「SNS時代に、靴磨きで世界一周の冒険譚を描く」佐原総将さん 【のりかえライナーノーツ 5本目】

のりかえライナーノーツ

足立区・荒川区の“外側”で活動している人に話を聞いて、そこから地域活動の学びを得る連載が「のりかえライナーノーツ」です。

今回の5本目では、靴磨き世界一周の旅に挑戦する“靴磨きトラベラー”の佐原総将さんにお話を伺いました。聞き手は、「靴磨き世界一周 ヨーロッパ編 報告会全国ツアー2024 in東京」の主催者で、トネリライナーノーツの地域団体の紹介企画「ダチアダチ」でも紹介した足立区江北にある印刷会社「安心堂」代表取締役の丸山有子さんが務めます。
(取材日:2023年12月13日)

“靴磨きトラベラー”の佐原総将さん
“靴磨きトラベラー”の佐原総将さん

佐原総将さんのプロフィール

総将さんは靴磨きブランド「Sosho LAND」を会社を辞めた翌日に立ち上げ
総将さんは靴磨きブランド「Sosho LAND」を会社を辞めた翌日に立ち上げ
  • 靴磨きトラベラー

1994年、大阪府生まれ。勤めていた会社を退社した翌日の2019年9月1日に、自らの靴磨きブランド「Sosho LAND」を立ち上げて、同日のYouTubeでの初投稿で“靴磨きで旅をする”ことを宣言。2019年10月から同年12月まで「靴磨き日本一周 ヒッチハイク旅」を、2021年4月から12月まで「靴磨き日本一周 ママチャリ旅」を行う。

2022年4月からは「世界を足元から輝かせる」をモットーに、靴磨き世界一周の旅への挑戦をスタート。靴磨きをして得た報酬で生活をしながら旅を続け、2023年1月まではアジア10ヶ国を、2023年4月から12月まではヨーロッパ12ヶ国を訪れた。

2024年1月から4月まで、靴磨き世界一周の活動報告会(ヨーロッパ編)を全国15ヶ所で開催予定。そして、その後はアフリカへの旅をスタートする。

路上で靴磨きをスタート。“靴磨きトラベラー”の原点

総将さん(右)と、聞き手の丸山有子さん(左) 取材は安心堂にて
総将さん(右)と、聞き手の丸山有子さん(左) 取材は安心堂にて

丸山さん 総将くんが“靴磨きトラベラー”になったキッカケはどんなことから?

総将さん 子どもの頃から世界一周することが夢だったんですが、調べれば調べるほどお金がかかるなと分かったので、それなら働きながら旅をしようと思って、「世界中でできる仕事って、なんだろう?」って考えました。それで、靴は世界中のみんなが履いているから、靴磨きセットがあれば「靴磨きで稼いだお金を旅の資金にできるんじゃないか」と“靴磨きトラベラー”を思いついたんです。

最初は小銭稼ぎのつもりで始めた靴磨きだったんですけど、学んでいくうちにすごく好きになったので、今では手段が目的へと変わって、靴磨き職人として「世界を足元から輝かせよう」をモットーにしています。

「Sosho LAND」の屋号は、エンターテイメント性が好きだった「レゴランド」から
「Sosho LAND」の屋号は、エンターテイメント性が好きだった「レゴランド」から

丸山さん 当初に1つの手段として「靴磨きのお金で旅をする」と決めた時に、これでやっていけるなと思えるまでに、どれぐらいの時間がかかったの?

総将さん 靴磨きを始めてから、2日目で思いましたね。僕のビジョンを語った時に、ほとんどの人に「靴磨きで世界一周ってできるの」とか「今はそんなに路上で靴磨きはしてない」とかを言われて。でも、日本で靴を履いてる人がこれだけいるのに、路上で靴磨きをやっている人がいないのはブルーオーシャンだと考えていました。

ただ、1日10足くらいは磨けるだろうって思っていたのに、靴磨きを始めた日の2019年9月1日は、実は1人も磨かせてくれる人がいなかったんです。「うわっ、これはさすがに失敗したな」ってその日は思いました。それでも、もう会社を辞めているし、SNSでも「靴磨きで世界一周します」って宣言していたので、9月2日も「もう行くしかない」と重い腰を上げて、前日と同じように路上靴磨きに行ったんです。

