「ユースサポーターの繋がりで生み出す“子どもの社会性”」 川野礼さん・小宮嘉友さん【ユースサポーターの輪 #2】

ユースサポーターの輪

地域のユース世代を応援する団体や個人にフォーカスを当てて、それぞれの活動への想いや課題などを取材することによって、その輪を広げていく連載が「ユースサポーターの輪」です。ユース世代とサポート側の繋がり、サポート側同士の繋がり、活動を応援する人たちとの繋がり。それらの繋がりの輪をこの連載で広げて、さらなる応援を呼ぶことを目指します。

#2では、足立区を拠点に活動する子ども食堂「たべるば」女将(代表)の川野礼さんと、代表秘書の小宮嘉友さんにお話を伺いました。聞き手は、トネリライナーノーツ編集者のしまいしほみが務めます。
(取材日:2023年12月4日)

「たべるば」女将の川野礼さん(右)と小宮嘉友さん(左)
「たべるば」女将の川野礼さん(右)と小宮嘉友さん(左)

川野礼さんと小宮嘉友さんのプロフィール

「たべるば」女将(代表)の川野礼さん(「ガチアダチ ラジオ」の収録の際に新しい「たべるばハウス」で撮影)
「たべるば」女将(代表)の川野礼さん(「ガチアダチ ラジオ」の収録の際に新しい「たべるばハウス」で撮影)

川野礼さん(あやさん)

  • 「たべるば」女将(代表)
  • 足立区内の中高生支援団体のコミュニティ「あだちユースサポートネット」メンバー

2018年に足立区西新井にある「ギャラクシティ」を拠点とした子ども食堂「たべるば」を立ち上げ、2022年には足立区内の新たな拠点として「たべるばハウス」の運営を始める。足立区の子どもたちへの食事支援プロジェクト「にぎりむすびギフト」の活動にも関わるなど、子どもの支援をはじめとする様々な活動に取り組む。

「たべるば」代表秘書の小宮嘉友さん(「舎人線寫眞」で2022年2月に撮影)
「たべるば」代表秘書の小宮嘉友さん(「舎人線寫眞」で2022年2月に撮影)

小宮嘉友さん(よしともくん)

  • 「たべるば」代表秘書
  • 会員制おしゃべり処「雲のうえ」店長
  • 足立区内の中高生支援団体のコミュニティ「あだちユースサポートネット」メンバー

「たべるば」の立ち上げに携わり、「たべるばハウス」の管理や子どもたちのサポートをする傍ら、足立区西新井にある会員制おしゃべり処「雲のうえ」の店長として就労支援も行う。

根源的な課題の“コミュニケーション”に、食事でアプローチ

取材は足立区島根にあった旧「たべるばハウス」にて
取材は足立区島根にあった旧「たべるばハウス」にて

――トネリライナーノーツの過去の取材(Team NIGIRIMUSUBI Gift vol.9東東京のしなやかな女性3)でお話してくださったように、あやさんが教育や福祉や支援などの領域に興味をもったのは、企業で採用担当をしていた時に学生と話していて違和感や課題を感じたことがキッカケなんですよね?

あやさん そうですね。一定数のコミュニケーションが上手ではない子がいて、こちらが聞きたいことを理解していなくて、返答も求めていることと全然違うことがあって。そういう子は残念ながら採用の際は落とさざるを得ないんだけど、「どこの会社の面接に行ってもたぶん落とされる子たちって、どうしてこうなっちゃったのかな」って思ったんだよね。もっと早い段階で、コミュニケーションの癖というか、そういうものを直す機会はなかったのかな、っていうことが私の最初の課題意識でしたね。

でも、大学生とか専門学校生とかになってからだと、話し方の癖とかって直すのが難しいんだなって思ったから、もっと早い段階で親や友だち以外のいろんな人と出会って、話し方とか自分を表現することとかを教えてもらう機会があったらいいな、って思ったんだよね。

自分を振り返った時に、私は習い事や学童で親や友だち以外にもいろんな人に会う機会があった中で自分ができていったと感じていて、話し方も論理的に考えることもそこで学んできたなって思うから、自分もそういう人になりたいなって社会人3年目くらいに思ったかな。

