「悩みに寄り添いそっと背中を押す相談窓口」小辻有美さん・北野知地さん【ユースサポーターの輪#3】

ユースサポーターの輪

地域のユース世代を応援する団体や個人にフォーカスを当てて、それぞれの活動への想いや課題などを取材することによって、その輪を広げていく連載が「ユースサポーターの輪」です。ユース世代とサポート側の繋がり、サポート側同士の繋がり、活動を応援する人たちとの繋がり。それぞれの繋がりが輪となり広がることで、さらなる応援を呼ぶことを目指します。

あだち若者サポートテラス「SODA」主任の小辻有美さん(左)と、精神科医の北野知地さん(右)
あだち若者サポートテラス「SODA」主任の小辻有美さん(左)と、精神科医の北野知地さん(右)

#3では、足立区北千住にある若者のメンタルヘルス早期相談・支援窓口「SODA」主任の小辻有美さんと、精神科医の北野知地さんにお話を伺いました。聞き手は、トネリライナーノーツ編集者のしまいしほみが務めます。
(取材日:2024年4月5日)

小辻有美さんと北野知地さんのプロフィール

小辻有美さん

「SODA」主任の小辻有美さん
「SODA」主任の小辻有美さん
  • あだち若者サポートテラス「SODA」主任
  • 精神保健福祉士・公認心理師・社会福祉士
  • 医療法人財団厚生協会東京足立病院 相談員

北野知地さん

「SODA」 精神科医の北野知地さん
「SODA」精神科医の北野知地さん
  • あだち若者サポートテラス「SODA」精神科医
  • 医療法人財団厚生協会東京足立病院 医員
  • 東邦大学医学部精神神経医学講座 院内助教

SODA

あだち若者サポートテラス「SODA」外観
あだち若者サポートテラス「SODA」外観

2019年7月、東邦大学における厚生労働科学研究 MEICISプロジェクトの一環で、こころの病気の予防や早期支援を目的とした「ワンストップ相談センターSODA」を医療法人財団厚生協会の協力のもと、足立区北千住に開設。「見立て」「支援」「つなぎ」を柱に精神保健医療福祉の専門家が早期相談支援を行い、「街のこころの保健室」を目指して取り組んできた。2022年7月からは医療法人財団厚生協会が足立区の委託を受け「あだち若者サポートテラスSODA」として運営している。

「SODA」は、「Support with One-stop care on Demand for Adolescents and young adults 」の略。

“カフェに行くような気持ちで”相談窓口のハードルを下げる

――「SODA」について、どんな場所で、どういう方が来られるのか教えてください。

北野さん 概ね15歳から25歳までの若い方を対象に、メンタルヘルスの不調の改善や悪化の予防を主な目的として開設された相談窓口ですが、精神的な不調に限らず、友人関係、学校や仕事のこと、お金に関することなど、相談内容に条件はなく、「どんな悩みでも一度お話しに来てください」という姿勢で運営しています。本当に色々な困りごとを抱えた方が来られますが、「精神科の受診をした方がいいかどうか」といったご相談も多いです。

取材は足立区北千住にある「SODA」にて
取材は足立区北千住にある若者サポートテラス「SODA」にて

――「SODA」は“ワンストップ型の相談センター”ということですが、それはどういったものなんでしょう?

北野さん 何か困っていてもどこに相談したらいいか分からないようなことがあると思いますが、こちらの窓口ではどんな悩みごとや困りごともまずは受け付けるというワンストップ型を採用していて、「とりあえずなにか困ってる人は来て」というスタンスで、気軽にご相談していただけるよう雰囲気づくりなどを工夫しています。

「SODA」はオーストラリアやシンガポールなどで取り組まれている若者の相談窓口を参考にして生まれました。精神的な病気にかかりやすい年齢は10代から20代とされているのですが、若い方が少し不調があるからといって病院を受診するのは敷居が高いように思います。そこで、海外ではショッピングモールにカフェのような雰囲気で相談窓口が設置されていて、ちょっとした困りごとを気軽に相談できるよう環境としても工夫されているんです。それを参考に、東邦大学と東京足立病院とが母体になって、厚労省の研究事業の一環として始まりました。

「SODA」のモデルになった海外のワンストップ型の相談センターについて話す精神科医の北野さん
「SODA」のモデルになった海外のワンストップ型の相談センターについて話す精神科医の北野さん

――海外でそんな取り組みがあることを初めて知りました。受付をしたあとはどういう流れになるんですか?