路上での靴磨きを始めた時のことについて話す佐原さん
路上での靴磨きを始めた時のことについて話す総将さん

総将さん 路上靴磨き2日目のその日、最後の最後までずっと粘っていたら「この靴、磨いてくれますか?」とお願いしてくれた人がいて。当時は靴磨きの知識がほとんどない状態でやったんですけど、靴を磨いた後に「明日からも頑張れそうです、ありがとう」と言われて、千円をいただいたんですよ。初めて「Sosho LAND」というブランドの中でお金をいただいたことがすごく嬉しかったし、「靴を磨いたら喜んでもらえる」とその1人目のお客さんで確信して、靴を磨かせてもらえる工夫をすればやっていけるなと思いました。

丸山さん すごいな。YouTubeにたくさんの動画をアップしているけど、最初から“靴磨きトラベラー”としてエンターテインメント性を持たせようかなと思っていたの?

総将さん エンターテインメント性を意識してSNSを始めたのかというとそうではなくて、ただただバズりたいからでした。“靴磨きトラベラー”って未だにやっている人が少ないですし、歴史を調べても靴磨きで世界一周したっていう人がいないから、めっちゃバズると思ったんですよね。

だから、フォロワーが「増えたらいいな」じゃなくて、「増えるだろう」と思って、路上靴磨きを始めたその日から、YouTube・Instagram・Facebookも始めました。そうしたら、全然バズらなかったです(笑)

総将さんの活動の発信について聞く丸山さん
総将さんの活動の発信について聞く丸山さん

総将さん ただ、結果的にはバズらなかったけど、今でもSNSの投稿を続けていて、まだ1足も靴を磨いてない時からの記録が残っているというのは、SNSを始めて良かったことの1つです。

丸山さん YouTubeの最初は、すごく薄暗い部屋の動画(下記参照)だったよね。でも、総将くんは私が初めてハマったYouTuberだから、頑張っている姿をずっと追いかけて見ていた。

頑張っている姿を撮るために、頑張っているところが好きなんだよね。カメラワークを色々変えてみるところが垣間見えたり、自転車で走る大変そうな姿を撮ったり、今起きましたみたいな動画をわざわざ撮ったりするところとか、わざとな感じが分かるじゃん(笑)

それでも、見てる人のために、どんなに疲れていようが努力をできる人って本当にすごいなと思うから、どんどんハマっていったんだよね。

想定外はネタに、視野は広く。“地球での旅”を楽しむ考え方

丸山さんの質問を真剣に聞く総将さん
丸山さんの質問を真剣に聞く総将さん

丸山さん 靴磨きをしながら旅する中でいろんな人と出会ってきたと思うけど、ちょっとしんどいなと思った時に、投げ出さずに続けようと思えるモチベーションの保ち方ってある?なんで、続けていこうと思えるんだろう?

総将さん しんどい時や疲れを感じる時もあるんですけど、やっぱり“靴磨きトラベラー”という活動自体が好きで、旅を通じて出会った人たちが「あいつ、今はどこにいるんだろうな」とSNSを見てアクションをしてくれるのが、すごく僕の力になっているなと思いますね。本当にしんどいなって思ってる時に、コメントをしてくれたり、僕のことを気にしてくれたり。

特に外国にいると、1人も日本人のいないところでこの活動をやってるので、SNSのいいねやシェアは「見てくれてる人がいるんだ」と分かって、すごい力になっています。

モチベーションの保ち方を聞く丸山さん
モチベーションの保ち方を聞く丸山さん

丸山さん なるほど。SNSで発信することによって、今まで知られてない人たちに知られるキッカケにもどんどんなっていくじゃない。私は結構そういうのが怖いなって思っちゃう部分もあるんだけど、そういうのは全然ない?