今の活動に至るキッカケを話す「たべるば」女将のあやさん
今の活動に至るキッカケを話す「たべるば」女将のあやさん

あやさん そこから教育系のNPO団体に転職して、しばらくしてから足立区のプロポーザル方式の事業者の募集が出たから手を挙げたの。それが困窮世帯向けの居場所・学習支援・子ども食堂を開く業事業だったから、英語の先生をしながら子ども食堂の担当もしていたよ。

その時に感じたことが、困窮世帯の子どもって本当に腹ペコな子が多くて、勉強どころじゃないんだよね。だから、まずはお腹を満たしてから、学習もちょっと頑張ろうって促していってたの。そういう風に間近で見たり声をかけたりしているうちに、食事の大切さや、みんなで食べるってこんなに元気になるんだなって感じて、子どもの食事の支援にのめり込んでいった感じだね。

ツールが食事だっただけで、根源的な課題にはどこからでもアプローチできるんじゃないかと思っている。課題の根源にあるコミュニケーションとか、早期の子どもへの接し方のサポートとかは、今も変わってないね。

「たべるば」で作る様々な“繋がり”

「たべるば」代表秘書のよしともくん
「たべるば」代表秘書のよしともくん

――よしともくんはどういうキッカケで「たべるば」の創設メンバーになって、今はどういう関わり方をしているの?

よしともくん 当時は子どもと関わる活動や保育士の仕事がしたいなと思っていて、あやさんから「子ども食堂を作るけど、一緒にやらない?」と誘ってもらったので、子どもと遊ぶことから始めようと立ち上げを手伝いました。

でも、いざ始めてみると、小さい子どもたちと遊ぶのが僕には合わなかったんです。「みんなおいで。今日はこれをして遊ぶよ」っていうのが、できなかったんですよね。だから、子どもたちとの関わり方を変えていって、今は中高生たちのサポートを主にしています。

――中高生のサポートっていうのは、例えばどんなこと?

よしともくん 一緒にゲームをして遊だり、話を聞いたりしています。他にも、中高生向けのイベントやサポート活動をしてる団体、例えば、しまいさんも関わっている足立区梅田の「らんたん亭」に連れて行って、中高生たちに新しい繋がりを作っています。

――中高生にとっては、よしともくんが「ちょっと年上のお兄ちゃん的な感じ」がして、話しやすいだろうね。

「たべるば」をサポートしてくれている方々について伺いました
「たべるば」をサポートしてくれている方々について伺いました

――「たべるば」のSNSを見てると、企業の方やサポートしてくださってる方の名前や写真をよく見かけて、寄付以外にも協力してくれてる方の多さに驚くんですが、繋がり作りで意識してることってあるんですか??

あやさん 意識するようになったのはここ数年かな。最初の頃は「活動費を支援してください。お金がないと活動ができないです」みたいな感じだった(笑)だけど、この活動に慣れてきたあたりから、変わっていったかな。コロナ禍が広まるまでは、活動費のために必死で寄付者を集めていた感じだったけど、「お金だけじゃなくて、いろんな繋がりを持っておくと、それも子どもたちのためになるんだ」って感じ始めたの。

例えば、寄付者として出会った方にお礼を伝えに会社を訪問して仲良くなっていくうちに、「もし子どもたちの中でバイトにつまずいて就労が困難な子がいたら、自分の会社で面倒を見ることができるかもしれない」と言ってもらえて。結局、就労支援のサポートをしてくれることになって、「たべるば」に来ていた子が今ちょうどその会社で頑張っているよ。お金だけじゃない、応援の仕方もあるんだって感じたね。

――繋がりの大切さをひしひしと感じますね。

学生の就労支援のために始めた「雲のうえ」

会員制bar「雲のうえ  おしゃべり処」店長のよしともくん
会員制おしゃべり処「雲のうえ」店長のよしともくん

――就労支援の話が出ましたが、よしともくんが店長を務めてる会員制おしゃべり処「雲のうえ」はどういう場なんですか?

