「足立区の景色をアートに染める。ー“メモリバ”が描くビジョンー」 藤枝怜さん【ガチアダチ サミット episode.4】

ガチアダチ サミット

「トネリライナーノーツ」が毎月第3日曜に足立区千住旭町にある古民家カフェ「路地裏寺子屋rojicoya」で主催しているイベント「オオシマナイト」で実施する公開取材が、「ガチアダチ サミット」です。

「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」事務局の藤枝怜さん
「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」事務局の藤枝怜さん

「ガチアダチ サミット」のepisode.4となる今回は、足立区を拠点に無数のシャボン玉で見慣れたまちを光の風景に変貌させ、現代美術家・大巻伸嗣による記憶を喚起するアートパフォーマンス「Memorial Rebirth 千住(メモリバ)」を主催している「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」事務局の藤枝怜さんに登壇していただいて、「足立区の景色をアートに染める。ー“メモリバ”が描くビジョンー」をテーマにお話を伺いました。聞き手は、トネリライナーノーツ編集長の大島俊映が務めます。
(取材日:2024年9月15日)

シャボン玉で繋ぐ、まちの人たちとの関わり

――自己紹介をよろしくお願いします。

藤枝さん 足立区にアートを通じた新たなコミュニケーションや縁を生み出すことをめざす市民参加型のアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」というところで、「Memorial Rebirth 千住(メモリバ)」というシャボン玉のアートパフォーマンスを実施するチームでスタッフをしております藤枝と申します。よろしくお願いします。

「ガチアダチ サミット」登壇者の藤枝さん(右)と、聞き手の大島(左)
「ガチアダチ サミット」登壇者の藤枝さん(右)と、聞き手の大島(左)

――「音まち千住の縁」と「メモリバ」の説明をいただいてもいいですか?

藤枝さん まず、足立区の行政と「東京藝術大学(藝大)」、地域のNPO団体などが、一緒にまちでできることをやろう、と始まったのが「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」です。

「音まち千住の縁」が2011年度に始まり今年で14年目です。もともと2012年に足立区が区制80周年を迎えるにあたり、まちのプロモーションをすることになりました。まちのプロモーションと言っても、観光客とか区外の人に向けてではなくて、いわゆるインナープロモーションとして「まちの人が、自分のまちに誇りを持つ」ようなプロモーションをするということで、2010年に足立区のシティプロモーション課が作られたんですよね。

その少し前の2006年には「東京藝術大学」が千住キャンパスを設けていたので、シティプロモーション課が立ち上がって、それでアートで新たなまちの魅力を作りたいとの思いから「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」が始まりました。

「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」と「Memorial Rebirth千住(通称:メモリバ)」について話す藤枝さん
「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」と「Memorial Rebirth 千住(通称:メモリバ)」について話す藤枝さん

藤枝さん 活動の背景には、2000年代の特に1桁代の時期に、本当はもう亡くなっているはずなのに戸籍上生きていることになっている人がいて、その家族が年金を不正に受給しているなんていうニュースが全国的に話題になったですよね。あれって実は、最初に大きなニュースになったのが、千住での孤独死だったんです。

当時、僕は千住に住んでいなかったので、住む前のイメージは漠然と「下町とか宿場町とかみたいな雰囲気で、人との交流がすごく活発で、人情が溢れているまち」というイメージを持っていたんですが、実は2000年代の千住というのは隣のおじいちゃんが生きてるかどうかも分からず、意外と人が繋がってるようで繋がってなかった。そこに、「なにかアートの発想を用いて、人が繋がれるような回路を作れないか」というのが「音まち千住の縁」の活動です。

――そこから「メモリバ」が始まったんですか?

