日暮里舎人ライナー「西日暮里駅」より徒歩7分にあるフィットネススタジオ「studio景」のオーナートレーナーである、茂木慧太さん。競泳でインカレ優勝やロンドンオリンピック最終選考進出などの実績を残し、現在は太極拳の道を邁進するそんな彼が、その時のインスピレーションで書きたいことを書くのが「もてき式コラム」です。
#1では、「昨日の我に今日は勝つべし」をテーマに、コラムを寄稿してくれました。
こんにちは。これからトネリライナーノーツで連載させて頂く、西日暮里にある「studio景」の茂木慧太(もてきけいた)と申します。
僕は物心がつく前からずっと水泳をやってきました。喘息気味だった僕に母が「水泳をやると小児喘息に良い」と聞きつけてきて、当時近所にできたばかりのスイミングスクールに通い始めたのがスタートです。決して順風満帆ではありませんでしたが、山あり谷ありの選手生活では、高校生の時にはインターハイ3位入賞、国民体育大会で準優勝、大学生で2度の全国大会優勝の成績を残しました。
競泳からの引退
オリンピックを目指してプロの水泳選手になろうかなと考えていた矢先に、肺に穴が開く「自然気胸」という病気に罹ってしまいその道を断念しました。 20年以上1度も休む事なく続けて、オリンピックを目指す程に本気で取り組んでいた水泳の引退を決めたのは、自分の意思ではなく主治医の先生でした。
「毎日の過酷な練習にこの肺では耐えられないよ。残念だけどもう競泳の選手は引退だね」
それまで人生の全てを賭けて極めようとしていた水泳の競技生活が、自分自身の意思ではなく、病魔という「天命」によってあっさりと幕を下ろされた瞬間でした。
それでも主治医の先生に無理を言って、最後のインターカレッジ(大学生の日本一を決める試合)と、群馬県代表として内定を頂いていた国民体育大会の2試合だけは、出場許可を頂きました。しかし、2ヶ月に及ぶ入院生活で体重は5kgほど落ちてスタミナもなく、右の肺は上部を切除して血清で作ったシートを被せてあったのでまともな呼吸は左の肺でしかできない様な満身創痍の状態で 仲間に助けられつつリハビリをして、選手のメニューとは言えないような軽い練習メニューをこなして、水泳人生にピリオドを打つ引退試合に出場しました。
引退試合の結果は800mリレーで3位入賞する事ができて、はた目には上出来すぎるような幕引きにはなったのですが、リレーのアンカーとして選抜していただいたのにも関わらず、僕が2人に抜かれての3位だったので悔しさと申し訳なさが今も鮮明に湧き上がってくるほろ苦い引退レースになりました。
思い描いていた引退レースと現実のそれとのギャップに打ちひしがれ 「人生は思い通りにならない」 という事を心の底から痛感しました。この時から仏教の「諸行無常」の考え方や、老子・荘子をはじめとする東洋哲学の考え方に興味を持つようになり、本を買ったりテレビ番組を録画したりして独学で勉強をはじめました。そのおかげで数々のお気に入りの言葉や、目から鱗が落ちて自分の価値観が一変するような考え方を学ぶ事ができたのですが、現役を引退した直後、心にポッカリと空いた穴を埋めてくれた言葉が今回のタイトルの 「昨日の我に今日は勝つべし」という言葉です。
「昨日の我に今日は勝つべし」
この言葉は、徳川家康から始まる徳川将軍家に剣術を教えていた柳生宗矩という剣の達人が残したと言われている名言です。
僕は競泳選手という結果だけが全ての超競争社会の中に身を置きながら、「絶対に1番になってやる!!」という強い競争心があまりない選手でした。小学生の時のコーチからも「お前は優しすぎる。蹴落としてでも俺が絶対に1番になる!という気迫が足りない」と怒られたほどです。けれども、「絶対に相手に勝つぞ!」と思ってレースをすると全くうまくいかず、「昔の自分に勝つぞ!」とかつての自分のタイムを越えようと思ってレースをした方がリラックスして臨めて、結果としてタイムも速くて順位も良かったのです。調子が良いと思っていた試合は、知らず知らずのうちに「昨日の我に今日は勝つべし」の心持ちで挑めている時でした。
はじめてこの言葉に出会った時、「これかぁー!!ベストタイムを出した試合の時はこの心境だった!」とすごく親近感を覚えると同時に、「現役の時にこの言葉と出会っていたらもっと良いレースがたくさんできたのに!」という少し悔しい気持ちにもなりました。トップアスリートになればなるほど技術の差や力の差は微々たるものになってきて、メンタルが勝敗を決める大きな要因になります。そんな時にこの言葉に出会って毎日のトレーニングをそんな心境でこなして試合に出ていたらきっと結果はもっと良かっただろうと思いました。
まあ、過去への振り返りは未練の元。過去より今。僕は今現在も、「昨日の我に今日は勝つべし」を胸に毎日を過ごしています。
「昨日よりも卵が上手に割れるようになった」
「昨日よりも名字の茂木の木の字の最後のはらいがカッコよく書けた」
「昨日よりも片足立ちでフラフラしなくなった」
ほんの少しの事でも些細な事でも良いので昨日の自分よりも今日の自分の方が優っていると思える事。これが大人になってからも日々の成長の実感につながり、更には自己肯定感の向上にもつながって、自信がついてくるのではないかと思います。
達人への道も一歩目は小さくて、微かな歩みだと僕は思っています。しかし、小さな歩みでも絶やす事なく毎日地道に積み重ねていく事で、遥かなる高みへと到達できるのではないでしょうか。そんな事を夢見つつ、今日も昨日の自分への小さな「勝ち」を地道に続けています。
20年以上も水泳を続けて、現在は遥かなる歴史を持つ中国武術を学ぶ中で「大器晩成」という言葉の重みを身にしみて感じています。
あっという間に作れてしまう器は、すぐに水が漏れるし少しの衝撃で簡単に壊れてしまいます。新型コロナウイルスの流行などで先行きが不透明な時期ですが、じっくりと時間をかけて練り上げた器はちょっとやそっとでは壊れません。これから先、さらに大変な事が起こったとしても壊れないような器になるようにコツコツと昨日の自分に勝ち続けて行きたいと思います。
拙い文章に最後までお付き合い頂きありがとうございました。今後も定期的に連載して参りますので、冷やかしがてら見て頂けると幸いです。
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