よしともくん 「たべるば」が今年で6年目なんですけど、当初は小学校5年生だった子たちが今は高校生になっているんですね。その成長を見ている中で、引きこもりになる子や、学校にあまり行ってない子がいて。そういう子たちが、高校に入ってバイトを始めても社会との繋がりがほぼなかった子たちだから、コミュニケーションが取れなかったり、仕事を覚えるのが難しい、っていう話がでてきたんです。

そこで、あやさんと相談して「じゃあ、そういう子たちの仕事を作ろう」ってなったんですよね。“すぐに始められること”と“僕たちが好きなこと”、その2つがやっぱりいいよねって話した結果、「お酒を飲みながらおしゃべりができる場」にしようとなって、「雲のうえ」を立ち上げました。働くのが主に学生ということもあるし、お客さんが僕の知らない人だと働く子もやりづらいだろうし、変なお客さんが来ても困るから、会員制です。

――子どもたちと接する中で見えるリアルな課題や声を吸い上げた上で、立ち上げに至ったんだね。

よしともくん そうですね。立ち上げのキッカケになった定時制高校に通っていた1人の子は、学校と「雲のうえ」を卒業して、今は別の仕事を頑張っていますよ。

「雲のうえ おしゃべり処」での様子を話してくれました
「雲のうえ」での様子を話してくれました

――「雲のうえ」でだと仕事が続くのって、すごいね。何が違うんだろう?

よしともくん すごくアットホームなんですよね。仕事をしている感じはあまりなくて、他人と話して社会に出るキッカケになればそれでいいので、楽しくやってくれるのがいいと思ってるんです。だから、お客さんが誰も来ない日は僕と一緒に映画を見てユルく過ごすこともあります。

ただ、難しいのが「お酒を出す場」と「高校生(学生)」というところについて、色々と言ってくる方もいるんですよね。寄付やサポートをする人も支援がしづらいというか、お金を出しづらいみたいなので、そこを理解してもらうのは1つ課題かもしれないです。

――私は応援したいな。安全を守るために、会員制にもしたんだしね。

終始楽しそうなふたり
終始楽しそうなふたり

――ユース世代の子たちの気持ちや課題に寄り添うことって、気力を結構使ったりするのかなと思うんだけど、よしともくんが頑張れる原動力みたいなものって何なんですか?

よしともくん 支援している子たちが楽しんでくれることかな。あと、僕は「たべるば」の手伝いをしながら、昼間はフリーターで働いて、夜は「雲のうえ」の店長をやっているので、忙しい時もありますけど、あやさん達と始めたこの活動自体がやっぱり楽しいからかもしれないです。それに、僕が繋がっている大人の方々もこの就労支援の活動をすごく褒めてくれるんで、それが原動力になっていると思います。

1つの団体では解決しないこともみんなで支え合う「あだちユースサポートネット

「あだちユースサポートネット」での実例を話すあやさん
「あだちユースサポートネット」での実例を話すあやさん

――繋がりから生まれたユース世代のサポートの実例が他にもあれば、教えていただきたいです。

あやさん 「たべるば」も参加している、2022年に立ち上がった「あだちユースサポートネット(ユーサポ)」という、足立区でユース世代(おおむね中学生から20代半ばまでの世代)の支援を行っている団体が集まるプラットフォームでの実例がいくつかあるね。

例えば、メンタルヘルスに関する相談窓口をしている一般社団法人「SODA」の小辻さんに電話をして、対象の子へのアプローチの仕方を聞けたことは、連携できてよかったなと思うな。他にも「たべるば」利用者で料理に興味がある子に、飲食店もやっている「らんたん亭」を紹介して、食事作りのお手伝いをする代わりにまかないをもらう「まかないボランティア」を通して食事のサポートをしたり。カフェに興味がある子を前回のこの連載にも登場した「カフェてとら」に繋げたりもしたね。

「ユーサポ」の活動からしまいの連載「ユースサポーターの輪」がはじまりました
「ユーサポ」の活動からしまいの連載「ユースサポーターの輪」がはじまりました

――他の場に繋げていくことの大切さって、どんなところだと思いますか?

