「“学級支援員”と“地域の先生”の両輪で子どもに寄り添う」ゆっきぃ先生×スズキミさん 【ダチバナシ 2席目】

ダチバナシ

トネリライナーノーツの地域団体の紹介企画「ダチアダチ」に登場した団体のキーマンが、それぞれに話し手と聞き手を務める対談が「ダチバナシ」です。

2席目となる今回の話し手には、足立区を拠点とする子どもの理科実験・工作・ワークショップラボ「わんだーラボラトリー」 主催の“ゆっきぃ先生”こと和田由紀子さんをお招きしました。また、聞き手は、足立区を拠点とする“ぬいぐるみカフェ”「やわからん’s cafe」や、子ども向けアートイベント・教室「やわらかアートアカデミー」の活動をする“スズキミ”こと鈴木公子さんが務めます。
(取材日:2024年2月26日)

“ゆっきぃ先生”こと和田由紀子さん(左)と、"スズキミ"こと鈴木公子さんとヒラメのカレイちゃん(右)
“ゆっきぃ先生”こと和田由紀子さん(左)と、”スズキミ”こと鈴木公子さん&ヒラメのカレイちゃん(右)

“向き合う”から“寄り添う”へシフトした子どもとの関係

カレイちゃん 今日はアタシもね、ゆっきぃ先生に聞きたいことあるんです。“好きなお寿司”はなんですか?

ゆっきぃ先生 1番好きなのは貝です。赤貝とかつぶ貝とか、帆立も好きです。えんがわも好きですよ。

スズキミさん カレイちゃん、そんな質問じゃないでしょ!

ヒラメのカレイちゃんの質問を聞く和田さん
ヒラメのカレイちゃんの質問を聞く和田さん

スズキミさん 気を取り直して、今日はゆっきぃさんについて、ちょっと深く、普段聞けないようなことも聞いてみようかなと思います。私とゆっきぃさんが出会った場所でもあり、縁を繋ぎとめてくれている「あおぞら作文教室」で対談ができて感慨深いです。

ゆっきぃさんは今、地域で理科の先生をされているんですよね。

ゆっきぃ先生 そうですね、「わんだーラボラトリー」略して「わだラボ」です。理科の探求クラスをしています。

スズキミさん 普段、私は地域で「やわらかアートアカデミー」というアートの先生をやっていて、ゆっきぃさんのように地域の先生をやっている人って私にとっては貴重なので、例えば、クラスの回し方や、「こんな子がいて・・・」と相談をさせてもらえる先輩のような存在なんですよね。

対談は足立区西綾瀬にある「あおぞら作文教室」にて
対談は足立区西綾瀬にある「あおぞら作文教室」にて

スズキミさん そんなゆっきぃさんからの紹介で、足立区西伊興の「にしいこうこども広場」で私が講座を開催したこともありますが、そのご縁でゆっきぃさんの講座のサポートに入らせてもらった時に、子どもたちとの関わり方がすごく素敵だなと思っていました。子どもたちを甘えさせすぎず、リーダーシップもとって、上手くコミュニケーションをとっているのがすごいなと思ったので、そのルーツたるや。ゆっきぃさんは元々、小学校の先生をしていたんですよね?

ゆっきぃ先生 そうですね。埼玉県の小学校で担任をしていました。低学年から高学年まで担任を受け持ったことがあって、子どもが3人生まれたので出たり入ったりですけど約12年間やりましたね。でも、全然いい先生じゃなかったと思います。

スズキミさん なんでいい先生じゃなかったと思うんですか?

ゆっきぃ先生 ホームルームや学校生活などの“学級経営”が難しかったですね。はみ出している子どもたちとうまく関われなかったし、廊下の向こうから「和田、死ね!」と言われたこともあるし。今思うと、押し付けてたなっていうのがいっぱいありますかね。

聞き手のスズキミさんと「やわらかん’s cafe」店長のヒラメのカレイちゃん
聞き手のスズキミさんと「やわらかん’s cafe」店長のヒラメのカレイちゃん

スズキミさん そうなんですね。今は、地域で理科の先生をしながら、小学校の支援員もされてるんですよね?

