福島県の古殿町で学ぶ“つながり”と“協働”を活かした町づくり【ローカルプレーヤーの参考書 1ページ目】

ローカルプレーヤーの参考書

足立区綾瀬のコミュニティスペース「あやせのえんがわ」運営者であり、「トネリライナーノーツ」コミュニティ部副編集長として、“ゆるいつながり”を愛する森川公介が、ヒト・モノ・コトの視点から地域住民の協働やワクワクを伝えるのが「ローカルプレーヤーの参考書」です。

1ページ目は、福島県の南東部にある古殿町で学んできたことを届けます。もし「SNSの誤フォローから始まるグッドエピソード大賞」があったら、今回のエピソードはかなり上位に入るはずです。

足立区綾瀬のコミュニティスペース「あやせのえんがわ」運営者で、「トネリライナーノーツ」コミュニティ部副編集長の森川公介
足立区綾瀬のコミュニティスペース「あやせのえんがわ」運営者で、「トネリライナーノーツ」コミュニティ部副編集長の森川公介

はじまりは“勘違い”から

2021年4月。私は「合同会社えんがわ」を起業して、地域の居場所「あやせのえんがわ」を立ち上げるために、Instagramのアカウントを開設しました。

「駄菓子屋 かしづき」のイベントでの一コマ
「駄菓子屋 かしづき」のイベントでの一コマ

ちょうどその頃、「あやせのえんがわ」の近くでは、子どもの保健室的な居場所として「駄菓子屋 かしづき」が始まりました。「駄菓子屋 かしづき」を運営する佐々木隆紘さん・明日香さんご夫婦とは、今でこそとても親しいですが、その時はまだゆっくり話したこともなく、ただ、奥さまが子どもの足育について講座をしていることは知っていました。

そんな中、私が慣れないインスタを動かしていると、AIによる私へのおすすめアカウントで足育関連のアカウントが出てきたので、「あっ、これはかしづきの佐々木さんの奥さんだ」と即フォロー。

しかし翌日、そのおすすめアカウントに、「駄菓子屋 かしづき」の佐々木さんの奥さんのアカウントが表示されていました。つまり、前日にフォローした方は、全く知らない人だったのです(笑)よくあることなのかもしれませんが、私はとても恥ずかしくなり、でもフォローを外すのも変だし、そのまま放置しました。

「駄菓子屋 かしづき」のイベントでの一コマ
「駄菓子屋 かしづき」のイベントでの一コマ

それから数ヶ月が経った日のこと、その誤フォローの人が新しいアカウントを作り、そのアカウントでも改めて「あやせのえんがわ」をフォローしてくれました。投稿内容も、足育から染め物中心に変わっていて、福島県に住んでいることがわかりました。野菜の皮などから、素敵な染め物のワークショップを行っていました。

そのまた数か月後、私がインスタのある機能の使い方がわからないとストーリーズに投稿したところ、その方がダイレクトメッセージをくださり、そのインスタの機能の使い方を教えてくれました。そして、お互いがお互いの投稿をよく読んでいたこともそこでわかりました。

その方が「古殿町地域おこし協力隊の吉田さん」という方だと知ったのは、このやり取りの時です。吉田さんの出身は福島ですが、長く東京に住んでいて、2年前に古殿へ移住しました。移住のキッカケになったのは、以前に“フルドノタイム”(後述します)に参加したから、とのこと。

「こぢんまり商店」の商品を販売する様子
「こぢんまり商店」の商品を販売する様子

そんな吉田さんとの初対面は、突然やってきました。2023年1月、たまたま東京へ来ていた吉田さんが、わざわざ「あやせのえんがわ」を訪ねてくれたのです。これには本当に驚きました。いくら偶然とはいえ、福島県からわざわざ綾瀬に。なんと嬉しいことでしょう。

その時に「あやせのえんがわ」では、人と街をゆるくつなげる住民主体のプロジェクト「アヤセしみじみ会」が主催で、住民が集うフリーコーヒースタンドのイベントを開催中でした。初回のイベントだったのでバタバタしていて、吉田さんとゆっくりお話できなかったのですが、彼女から「私の住む古殿町はとてもよい町ですが、福島県の中では知名度の低い町なのです」と聞いて、私の中ではトキメキのようなものを感じました。

だから、「いつか古殿にも遊びに行きます」と約束しました。

足立区と古殿町の共通点

今から書くことは、友人などに何度も話していますが、「森川さん、そりゃ全然違うよ」とか、「足立区と一緒にしたら、古殿の人に失礼だよ」などと笑われることも多く、確かに強引なこじつけかもしれません。

イベントで談笑する様子
イベントで談笑する様子

足立区というのは、とてもよい町です。魅力あふれる人々や地域活動、広い公園などなど。長く住んでいて、愛着もあります。私は今、足立区で“いとおしい暮らし”を作るために事業を営んでいます。