小辻さん 「SODA」に来て受付をしたあとは、担当の相談員がついて、それぞれに合った問題解決の方法を一緒に探します。支援の方針は精神科医・精神保健福祉士・公認心理師・看護師などがチームで考えています。

具体的には、ご本人の「こうしたい」、「こうなりたい」という希望を軸に、まずは今どんな状態・状況かということを整理して、そのうえで治療を考えた方が良さそうか、自分の不安やストレスに対してどんな対処をすればよいか、家庭や学校などの環境調整が必要かなど、お話を伺いながら方法を一緒に考え動いていきます。必要に応じて、ご家族や学校の先生方、地域の支援機関の方々と連携を図りながら、広い視野で柔軟な関りができるよう心がけています。 色々な葛藤や困りごとがあって「何をどうしたらいいかわからない」とか「自分の状況がよくわからない」という方も少なくないので、対話を通じて状況の整理をしていきながら、ご本人が気づきを重ね、次の一歩を選択してけるような関りを大切にしています。

「SODA」の取り組みについて話す小辻さん
「SODA」の取り組みについて話す小辻さん

小辻さん こころの状態が良くなくて早めに治療に繋がった方がいい場合でも、受診するのは不安や抵抗感があったりで繋がりづらいということもあります。けれど、「SODA」に来て「SODA」のスタッフと安心してお話しができるようになってくると「精神科にちょっと行ってみようかな」という気持ちになってくれたり、「自分は今こういう状態だ」って自分で気付けるようになったりすると、「受診が必要だ」と自分から動き出すこともあるんです。“こころの不調”そのものにすぐに気づくことが難しくても、悩みや困りごとを抱えた時に気軽に相談できる窓口があることで、自分の状況に気づいて対処していけるようになったり、適切な支援に繋がることができると思います。 たくさんの可能性を持っているお若い方たちが、安心して羽ばたけるよう、そっと背中を押せる存在でありたいです。

地域連携をしながらこころの病気の予防や早期支援を目指す

「SODA」と地域の繫がりについて伺いました
「SODA」と地域の繫がりについて伺いました

――地域の方々とはどういう繋がりをされてるんですか?

小辻さん 「SODA」だけでは解決が難しいこともあるので、例えば就労関係の支援機関や居場所を運営している団体さんなどご本人の状況に応じて様々な場所にお繋ぎしています。また、ご本人の同意が得られればご家族や学校の先生などとも繋がりながらそれぞれに合った関わり方を一緒に考えています。色々な立場で、広い視点で考えた方がより良い関わりに繋がると感じています。

――本人とまわりのみんなでアイデアを出しあって、道を探るみたいな感じなんですね。

小辻さんと「SODA」のマスコットのなまけもの君
小辻さんと「SODA」のマスコットのなまけもの君

小辻さん 他にも、足立区でユース世代の支援を行っている団体が集まるプラットフォーム「ユースサポートネット」に入れていただいているんですが、顔の見える関係があるので、安心して繋がせていただいています。「SODA」でお話を伺っていると、学校や仕事に行きづらいなどで孤独を感じている方も多く、“居場所”の大切さを感じます。その方に合った居場所を探すとなった時に、気軽に相談させていただける繋がりがあるというのは私たちもとても心強いです。

――繋がりが多いほど、その子にあった場を提案できますね。

相談者との対話を大事に

和やかで優しいおふたり
和やかで優しいおふたり

――お2人はどんなことを心掛けて、相談者さんの話を聞いたり話したりされているんですか?

北野さん 相談者さんご自身が考えて選択できるようサポートすることが大切だと思っています。提案は色々こちらからさせてもらうことがありますが、最終決断はやっぱり本人がした方がいいと思うので、そこはみんな重視してるところだと思います。何よりも前にまずはこの場に安心して来られるように、というところを1番大事にしたいです。はじめての場所で自分のことを誰かに相談するのは不安もあると思います。勇気を出して相談にきてくださった方が「ここなら自分のことを話してもよさそう」、「また来てみようかな」と思ってもらえるようにそこは意識していますね。

小辻さん 私も同じですね。とにかく安心して通ってもらうことが1番大事だと思っています。好きなものの話をしたり、雑談をしたりもしながら、心地よく過ごしていただくように心がけていますね。そうした中でご本人の強みがみえてくることもよくあります。担当者だけでなく、他のスタッフも「今日は暑いですね」と何気ないお声掛けをしたりして、「SODA」全体で心理的なハードルが下がるように努めています。

「SODA」にいるなまけもの君のイラスト
「SODA」にいるなまけもの君のイラスト

小辻さん 当たり前のことですが、あとはよくよくご本人の話に耳を傾けることです。自分の価値観で判断せずに「その人がみている世界はどんなだろう?」というような気持ちで話をお聞きしていくと、生きづらさや困りごとだけでなく、何が好きか、どんな強みがあるかなどその人らしく歩んでいくにはどうしたらいいか一緒に考えやすくなります。

――「SODA」でのやりがいってどういうところですか?