ゆっきぃ先生 そうです。「学級支援員」と言います。生徒は通常クラスにいる子なんですけど、なかなかクラスに馴染めなかったり、お勉強についていけなかったり、教室に居られなくて外に飛び出してしまう子や、不登校の子たちもいますし、いろんな子たちの支援をしています。

スズキミさん 担任時代に、はみ出してる子とかと上手くコミュニケーションが取れなかったとおしゃっていましたが、あえて今、ちょっと特性を持った子やはみ出し気味の子を支援することに特化しようと思ったのはなぜですか?

ゆっきぃ先生 1つは、働き方の都合が良かったこと。もう1つは、担任時代に「どうやったら上手くコミュニケーションを取って付き合っていけるのかな」って思っていてたので、そういう子たちともう1回やり直せるんだったらやってみたいなと思いました。

話し手のゆっきぃ先生
話し手のゆっきぃ先生

ゆっきぃ先生 担任の時は、子どもたちと“対面”している感じだったんです。上から教えるっていう感じでいたんですけど、今の支援員は、担任の先生が別にいらっしゃるところに入るから、“同じ方を向いている”、“隣で寄り添っている”っていうイメージで支援していますね。その方が圧倒的に面白い、私に合っているなって。

スズキミさん 担任時代に上手くできなかったことを、今改めてやってる感じなんですね。どんなところが面白いですか?

ゆっきぃ先生 子どもと向き合ってる時は、子どもの事を見てるんですけど、子どもと一緒に並んでいる時は、“子どもが見ている世界を一緒に見る”という感じで、「そっか、そういう風に考えてるのか」って見えるところが好きですね。

学級支援員のおもしろさをたずねるスズキミさん
学級支援員のおもしろさをたずねるスズキミさん

ゆっきぃ先生 どうしても担任の時は、1対30で生徒を見るので子どもしか見えてない、子どもと向き合う感じなんですよ。だけど今は、担当している子とその周りの子ぐらいの付き合いになるので、その子の世界がほんとによりクリアにより濃く見えるのが楽しいんですよね。それに、誰かがそばにいる、自分の世界を理解してくれている大人がいるといいよなと思っています。

スズキミさん なるほど。「こういう時に、こう言われたら、こう思うよな」っていうのを、一緒に子どもと心を動かしてるんですね。子どもにとっても、すごい心強いでしょうね。

「The 優等生」だった自分とは異なる価値観の子どもたちと

スズキミさん そんな子どもを支援する立場のゆっきぃさんですけれど、ちょっと気になったのが、ゆっきぃさん自身が子どもの頃ってどんな子だったんですか?

ゆっきぃ先生 めっちゃ優等生でしたね。学級委員だったり、生徒会役員だったり、リレーの選手だったり、音楽会でピアノ弾いたりと、「The 優等生」です。学校が大好きだったんですよね。

子どもの頃のことを話す和田さん
子どもの頃のことを話す和田さん

ゆっきぃ先生 なんで学校が大好きだったかって言うと、その学校に自分の居場所だったり、優越感を感じられる場があったから、小さい頃はそこが全てだと思っていたのでそういう意味で学校が好きでした。また学校に戻りたいなっていう気持ちでいたので、先生になりたいなとも思っていました。

スズキミさん 学校が快適な場所だったんですね。

ゆっきぃ先生 そうなんです。今は快適じゃないと感じている子たちといるんですけど、状況が真逆なので「そういう見方もあるよね」っていうことがよくあります。

例えば、「運動会なんて雨降れ槍降れ!2度と出たくねぇ」とか、「学習発表会でみんなの前に立つなんてとんでもない!1ミリも出たくない」みたいなこととか。私は前に出たい子だったので、「こっち側の世界もあるよね」とすごく世界を広げてもらいました。

和田さんのお話を聞くスズキミさん
和田さんのお話を聞くスズキミさん

スズキミさん そうだったんですね。もしかしたら、ゆっきぃさん自身も学校が辛かったから「気持ちがわかる」という理由で支援を始めたのかと勝手に思っていたら、真逆でした。

ゆっきぃ先生 そうですね。私が子どもの時もいろんな子がいたので、クラスには上手くいかない子もいるということはわかっていたし、担任になった時も、いろんな子がいると頭ではわかってはいたけど、上手くいかなかった子たちと関わって始めて、「どうやっても上手くいかない人たちっているんだな」とちゃんと実感しました。

スズキミさん なるほど、おもしろいです。

それぞれの個性を受け止める“地域の先生”の在り方

スズキミさん ゆっきぃさんは子どもが好きとのことですが、子どもたちのどんなところに魅力を感じますか?