藤枝さん そうです。「音まち千住の縁」では大体6つぐらいのプログラムを年間で走らせていて、発足当初から始まったものと途中から始まったものがあるんですけど、「メモリバ」は発足と共に始まった最古参のプログラムです。

無数のシャボン玉で見慣れたまちを光の風景に変貌させ、記憶を喚起するアートパフォーマンスが「Memorial Rebirth 千住(メモリバ)」
無数のシャボン玉で見慣れたまちを光の風景に変貌させ、記憶を喚起するアートパフォーマンスが「Memorial Rebirth 千住(メモリバ)」。この日は会場で特別ワークショップを開催した

藤枝さん Webサイトには「無数のシャボン玉で、見慣れたまちを光の風景に一瞬で変貌させるパフォーマンス」という風に銘打っているんですが、下敷きにあるのは、そのまちの先ほどお伝えした「実は隣の人が…」のような分断の解消みたいなところがミッションにあります。

シャボン玉を作ることを通じて、普段は繋がってない人が出会ったり、生活の中で視界に入ってなかった人が見えるようになったりと、1年間かけて地道に人と繋がっていくような活動をやるのが「メモリバ」の醍醐味であり、中身なんですよね。

――なんでシャボン玉だったんですか?

藤枝さん いくつか僕もこうなんじゃないのかなと想像していることは、“アート”や“藝大”って言われると、油絵とかバイオリンとか敷居が高い感じがするじゃないですか。でも、シャボン玉は小さい頃に誰しもが遊んだ記憶のある遊びで、そういう敷居の高さを感じない素材だったからじゃないか、というのが1つありますね。

――なるほど、うちのお寺も同じような発想から「ゼンガクジ フリー コーヒースタンド」の“フリーコーヒー”を続けています。

付いていく立場からリーダーへ。対話で築くチームマネジメント

――藤枝さんはいつから「音まち千住の縁」で働いてるんですか?

藤枝さん 2018年からですね。「藝大」とは別の大学で日本文学を学んだあと、2018年に「藝大」の大学院生として進学してきたのが活動の始まりで、ただの1人の学生だったんですが、だんだん活動にのめり込んでいってスタッフになりました。なので、今の僕は「藝大」の博士課程の学生であり、この「音まち千住の縁」のスタッフでもある、という二足の草鞋を履きながら活動しているところです。

――なんで「音まち千住の縁」の活動にのめり込んでいったんですか?

藤枝さん なんででしょうね。自分でも今まで言語化したことがなかったですけど、自分自身も千住柳原に今住んでいるんですけど、「メモリバ」の中で活動をしていて楽しかったのと、もう1つは「自分がだんだんとこのまちの住民として溶け込んでいく」というその“はじめのようなもの”を感じて、その2つのキッカケが僕の中であるのかなというふうに思いますね。

「メモリバ」の活動について深堀しました
「メモリバ」の活動について深堀しました

――最初に参加した時の思い出深いエピソードはありますか? 

藤枝さん 参加1年目の自分は、本番を見たことがないくせに、初参加の方に話をしていくことが結構大変でしたね。この「メモリバ」というプログラム自体は“市民参加型”と謳っていて、「普段は仕事と家の往復で忙しくしているけど、ちょっと地域にも興味がある」とか「他の居場所があってもいいかなと思っている、でも、その回路がない」とかみたいな人と出会って、その人に「メモリバ」を紹介して「本番のイベントに参加しないか」という交渉を毎年するんです。

それで、最初に参加した2018年の西新井での「メモリバ」の時、夜の部のパフォーマンスで合唱団を立ち上げたんです。その合唱っていうのが、一般的な分かりやすい合唱ではなくて、「メモリバ」のために作曲家が書いてくれた、よく分からない言葉を発声するような合唱曲だったんですよね。それを、初参加にも関わらず「歌やアートに興味はある。でも、これは合唱なのか?なんなんだ?」という人たちに、その曲について「これはこういうもので」と説明したり「後悔はさせないから」と話したりするのが大変でした。

公開取材「ガチアダチ サミット」に参加してくださったみなさん
公開取材「ガチアダチ サミット」に参加してくださったみなさん

藤枝さん 最初の1年は、先輩たちに付いていくのがやっとだったので、何が楽しくて何が辛いかをあんまり整理できないですけど、大変だったと言われて思い出すのはそのことですね。

――「メモリバ」って基本はシャボン玉のイベントだと思うんですけど、派生したイベントもたくさんありますよね。それはみんなで考えてやっていくんですか?