しかしながら、この町は過去のさまざまな出来事から、長くマイナスイメージを引きずっています。確かに、約25年前の綾瀬駅前はナンパ待ちの車で行列ができ、東急ストアの通路はラジカセを持ったダンサーがいて、かなりファンキーな町であったことに間違いありません。メディアで治安が悪いとネタでいじられるのは別にいいのですが、住民としてマイナスイメージが続くことは、これからこの町で住み続けることにおいて、もちろんいい効果は生みませんし、わかりやすく言うと「なんかおもしろくない」という気持ちです。

古殿町の観光ガイドマップ
古殿町の観光ガイドマップ

そんな想いでいる中で、初対面の時の吉田さんの言葉である「古殿町はとてもよい町ですが、福島県の中では知名度の低い町なのです」は、何となく親近感が湧きました。

「よい町なのに!」

マイナスイメージを引きずる足立区と知名度の低い古殿町の共通点は、“知られていない事”です。確かに全然違うのですが、「よい町ということがまだまだ知られていない」という点は、同じような課題であると感じます。

「別によい町と認知されなくてもいい」という意見もあるかもしれませんが、広域に見れば日本全国のよい町がより多く認知されれば肯定感が高まり、周りの町も相乗効果でどんどん良くなっていって、もしかしたら地域課題や社会課題の解決にもつながっていく、なんて寝言のようなことを言ってみます。

地域資源を生かした体験プログラム「フルドノタイム」

さて、そんな古殿町にいつ・どんなタイミングで行くか。そんな悩みも吹き飛ぶ情報が、古殿町からリリースされたのです。その名も「フルドノタイム」です。

フルドノタイムとは、古殿町の地域資源を生かした「地域体験プログラム」です。

“古殿町で楽しい時間を過ごして欲しい”

そんな思いから「フルドノタイム」と名付けました。

魅力的な「モノ」・「ヒト」・「コト」がある古殿町。

でも、地元の人にも意外と知られていないことが、実はたくさんあります。

体験プログラムを通して、町外から訪れた方にまちの魅力を知ってもらうのはもちろん、このまちに住んでいる方にも地域資源の豊かさを再発見してほしい。

そんな風に思っています。

案内人はこのまちに住む住民の方々。

古殿町ならではの27の体験プログラムをご用意して皆様をお待ちしております。

フルドノタイム」ホームページより
「フルドノタイム」のポスター
「フルドノタイム」のポスター

なんと素晴らしい取り組みなのでしょう。もちろん、知らない町のリリースであれば、「なるほどね」で終わるかもしれませんが、吉田さんのメッセージやインスタの投稿と併せて見てみると、これはもう「行くしかない」と感じました。

4歳の息子が長時間の移動に耐えられるか?いきなり行ったら変な感じにならないか?さまざまな不安はあったものの、気が付いたら旅館を予約していました。そして当日、新幹線で郡山まで行き、そこから電車とバスを乗り継いで、古殿町へいってきました。

宿泊した旅館
宿泊した旅館

「フルドノタイム」には27のプログラムがありましたが、今回は私の目当てである吉田さんが講師の染め物ワークショップ「染めてみっかい」に参加しました。

染料は何と、玉ねぎの皮!道の駅などで販売される玉ねぎの廃棄される皮を鍋でグツグツと煮出して色を出していきます。染め物って本当に奥深いです。模様作りも日常的に使うあんなものやこんなもので、予想できないような形になりました。染め物、楽しい!

ワークショップ「染めてみっかい」で森川が染めた手ぬぐい
ワークショップ「染めてみっかい」で森川が染めた手ぬぐい

私たちは、日常でシャツなどが色褪せてくると捨てることが多いですが、染め直せるならまだまだ着れます。染め物の可能性を感じました。

まちを想う、人を想う、古殿町ローカルプレイヤーとの出会い

ワークショップの後、草木染めのワークショップ会場となった古殿町のコミュニティスペース「多世代交流スペースつなやさんち」を運営している渡邉さんとお会いしたら、福祉畑の方で驚きました。つまり、私と同じ福祉や介護の文脈で、コミュニティスペースを運営されているのです。渡邉さんは、社会福祉士であり、ケアマネジャーでもあります。

お話を伺って、共感しかありませんでした。「多世代交流スペースつなやさんち」では、すぐそばでマルシェ運営をしていたり、裏ではこれからコミュニティガーデンも開かれるそうで、この日は竹からコンポスト作りをしていました。

「多世代交流スペースつなやさんち」 のコンポストづくり
「多世代交流スペースつなやさんち」 のコンポストづくり

そして、この日の宴の場となった「ふるさと工房おざわふぁ~む」では、初対面でも気さくに接してくださる小澤さんに、羊牧場や管理している田んぼを山の上から見せていただきました。他にも、ブドウや大豆などいろいろな野菜を生産されています。