総将さん 今はないですけど、正直めっちゃ叩かれることもあるし、最初の頃はよくこんな汚い言葉が使えるなっていうDMもありました。だけど、「ただでは転ばんぞ」と思って、そういうのもネタにしようって思っています。そういうことがあったっていうのをSNSに発信するんじゃなくて、僕は笑いに昇華するようにネタとして話して、笑ってもらえたらいいやって。

「出来事は変えられないけど、見方は変えられる」と思っています。例えば、つらいことがあった時に、その時は当然つらいけれど、日本に帰って友人たちと一緒にご飯を食べている時にこの話をしたらウケるだろうな、と考えています。だから、つらい出来事があっても、できるだけ面白がってもらえるようなネタにしたいと心がけていますね。

「SNSで叩かれてもネタにします」と笑う
「SNSで叩かれてもネタにします」と笑う

丸山さん 生きていると自分の意志とは関係なく悪い出来事が起きてしまうことは必ずあるけど、総将くんには自分の解釈や捉え方を良い方に持っていく力があるんだね。どう捉えるかで人生っていくらでも変えられることを、私も伝えていきたいな。

総将さん そうですね。予定調和にならない人生だからこそ、死んだ時にあの世で話題にできるんじゃないかなって思っているので、もし今うまくいってない人や悩んでいる人がいたら、「それって、死んだ時のネタになるんじゃない?」と伝えたいです。

「靴磨きで世界一周はどうだった?」ともし聞かれた時に、「予定通りに行けて良かったわ」というのが面白いのかといったら、僕はそうじゃなくて。順調には行かない予定調和の向こう側に、面白い物語とか、良い出会いとか、忘れられない思い出とか、それこそ冥途の土産とかがあるんじゃないかなって思ってるんです。でも、それって、地球にいるみんながそうなんじゃないかな。

「予定調和の向こう側に面白い物語があるんじゃないか」と話す総将さん
「予定調和の向こう側に面白い物語があるんじゃないか」と話す総将さん

総将さん 自分の座右の銘でもあるんですけど、「地球に何しに来たん?」って、自分自身によく問いかけていて。今、靴磨きで世界を周っていますが、それがいつか終わったとしても、旅が終わったとは思ってなくて、もっと広い視野で見たら「地球に旅をしに来たんじゃないかな」って思うんですよね。

だから、有子さんも報告会に来てくれた子どもたちもみんなが旅人に見えるし、それぞれが地球を旅しながらアトラクションを楽しんでいるんだろうな、って感じています。

丸山さん 素晴らしいね。

応援してくれる人たちに伝えたい想い。そして、“2人の絆”で報告会へ

靴磨きトラベラーとして楽しみそこでの出会いを大切にする佐原さん
“靴磨きトラベラー”として出会いを大切にする総将さん

丸山さん 靴磨きで世界を旅する活動を通して、なにかを伝えたいという想いはある?

総将さん 僕は世界のリアルな状況を伝えたいとか、誰かに学んでほしいというのは全く思っていなくて、僕に関わってくれた人たちや応援してくれる人たちに、自分が経験したことを物語として届けたいなと思っています。

それで、ただただ笑う人がいてもいいし、一緒に悲しんでくれる人がいてもいい。トラブルがあった時に笑い飛ばしてくれたり、「私はこういう風にしないようにしよう」と学んでくれたりすると嬉しいなって思います。みんなの代表として、世界一周をしているような感じです。

総将さんが応援してくれる人たちへの想いを語っていく
総将さんが応援してくれる人たちへの想いを語っていく

丸山さん 旅を応援してくれているみなさんへの感謝はもちろんあると思うんだけど、私も2人の娘の母親だから聞きたいのが、総将くんが世界を旅することを見守ってくれている両親や家族への想いもあれば。

総将さん 1億回以上「ありがとう」と言っても足りないくらい、感謝しています。こんな意味不明な活動を応援してくれてる僕の両親も、結構頭がイカれているなとも思いますね(笑)

「佐原家の長男として―」と子どもの時から言われていたこともあって、親戚からは大反対だったんです。僕は自身を靴磨き職人だと思っているんですけど、「職にもつかないで―」と言われて職業にもカウントされてなかったぐらいで。また、僕以上に両親は周りからいろいろと言われたはずです。実家がお店を営んでいることもあって、親戚や小さい頃から知っている常連さんも僕のことを気にして、「あいつ、コロナ渦にまだそんなことをやっているの」と。