藤枝さん 主に運営チームで考えるんですが、「メモリバ」の作者でアーティストの大巻伸嗣さんの頭の中には、「藝大」だけでもいけないし、アーティストだけでも、行政だけでもいけないよね、という考えはあります。「どうやって繋がるか、どうやって地域の方に認められていくか」がこのプログラムの課題として最初からあったんですよね。

どういう場所に住んでいる、どういうことを考えている、どういう問題意識を持っている、どういうことに興味がある…。人とどう繋がるかは、内容や場所によっても変わるので、イベントは年によって違いますね。

「メモリバ」メンバーとオオシマナイトの参加者が交流している様子
「メモリバ」メンバーとオオシマナイトの参加者が交流している様子

藤枝さん それと、このプログラムは足立区とも共催しているので、足立区の方に「こういう面白い人がいるよ」と紹介してもらうこともあるんですけど、僕はこの活動に参加して数年が経ってから、だんだん「音まち千住の縁」以外でもまちの人と話す機会ができてきました。そこで、知り合った人に「実は、メモリバっていうのがあってね」とおもむろに言って、それで興味を持ってくれて、というふうに僕と知り合いの関係があって「メモリバ」に繋がるということが、ここ何年かはありますね。

――「メモリバ」に初めて参加された頃のお話をされていましたが、先ほどのシャボン玉ワークショップでは、藤枝さんがリーダーとして引っ張っていると感じたんですけど、役割が変わることで楽しみとかやりがいとか苦労とかはありますか?

藤枝さん そうですね、関わる方がすごく多いプログラムということもあって、やりがいはありますね。「藝大」を卒業したアーティストに「千住でアートプロジェクトをやってきて良かったね」という気持ちもありますし、よくわからないけど巻き込まれちゃったっていう町の方に「楽しかったでしょ!」と言える時もすごくやりがいを感じるし。後輩の10代の学生のメンバーの子たちが活動を通じてすごく大変な思いをして、泣きべそをかきながらも頑張って1個乗り越えたところを見ると、先輩としてよかったなとも思いますね。

「オオシマナイト」に参加してくれる学生と地域活動している方の新たな繫がりがうまれる様子
「オオシマナイト」に参加してくれる学生と地域活動している方の新たな繫がりがうまれる様子

――なるほど。「藝大」の学生と接するときに何か気を付けてることはありますか?

藤枝さん ここに気をつければ大丈夫みたいなのはないですけど、僕が通っていた大学は芸術系ではなく普通の総合大学だったんですけど、「藝大」の学生と一般の大学生は少し物の考え方というか、ものの引っかかり方みたいなのが違う感じはしますね。

僕が前にいた大学は国立の大学で卒業すると良い会社に就職する子も多いから、頭の回転がとても早いのですが、ひねくれた言い方をすると学生のうちから処世術みたいなものを生意気に身につけていて、何か投げかけられて腑に落ちてなかったとしても、分かったような顔をして相づちをするような。

でも、「藝大」に来て思ったのは、自分の中で腑に落ちるまで分かったとは言わない、っていうのはハッキリ違うと思います。だから、こちらも相手の表情とか言葉とかで「あ、このタイミングで腑に落ちたな」と分かるまで一緒に話せるので、すごく楽しいですし、本当に通じたなと感じます。

――それは大きい違いですね。対話を大事にしていますね。

多彩なアートとコミュニティの交流「Memorial Rebirth 千住 2024 舎人公園」の魅力

足立区千住旭町にある古民家カフェ「路地裏寺子屋rojicoya」にて
足立区千住旭町にある古民家カフェ「路地裏寺子屋rojicoya」にて

――「Memorial Rebirth 千住 2024 舎人公園」がある(2024年12月にイベント開催済)と思うんですけど、今回の見どころはどういうところですか?