「ふるさと工房おざわふぁ~む」の田んぼ
「ふるさと工房おざわふぁ~む」の田んぼ

「ふるさと工房おざわふぁ~む」の囲炉裏を囲むように座っていたのは、小澤さん、小澤さんのお母さま、「豊国酒造」の矢内さん、「焼菓子raramie」の佐川さん、「豆洋裁店」の野崎さん、町役場の産業振興課の職員さん、そしてもちろん、「古殿町地域おこし協力隊」の吉田さん。

「ふるさと工房おざわふぁ~む」の囲炉裏とおもてなし
「ふるさと工房おざわふぁ~む」の囲炉裏とおもてなし

小澤さんのお母さまが郷土料理を振舞ってくださり、小澤さんは米粉ピザを焼いてくださり、その小澤さんが作ったお米で作られた日本酒「一歩己(いぶき)」を「豊国酒造」の矢内さんからいただきました。これまた美味で、こんな日本酒なかなか呑めないなぁと贅沢な時間を過ごしました。

他にも、ごぼっ葉の凍み餅や、太巻きの周りにカステラを巻く「カステラ巻き」もいただきました。こんな美味しい郷土料理があるのは…町から離れられなくなります。とても幸せな時間でした。

「豊国酒造」の日本酒
「豊国酒造」の日本酒

古殿流のおもてなしをしていただいた上、町のキーマンだらけの中で、地域に対する熱い対話の場、興奮の連続でした。町のお話もたくさん聴かせていただきました。例えば、学校の職場体験、これがまたとても熱い。確かにまちづくりとは、ここから始まるのかもしれないなと思いました。

“いとおしい暮らし”を見据えたこれからの課題

「多世代交流スペースつなやさんち」の渡邉さんが、以前はお隣さんとはほとんど話す機会がなかったと仰っていましたが、今の古殿町は市民が協力をしあって、新たな集いの場や共同の機会を作っています。

「フルドノタイム」の旗
「フルドノタイム」の旗

町のあちらこちらでワークショップを行う、という企画は、もしかしたら珍しいものではないかもしれませんが、「フルドノタイム」はそこに住民の得意を持ち寄る、つまり「住民の関わる余白があること」が大きなポイントであると思います。それに加えて、その1人1人のストーリーを大切にしていて、ワークショップの中にはコラボもいくつかあったそうです。

「フルドノタイム」によって新しい「つながり」と「協働」が創造されていくのです。

もちろん、古殿町役場の産業振興課も、この活動をバックアップしています。町の良さを認知してもらう取り組みを官民一体で行う古殿の協働力は、ただ単にテクニックやノウハウだけではなく、具体的なこうなりたいという姿がみんなで共有されていて、自分たちのできることで力を合わせています。これは、コミュニティでもありアソシエーションでもあり、大きな可能性があると思います。

イベントで協働する様子
イベントで協働する様子

「あやせのえんがわ」は、今まで地域の中で「ゆるいつながり」を大切にしてきました。しかし、その先にあるのは「ゆるい協働」なのではないかと考えます。「ゆるい協働」というと、なあなあな、いい加減な協働のように見られますが、そうではありません。

「ゆるい協働」でも、みんながこうなりたいという姿を具体的にイメージし、想いを共有することは必要です。ただ、それに向かって無理はしない。自分のできることとあなたのできることで協働する。そして、義務や強制みたいなものをできるだけ減らして、関わる余白を増やす。見た目には違いがわからないでしょうが、心の中の情熱は段違いでしょう。

失敗はするかもしれない。でも後悔はしない。これが「ゆるい協働」です。今回、私は「フルドノタイム」でそのことを学びました。

ゆるい町交流のはじまり

「トネリライナーノーツ」編集長の大島さんと私が組んで場を作っている地域マルシェ「ぜんがくじのえんがわ」を5月21日に開催した際、今回の出会いから、古殿町の「焼菓子raramie」さんと「豆洋裁店」さんの品を販売しました。

「ぜんがくじのえんがわ」で販売された「豆洋裁店」の商品
「ぜんがくじのえんがわ」で販売された「豆洋裁店」の商品

お二方とも、今回の販売について二つ返事で了承してくださり、吉田さんからは「古殿を東京に連れていってくれてありがとう」とメッセージが届きました。「東京といっても足立区なんで…」と返信すると、「足立区大好きです!」と返ってきました。「ゆるい町交流」のはじまりです。

また行きます、古殿町へ。

あやせのえんがわ
ホームページ
https://ayasenoengawa.jimdosite.com/

「あやせのえんがわ」店主、「トネリライナーノーツ」コミュニティ部副編集長の森川公介
「あやせのえんがわ」運営者で、「トネリライナーノーツ」コミュニティ部副編集長の森川公介

文=森川公介(トネリライナーノーツ 副編集長)
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/morikawa/