北野さん 「SODA」の相談者さんの成長や変化を感じることが多いということです。来所された頃は、ひとりで外出をすることが難しかった方が、6ヶ月後には学校に行き、友達ができ、これからのことを嬉しそうに話すようになったり、不安で毎日泣いていた方が、仕事に就いていきいきと働くようになって笑顔が増えたり。 私たちの予想をはるかに超えて大きな一歩を踏み出していく方もいらっしゃいます。 そうした瞬間に出会えることもやりがいですね。

心温まるエピソードを聞いて嬉しくなるしまい
心温まるエピソードを聞いて嬉しくなるしまい

北野さん 「SODA」を卒業したあとも、「今こんな感じで過ごしているよ」と現状を報告しに来てくれたり、感謝の気持ちを伝えにきてくれたり、 もともと自分から援助を求めることが難しかった方が「相談にいってもいいですか?」と自分からSOSを発信してくれるようになったりと、そうしたこともとても嬉しいと感じます。

小辻さん 本当にやりがいしかないですよね。

安心できる場の特徴は“受け入れられている感覚”があること

――もし知り合いや身近な人にちょっと悩んでる方がいた場合、専門的な知識がないような私たちにでもできることって例えばどんなことでしょう?

北野さん そうですね、困っている方がいたら、「何で困っているか」を聞いてみること。話せない段階の方もいるかもしれないから、「心配しているよ、そばにいるよ」、「話せそうになった時に話してほしい」というのを伝えて、本人の話を聞くこと。それが1番かと思います。

「何で困ってるかは分からないけど辛いんだ」という若い方も、実際に割と多いように思うので、そんな時はぜひ「SODAっていうところがあるよ」って紹介していただくだけでもありがたいです。「SODA」に来てもらって、何回か話を続けていく中で、困っている正体はこれだったのかなと、見えてきたりもするんですよね。

居場所について話す小辻さん
居場所について話す小辻さん

小辻さん 「SODA」に来所された方々に、「あなたにとって居場所とはなんですか?」と伺う機会があったのですが、「安心できる場所」の他に、「何も聞かないで自分を受け入れてくれる場所」や「何をしていても放っていてくれる場所」も居場所だから、いろんな役割の居場所が複数あるといいということを話されていたんです。共通するのは、“自分が受け入れられている”っていう感覚かなと思いました。

なので、それがどんな形であっても、「私、ここにいていいんだ」って思える感覚さえあれば、その子にあった形で、その子にあった関わり方を考えてあげたらいいのかなって思います。

――居場所にもいろんな形はありますが、共通してる根源は一緒なんですね。

生きづらさを軽減させるために必要な存在

おふたりの想いを伺いました
お2人の想いを伺いました

――最後に、“生きづらさを感じる若者”は少ない方がいいと思うんですが、それを減らすには個人や社会はどんな風になればより良くなると思いますか?

北野さん 今はネット社会で私達はその恩恵を受けていて、ネットの繋がりが大きな支えになっている方たちもたくさんいると思います。でも、それと同じくらいリアルな関係も大きな支えになるはずだと考えています。ただ、家族や友達だと“生きづらい”という相談をするのは難しいかもしれません。だからこそ、実生活から少し離れた空間でリアルなやりとりができる場所として、第三者的に機能できる「SODA」のような場所が、本当にコンビニくらいの数でできればいいなと思います。

「SODA」のお洒落なインテリア
「SODA」のお洒落なインテリア

小辻さん そうですね。その時のタイミングによって本人の必要な場所って違うから、地域に色々な役割の居場所があるといいと思うんです。何気なく挨拶したり会話をするご近所さんのような存在や、身近に寄り添ってくれる学校の先生や地域の方たちが大きな支えになっていると感じます。「SODA」にはそうした身近な人を通じて繋がる方が多いんです。安心して過ごせる地域の居場所や人間関係があるといいですね。

――分かります。実家の奈良にいた時は、近所にピアノの先生のお家があったので、見かけたら手を振ったり話したりしていました。

小辻さん まさにそんな感じです。地域全体でうまく支えていく意識と仕組みがすごく大事だと思いますね。

“そーだ!SODAに相談しよう”とてもあたたかで話しやすい「SODA」のお2人と
“そーだ!SODAに相談しよう”とてもあたたかで話しやすい「SODA」のお2人と

あだち若者サポートテラスSODA
ホームページ
https://www.soda-adachi.com/home

「ユースサポーターの輪」取材・編集のしまいしほみ

取材・編集しまいしほみ(トネリライナーノーツ 編集者)
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/shimai/

撮影=山本陸
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/riku/