藤枝さん 今回の見どころは、これまでの会場の中でも1、2を争う広い会場で、しかも、舎人公園は日暮里・舎人ライナーがすぐそばを通っているから、足立区の人だけではなくおそらく日暮里駅を経由していろんな場所から人が来るであろうということで、集客という意味でも、今までよりも規模が倍あるいは3倍ぐらい大きくなる可能性があるので、アーティストも張り切っています。

シャボン玉のマシーンも今までは50台だったんですけど今度はもしかしたら100台近く出るかもしれないので、今までの中で1番ものすごい量のシャボン玉が出て、言葉を失うような絵が見られるんじゃないのかなとすごく楽しみにしているところですね。

――お客さんがイベント参加するにあたって、事前に知っといた方がいいことや準備物はありますか?ふらっと行っていい感じですか?

藤枝さん もちろん、当日にふらっと来てくれるのも大歓迎で、それでもとっても楽しんでいただけるイベントだと思うんですけど、今回も当日見るだけじゃなく、「メモリバ」を一緒につくりたい人のためのスペシャルな学校「メモリバ学校」で事前ワークショッププログラムもスタートします。

シャボン玉ワークショップの様子
オオシマナイトでのシャボン玉ワークショップの様子

藤枝さん イベント当日にオリジナル盆踊りの曲「しゃボンおどり」を歌ったり踊ったりするのを、藝大出身のパフォーマーに丸投げするんじゃなくて、参加者が事前に集まって歌と踊りの練習をして「当日も踊っちゃおうぜ!」っていうワークショップや、当日はみなさん私服で来ると思うんですけど、その私服の上に身につけるアクセサリーを作って、それを衣装としては身に着けて踊りの輪に入る企画もあります。

――なるほど。

藤枝さん それ以外にも、「シャボン玉はどういう仕組みで出来るのか」をテーマに小学生向けの簡単なマシーンを作るワークショップだったり、大人の方向けに「ボランティアとして実際にアーティストのパフォーマンスを支えてみませんか」というようなワークショップをしたりなど、目白押しで準備しています。なので、「メモリバ学校」に参加してシャボン玉ってこういう風な下ごしらえをするんだと1回体験をしていただいた上で、当日に来るのがオススメですね。

――「メモリバ」の情報を追ってけば、当日より前にみなさんと一緒に参加してやれることがたくさんあるんですね。

シャボン玉と子どもたち
シャボン玉と子どもたち

――最後に、「メモリバ」を今後ご自身としてはどういう風にしていきたいなどのビジョンや想いはありますか?

藤枝さん 「メモリバ」実は今年で10回目の本番なので、そういう意味では節目になるだろうなと思っています。

それと、今後はどういう風に活動していくかを今まさに議論中なので、あくまで個人的な見解なんですけど、千住に限らずですが、昔から住んでいる人や、最近住み始めた人、あるいは海外から働きに来ている人など、同じ人間が同じまちに住んでいるはずなのにすれ違ってもお互いに気付かないことは、日常によくあると思うんですよね。そういう人たち同士が、この「メモリバ」に参加してシャボン玉を通じて、「こういう人がいて、こういうまちができてたんだ」と知って、友達が増えてくれたら「メモリバ」としてもとっても嬉しいなと思います。

――繋がりは大事ですよね。今日はありがとうございました。

Memorial Rebirth千住
ホームページ
https://aaasenju3.wixsite.com/mrshabonodori

「ガチアダチ サミット」登壇者の藤枝怜さん(右)と、聞き手の大島俊映(左)

登壇者=藤枝怜さん

聞き手=大島俊映(トネリライナーノーツ編集長)
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/oshima/

編集補佐=しまいしほみ(トネリライナーノーツ 編集者)
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/shimai/

撮影=山本陸(トネリライナーノーツ カメラマン)
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/riku/