ゆっきぃ先生 子どもたちって、自分の成長に繋がりそうだなって思うことにとことん一生懸命で、大人だったら諦めちゃうようなことも絶対に諦めないんですよね。「やめろ」って言われてもやってるのでそれがすごく面白いかなって思ってます。

それで、できた時のあのキラッと輝く顔がとっても素敵で、あれを見るためにやってるような気がしますね。

地域で理科の先生とアートの先生をするおふたり
地域で先生をするおふたり

ゆっきぃ先生 他にも、子どもって「ごめんね」ってなかなか言わないんですけど、彼らが誰かに言わされてるわけじゃなく自分から「ごめんね」って言うときは、本当に心から思ってるなって。そういう表情とかもすごく好きだなと思います。

子どもは大人ほど語彙力もないし、会話を回せないので、限られた自分の力を最大に使ってくるじゃないですか。そこが好きですね。

スズキミさん 子どもって本当にピュアですよね。表面的にはちょっと悪ぶったりしてても、ピュアなのが伝わって来て、いいなって思うことが私もあります。

大人だとパワーを温存しとこうとか考えても、子どもは関係なくて、常に全力ですしね。

子どもの魅力を話す和田さん
子どもの魅力を話す和田さん

スズキミさん 学校の中でも地域の中でも子どもたちを見てらっしゃいますが、学校で見えた何か問題を、地域で解決するようにやってみることってあるんですか?

ゆっきぃ先生 1人1人の子にフォーカスして寄り添おうと思ってますね。集団で行動・生活して、集団の中で育てるというのが学校だと思うので、学校だと個人に寄り添うようにはしても、子どもたちは集団の中の1人って思っているんですね。学校の中だと、通り一遍というか。

だけど、学校の外はそうじゃないから、集団の中だと埋もれていくところを地域の中では1つずつ救い上げて、拾い上げて、もうちょっと輝かせていきたいなって。「きみのこういう所も好き、こういう所も好き」って。

スズキミさん なるほど、集団だとちょっと公平性というか、みんな平等に接してるみたいなとこがあるけど、地域だとそれが取っ払えるんですね。

地域ではひとりひとりにフォーカスしたいと話す和田さん
地域ではひとりひとりにフォーカスしたいと話す和田さん

ゆっきぃ先生 そうですね。学校の中で認められるための価値観みたいなものが結構集約されてあると思うんですけど、地域だとそんなのは取っ払えますよね。

例えば、学校の中では、“発表するときは大きい声が良い”という価値観かもしれないけど、地域で関わったときには、たとえ小さい声でも、「ちゃんと聞かせてくれるところが好きだよ」とその子に伝えて寄り添えるといいなっていつも思っています。

スズキミさん 素敵です。子どもたちも認めてもらえると安心しますよね。私も地域の先生として、子どもたちの個性を出る杭になるくらい伸ばしていきたいと思うので、一緒に地域を盛り上げて個性を認め続けていきましょう。いつもたくさんの勇気とパワーをありがとうございます。

わんだーラボラトリー

やわらかアートアカデミー
ホームページ
https://sites.google.com/view/yawarakaart/

「ダチバナシ」話し手の和田由紀子さん(左)と、聞き手の“スズキミ”こと鈴木公子さん(右)
「ダチバナシ」話し手の “ゆっきぃ先生” こと和田由紀子さん(左)と、聞き手の“スズキミ”こと鈴木公子さん(右)

話し手=ゆっきぃ先生
トネリライナーノーツ記事
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聞き手=スズキミさん
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編集補佐=しまいしほみ(トネリライナーノーツ 編集者)
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撮影=山本陸(トネリライナーノーツ カメラマン)
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