日暮里舎人ライナー「西日暮里駅」より徒歩7分にあるフィットネススタジオ「studio景」のオーナートレーナーである、茂木慧太さん。競泳でインカレ優勝やロンドンオリンピック最終選考進出などの実績を残し、現在は太極拳の道を邁進するそんな彼が、その時のインスピレーションで書きたいことを書くのが「もてき式コラム」です。
#10では、「令和の時代、なぜ“伝統武術”なのか?」をテーマに、コラムを寄稿してくれました。
「最新」と「伝統」
「最新」という言葉は、良い響きですよね。時代の先頭を走っている「最も新しい」ものに、憧れを持っている方は多いと思います。特に、昨今の科学技術の進歩の速さは凄まじく、医療やスポーツなどの分野においては、最先端の科学技術を駆使して、素晴らしい成果を出している先生や選手の話を耳にする機会も増えました。
しかし、それとは対極の「伝統」という、長きにわたる歴史の積み重ねの中で継承し続けられたものにも、人は畏怖にも似た尊敬の念を抱く事があります。
僕はこの「伝統」が好きで、現在は太極拳・形意拳(けいいけん)・八卦掌(はっけしょう)という3つの伝統的な中国武術を、師匠の元に弟子入りして真剣に学んでいます。そして、これらの伝統武術を学んで身に付けた、“身体操作法”や“心の在り方”や“目的達成のための考え方”などを、自分のスタジオにトレーニングに来る方の自己実現のために活かしています。
ある時、スタジオで「先生はどうして伝統武術をやっているの?最先端のスポーツ科学には興味はないの?」と聞かれた事があります。これに対する僕の答えは、伝統武術を学び始めた頃から決まっていて、それが今回のテーマである「令和の時代、なぜ“伝統武術”なのか?」に対する答えです。
研究のための「先行研究」
本題に行く前に、僕は最新のスポーツ科学に興味がないわけではありません。むしろ、興味津々で、『月刊Newton』で最先端のスポーツ科学や医療系の特集を組まれていたら、購入して隅から隅まで読みます。では、その興味がある「最新」の方に、なぜ流されないのか。それは、専門学校時代に、論文を書いて学会で発表する、という経験をした事が大きく影響しています。
論文を書くのに、まず必要な事はなにか。それは、「先行研究」をしっかりと調べる事です。
研究は穴を掘る作業に似ています。初めに穴を掘り始めた人がいて、その人が掘り進めた限界で次の世代にバトンタッチして、次の人がまた穴を掘り続けます。やがて、その人も限界がきたら、また次の人、と言う風に脈々と受け継がれる事で、学問としての懐の深さが生まれて、1人だけが掘るよりも深くて大きく、様々な方向に枝分かれした穴(研究)になると思うのです。
したがって、何かを研究する時は、思い付きで始めるのではなく、自分が興味を持った内容と似た事で、すでに研究されている分野があるか(すでに誰かが掘った穴があるか)を探す必要があります。これが、「先行研究」を調べるという事です。これを学生時代に経験できたおかげで、僕は「先行研究」を調べる事の大切さが、身に沁みました。
「伝統」という名の先行研究は奥深い
もうお分かりでしょうか。だから、「伝統」なのです。僕にとって、伝統武術における“身体操作”や“心の在り方”や“目的達成のための考え方”は、最新のスポーツ科学に対する「先行研究」なのです。
「先行研究」をしっかりと体得してからでないと、「最新」の研究には行けない。そんな思いがあり、伝統武術の体得を目指して修行を重ねています。しかし、これがまた奥深いために、やればやるほど自分がまだまだ未熟だと言う事が思い知らされます。
個人的には、「伝統」の世界というのは、多くの修行者が「先行研究」を体得するに至れずに、自身の寿命を迎えてしまうという過酷さの中にあると考えています。しかし、そんな過酷な世界の中で「伝統」を体得して、4000年の中国武術の4001年目をいつの日か切り拓きたいという野望を胸に、僕は日々の稽古に励んでいます。
先人達が長い年月をかけて研究し、試行錯誤して編み出した「先行研究」を全て体得してから、一歩を踏み出したい。僕はそんな風に考えていますが、実際にはこんな難しく考えなくても、「伝統武術」をやれば健康が保たれたり、スポーツなどに活かせる基礎運動能力が上がったり、単純に楽しかったりと、良い事はたくさんあります。
みなさんも、ぜひ一度、人類の長きにわたる研究と試行錯誤の成果である「伝統武術」を体験してみてはいかがでしょうか?
studio景
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文=茂木慧太(トネリライナーノーツ サポーターズ)
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