先生が副住職に話を持ちかけ、イベントが実現した。

「はだしでフラメンコ」後に参加者や学生が集まって記念撮影

プログラムは、ボディワークや演劇、ワークショップ、食堂などさまざまで、いずれも無料。食堂では南三陸の食材を使った料理が振る舞われたが、そのほかは多くが同地と関係がなかった。これは南三陸について興味を持っていない人でも「楽しい」と感じられるプログラムを集め、その足で南三陸の写真展示も体験してもらうため。「何よりもまず人を集め、南三陸について知ってもらうのはその後」という意図のもとでの施策だった。

ワークショップと写真展に参加する方
ワークショップと写真展はなむなむ堂で実施
無料コーヒースタンドの様子
毎週末オープンの無料コーヒースタンドはこの日も

イベント初日の16日は、前日の降雪から一転、真冬とは思えない陽気。スタートする10時から、すでに多くの人が集まっていた。メイン会場となったのは本堂。ボディワークや演劇が仏具に囲まれながら実施され、非常にシュールな画となったが、それも手伝ってか、皆がとても楽しそうに参加していた。

お寺にとっても学生にとっても初挑戦のイベントということで、ハプニングはあちこちであった。機材トラブルで映像が流れなかったり、食堂でお客さんを案内するのに手間取ったり。だけど、それでも構わなかったと思う。イベントの目的は、絶品料理を食べてもらうわけでも最高のサービスを提供するわけでもなく、多くの人を集めること。そして、あのとき南三陸で何が起き、今はどんな未来へ向かっているのかを知ってもらうことだからだ。

無料食堂で料理を楽しむ方々
連日盛況となった無料食堂

個人的には、イベントのハイライトは大正大学生・渡邊さんによる「語り部の南三陸」だったように思う。彼女は南三陸出身の3年生。中学生のときに被災した彼女が、被災当日の様子から現在抱いている想いまでを語っていくというもの。渡邊さんは語り部を始める前に「(初めての語り部に)緊張してます」「可哀想な話だと聞かないでくださいね」と、はにかんだ。渡邊さんの語り口調はポップで、彼女は笑顔を絶やさない。ただその語りからは、被災した者にしかわからない壮絶さ、被災者だから至るであろう思考の片鱗がうかがえた。

語り部を担当してくれた渡邊さん
大正大学3年生(イベント当時)の渡邊さんによる語り部は両日実施

語り部の最中、震災翌日に現地の新聞社が配布した号外が回覧された。渡邊さんが下宿先に持ってきていたという。印刷はただのコピー用紙で、地域の被害状況や自衛隊の活動などが書かれていた。必要なことを淡々と伝える、紛れもない新聞社による情報。しかしその最後は、タイトルよりも大きな「勇気を出してがんばろう」という文字で結ばれ、記者の強い想いが滲んでいた。本職の語り部とは似つかず拙いながらも、笑顔で語られる彼女の体験と、号外の結びの言葉で、来場者の中には涙をこらえられない人もいた。

そして語り部が終わると、亡くなった被災者の冥福を祈る追善法要が、主催の大島副住職、斎藤先生など僧侶によって行われ、一日があっという間に終わった。

追善法要の様子
大島副住職らによる追善法要

2日目は初日よりも気温が下がったものの、多くの人が集まった。一部のプログラムが初日と変わり、フラメンコやタイのヨガ・ルーシーダットンを実施。定員を超える数の参加希望者が出ることもあり、大盛況だった。ちなみに、今回のイベントにおいて、各プログラムの講師の多くが副住職の知人だ。「すきだっちゃ南三陸」が始動してから、副住職は人を呼べる魅力的なコンテンツとして、ふだんは有料の教室を開いている、いわゆる「先生たち」にワークショップの実施を依頼。そして皆がイベントの意義に共感し、無償で引き受けた。

イベントの来場者は2日間でのべ700人。募金は4万4070円が集まった。イベント参加者が作ったキリムのタペストリーと共に、募金はすべて、南三陸町社会福祉協議会を通じて、南三陸の福祉活動に充てられる。ちなみに、同地へ募金を届けに行く予定の大島副住職は今回のイベントを終えて、今後、南三陸に対してできることを模索していこうと決めたという。大正大学でも、こうしたイベントは今後も実施されるだろう。

正直なところ、学生主導のイベントであったためたどたどしく、運営面で改善の余地がある。しかし、そんなものは経験を重ねればいいだけ。それよりも大切なのは絶やさぬこと。続ける中で、学生たちの想いは次代に受け継がれていくし、より多くの人に影響を与えるイベントへと成長していくだろう。そうなるよう、強く願う。

2020/1/5 追記

2019年3月27日、大島副住職はイベントに携わった仲間とともに南三陸を訪れ、募金を南三陸町社会福祉協議会(結の里)に、タペストリーを三陸町の宿泊研修施設である「南三陸まなびの里 いりやど」に、それぞれ届けた。

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文=井上良太(トネリライナーノーツ 副編集長)
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