「善」夜の家族だんらんと昼のお膳 【グルメライナーノーツ vol.2】

グルメライナーノーツ

日暮里舎人ライナー「舎人駅」より 徒歩7分の「善」をご紹介します。この連載は、「トネリライナーノーツ」サポーターズのメンバーが、日暮里舎人ライナー地域を中心とした足立区・荒川区の飲食店の中で、個人的にオススメのお店を紹介する「グルメライナーノーツ」です。

vol.2となる今回は、トネリライナーノーツ編集長の大島俊映が紹介者をつとめます。

夜、街の居酒屋で

善の店先の暖簾
「善」の店先の暖簾

夜、街の居酒屋は、待ち合わせ場所になる。家族と、友人と、お店の人と。

右を見れば、小さな子どもにご飯をあげながら談笑する若い夫婦。左を見れば、地域のなにかの会の集まり。後ろを見れば、カウンター越しに店主と喋る常連客。その光景に、そこかしこの喋り声のBGMと、揚げ物の油の香りが加われば、それは私のよく知っている夜の居酒屋だ。

街の豊かさは、居酒屋の数と種類で決まると言ったら大袈裟だろうか。部屋でYouTubeを見ているより、居酒屋で他人と会っているのに安らぎを感じるのは、私が昭和生まれだからだろうか。

大人が夜に近所の居酒屋へ出かけるのは、子どもが日中に公園に行くのに似ている。話が逸れるけれど、私たちのお寺がある古千谷や隣の舎人からは、多くの公園へ気軽に行ける。広大で緑豊かな舎人公園や、ザリガニ釣りでお馴染みの見沼代親水公園の他、遊具の種類が豊富な公園も、ベンチもなにもない広場の公園もある。子どもたちはその日の気分やその時の流行りで遊ぶ公園を決められるし、なんなら一日のうちに公園をハシゴすることだって出来る。

大人だって、色んな居酒屋に行きたい。気の置けない友人たちとボトルの焼酎をダラダラ飲みたい時もあれば、カウンターで1人サクッと食事を取りたい時だってある。だから、街に居酒屋がいくつもあれば、それはやはり豊かなことだと思う。

そんな風に考える私だから、善がお寺の近所にできたと聞いた時は、本当に喜んだ。

「家族だんらん」の居酒屋

よくよく聞くと、善の店主は地元にある私の母校の小学校出身。学年が一つ上の先輩であるとのこと。

すぐに家族で行った。そして、一発で家族ごとファンになった。お酒の種類が多く、料理も美味しい上に、子どもにも親にもやさしいお店だったからだ。

奥の座敷の空間は広々としている上に清潔感があって、座布団の他に子ども用の椅子の用意もある。トイレも同様で、子どもに付き添うのに十分な広さだ。気兼ねなく家族の時間を過ごせるようにという配慮は、メニューにも表れていて、唐揚げは味のバリエーションが豊富で、フライドポテトは大を注文すると山盛りだ。なによりも、メニューが多いからそれを選ぶ楽しみがあり、そのメニューも季節によって変わるものがあって飽きさせない。

善の店主 馬場善彦さん
「善」の店主 馬場善彦さん

そんな訳で、私自身の善との関わりは、妻と3歳の息子(私の息子は善のことを、親しみを込めて「おぜん」と呼ぶ)を連れて、家族で訪れることが最も多い。ただ他にも、地元の友人たちと飲み会をしたり町会の会合に参加したり、店を貸し切ってイベント後の打ち上げをしたこともある。

子どもが入れない酒場やスナックも好きだけれど、善のような街の居酒屋だって、もちろん好きだ。家族だんらんの場所が、家だけではないと知ることができる。

善の豚の生姜焼き膳

私にとって、善の真価は、夜の家族だんらんだ。しかし、メニューを一つだけ紹介するならば、ここでは敢えてランチの「豚の生姜焼膳」のことを書きたい。

なぜか。答えは、白いご飯にある。

言うまでもなく、ご飯は日本人の主食だ。普通の家庭では、余程のこだわりがなれければ、米を研いで、それを炊飯器で炊くだけ。米(や炊飯器)の品質はあるかもしれないが、丁寧に研いで、適切な量の水で炊けば、基本的には美味しいご飯を食べられる。

そのため、初見の定食屋や弁当屋に行って、万が一にでも美味しくないご飯に当たると、ガッカリしてしまう。ご飯のことを、おかずのおまけなんかと勘違いしてしまっているのではないかと。

善の豚の生姜焼膳
善の豚の生姜焼膳

善のランチで出てくるご飯は、お膳の中の主役だ。特別なお米を使っていたり、こだわりの炊き方をしていたりするかは知らないけれど、米の粒がきちんと立っていて、噛みしめるほどに甘みが口の中で広がっていく。文句なしに美味しいご飯だ。

そして、善のランチの中で、このご飯の美味しさを、さらに一段引き上げるのは、豚の生姜焼膳だと思う。一般的にイメージする生姜焼きは大判一枚の豚肉だが、善のそれは違う。豚のこま切れ肉と同じサイズ切られた玉ねぎが、焼かれているというよりは炒められているような調理だと推測している。

生姜焼きを食べてみると、豚肉と玉ねぎによる食感の違いや、肉の穏やかな脂と生姜の効いたタレが絡まった旨みが楽しめる。そして、すぐに白いご飯が食べたくなるはずだ。人が歩く時に右足と左足を交互に前に出すように、私は生姜焼きとご飯を規則正しく口に運ぶ。散歩するというよりは、駆け足のスピードで。

いつも、生姜焼きよりも先に、ご飯がなくなる。それで、私はご飯のお代わりをお願いする。再び運ばれてくる熱々のご飯が、善の居酒屋としての矜持なのだと思う。

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東京都足立区古千谷本町1-14-35
電話
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文・撮影=大島俊映(トネリライナーノーツ 編集長)
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グルメライナーノーツvol.2執筆者の大島俊映
グルメライナーノーツvol.2執筆者の大島俊映