あやさん 「たべるば」だけにいるんじゃなくて、外に出ていくことの大切さはジワジワとあとから効いてくると思うな。それを信じて、私たちは子どもたちを「たべるば」の外に出し続けてる。

「ユーサポ」は組織ではなく個々の団体同士のゆるい繋がりだけど、「ユーサポ」がやってることは足し算じゃなくて掛け算になってる気がするな。「たべるば」じゃアートや芸術関係のことはやってあげられないけど、「らんたん亭」と繋がることでできる、みたいなことがあるじゃん。1つの団体だけじゃできないことって、たくさんあるもんね。

今、よしともが店長を務めてる「雲のうえ」もいい実例だと思っていて、他団体の子が就労トレーニングをしてるよ。

「ユーサポ」の説明をするあやさん
「ユーサポ」の説明をするあやさん

あやさん 「ユーサポ」は、さまざまな課題を抱えたユース世代の若者たちに対して、団体同士の情報交換を通じてその子にあった団体に接続して、孤立や経済的理由などから生じる問題を解消をしようとしてるよね。10代の居場所と学習支援活動などを行っている「カタリバ」をはじめ、同じく学習支援や居場所支援を提供している「キッズドア」・メンタルヘルスに関する相談窓口「一般社団法人SODA」・子ども食堂を運営する「がるまる」・「らんたん亭」・「てとらぽっと」・「たべるば」などの9団体が参加していて、子どもたちの個性や興味とマッチしてる団体に接続ができるのはすごくいいことだと思うかな。

だからこそ、正直な話、もうちょっと活動費がほしいよね(笑)「あだちユースサポートネット」という土台にお金を入れてもらって、それをれぞれの団体に分配するとか。繋がりに対しての対価があればいいなって思うよね。上手くいくかは別として、各団体の強みを活かしながら連携して、活動費もある状態がやっぱり持続性もあっていいと思うんだよね。

例えば、予算をもらって区画でなにかをやるとかね。「カフェてとら」がカフェをやって、「らんたん亭」がワークショップをやって、他にもキッチンカーを呼んで、子どもたちがたくさんご飯を食べて地域の方も来れる場を作りたいな。

ユース世代への支援は“斜めの関係”の人との繋がり作り

今後について話すあやさんとよしともくん
今後について話すあやさんとよしともくん

――2人のこれからの展望を教えてください。

あやさん これからは、子ども食堂はできる時にやって、それ以外は別の支援をやりたいかな。「中高生支援」という名前もこの1年でよく浸透してきたなって思うんだけど、就労トレーニングとか、若者支援のような分野がやっぱり得意だし、やっていて楽しいから、そっちをやっていきたい。例えば、ユース世代の就労支援と居場所作りをやっている「カフェてとら」のような活動がとてもいいなって思って。全部パクりたいくらい(笑)

よしともくん 「雲のうえ」は夜だから、やっぱりサポートの限界はあるもんね。それに対してカフェのような昼間にできる活動は、メディアにも出しやすいし、サポーターの方も応援しやすいということもあるよね。

旧「たべるばハウス」にてたくさんの遊び道具とともに
旧「たべるばハウス」にてたくさんの遊び道具とともに

――なるほど。ユース世代の子たちにとって、今後はどうしたらよりよい社会になっていくと思いますか?

あやさん 子どもたちは外に出て、いかに親や先生でも友だちでもない“斜めの関係”の人と多く会うかに尽きる気がするんだよね。

でも、今って1人で遊べるツールがいっぱいあるから、外に出ようよって言う人がいないとなかなか外に出ない世の中だと思う。だから、子どもたちと“斜めの関係”として関わる「ユースワーカー」とか、私たちみたいなちょっと近くにいる人とかが、他の人と繋がれるところに連れて行く、声をかけるっていうことがすごく大事になってくると思っているかな。

サポートって、1人でできることには限度があるよね。でも、仲間を作って協力して、いろんな子に対して繫がりをつくれる大人が増えていく世の中になると、もっと子どもたちは外に出て「あっ、外の世界でこういうことを言ったら怒られるんだな。こう言うと悲しむし、こう言うと喜ぶんだな」というようなコミュニケーションを早いうちから知っていけるようになると思うんだよね。そうすることで、よりその子の人生が豊かになると私は信じてるかな。

「たべるば」立ち上げ前からの間柄で息もピッタリの2人
「たべるば」立ち上げ前からの間柄で息もピッタリの2人

たべるば
ホームページ
https://adachi-taberuba.wixsite.com/index

「たべるば」の関連記事
https://tonerilinernotes.com/tag/taberuba/

「ユースサポーターの輪」取材・編集のしまいしほみ

取材・編集しまいしほみ(トネリライナーノーツ 編集者)
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/shimai/

撮影=山本陸
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/riku/