そんな中でも、僕がやりたいことを今も自由にやらせてくれて、すごくありがたいですね。親の反対を振り切ってまでやるのはリスクもあると思いますし、やりたい事に100%向き合えないと思います。100%応援してくれている1番の応援者なので、「本当にありがとう」と伝えたいです。

出会った当時の話でも盛り上がる2人
出会った当時の話でも盛り上がる2人

総将さん それと、家族にもう1つメッセージを伝えるとしたら、「あと4年待ってくれ!もうちょっとだけ、コーナーのロープ際でガードを固めてくれ」ということですかね(笑)4年後ぐらいには、僕の活動を反対していた人たちに、「どやっ」と反撃できるくらい面白い物語を作って帰ってきて、他人から求められるような人間になるから。そう伝えたいですね。

丸山さん じゃあ、お父さん、お母さん、家族のみなさんに、少しでも「見守っていてよかった」って思ってもらえるように、報告会の東京会場を満席にできるように私も頑張るので、一緒に頑張りましょう。

総将さんが取材に同席したトネリライナーノーツ編集長の大島の靴を磨いている様子
取材に同席したトネリライナーノーツ編集長の大島の靴を、総将さんが磨いている様子

――総将さんは「靴磨き日本一周 ママチャリ旅」の最中に行ったライブ配信をキッカケに丸山さんと知り合われて、これまでに親交を深めてきたと思うのですが、今回4月に東京で開催する「靴磨き世界一周 報告会全国ツアー」の主催を丸山さんにお願いしたのはなぜですか?

佐原さん 1番最初に出てくるのは、「この人、好きだな」って、直感で思ったからですね。恋をした時に、なんでその子が好きかを聞かれたら、正直理由ってパっと出てこないじゃないですか。言語化すると薄い気持ちにも聞こえてしまうかなとも思うので、1つは純粋に丸山さんが好きだから。

あとは、「有子さんとなら大丈夫」って信頼できるからです。絶対に応援してくれるっていうのもあるし、日本一周の時に偶然が重なって出会ったあの縁を信じたいなとも思いますし、僕の成長をずっと見守っていてくれた人でもあるし。なので、東京での報告会は丸山さんに主催をお願いしました。

総将さんと丸山さんの2人の絆によって、靴磨き世界一周の東京での報告会は開催される
総将さんと丸山さんの2人の絆によって、靴磨き世界一周の東京での報告会は開催される

――総将さんから報告会の主催をお願いされて、丸山さんはどうでしたか?

丸山さん 光栄だなという気持ちでした。東京で200人を呼びたいと最初に聞いた時は、自分が引き受けるにはちょっと難しいなとも思いましたけど、「何のためにそれをやるの?」と聞いた時に、「ある1人の男の子のために、僕は旅を続けているんです」とすぐに明確な自分の想いを言えることに対して、総将くんのためにも、その1人の男の子のためにも、私も大人として何ができるかを考えたら、やっぱり総将くんの応援だよなということで主催を引き受けました。

結局は当初考えていた2倍となる400席規模の足立区北千住にある「東京芸術センター 天空劇場」で、4月6日に報告会を開催することになりましたが、満席にするために本気で取り組もうと思って今は頑張っています。

靴磨き世界一周 ヨーロッパ編 報告会全国ツアー2024 in東京
日 時:2024/4/6(土)
    13:00-17:30(12:30開場)
   ※別途、懇親会あり
場 所:東京芸術センター 天空劇場
    足立区千住1-4-1 22階
講 演:佐原 総将さん
    吉満 明子さん
    小川 貴史さん
価 格:3000円(高校生以下無料)
   ※懇親会5500円(報告会チケット別)
申込み:https://marumarutk.base.shop/

“靴磨きトラベラー”佐原総将さん
voicy(音声コンテンツ)
https://voicy.jp/channel/3088

安心堂
ホームページ
https://anshindo.ink/

「のりかえライナーノーツ」聞き手の丸山有子さん

聞き手=丸山有子さん
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/maruyama/

編集補佐=しまいしほみ(トネリライナーノーツ 編集者)
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/shimai/

撮影=山本陸
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/riku/