地域のユース世代を応援する団体や個人にフォーカスを当てて、それぞれの活動への想いや課題などを取材することによって、輪を広げていく連載が「ユースサポーターの輪」です。ユース世代とサポート側の繋がり、サポート側同士の繋がり、活動を応援する人たちとの繋がり。それぞれの繋がりが輪となり広がることで、さらなる応援を呼ぶことを目指します。
#4では、足立区梅田にあるアートコミュニティスペース「らんたん亭」代表の中島正行さんにお話を伺いました。聞き手は、トネリライナーノーツ編集者で「らんたん亭」メンバーのしまいしほみが務めます。
(取材日:2024年6月24日)
中島正行さんのプロフィール
- 「らんたん亭」代表
- 足立区内の中高生支援団体のコミュニティ「あだちユースサポートネット」メンバー
2019年9月に“自分と向き合い、人と繋がる、対話の広場”をスローガンとして「らんたん亭」を立ち上げ。足立区梅田の築60年の平屋を、クラウドファンディングで集まった資金とDIYによって内装を改修する。
中学生から20歳までを対象とした食事提供と憩いの場「中高生cafe」、大人の憩いの場「隠れ家酒場-rantan-」、体験を通し興味関心の発見を目的としたワークショップ「寺子屋」、アーティストによる展示・公演を行う「表現の場」などの活動を行い、表現することを通して心豊かに生きていくことを目指している。
“居場所”と“きっかけ”の場「らんたん亭」
――「らんたん亭って、どんなところ?」って聞かれた時の説明が、設立当初は難しかったですよね。2024年9月で設立3年となり徐々に形になってきたところで、「らんたん亭って、どんなところ?」を改めて教えてください。
中島さん そうですね、“居場所”と“きっかけ”を中高生から大人までに提供してる場所です。めっちゃシンプルな説明になりますが(笑)
実際に何をやっているかというと、“居場所”としては、「中高生カフェ」を週2回から3回やってます。中高生から20歳ぐらいまでの人たちが「らんたん亭」でご飯を食べて、ピアノやギターなどいろんなものがあるので、自分のやりたいことをしながら自由に過ごしてもらう感じですね。
中島さん 家や学校とはまた違うコミュニティ“第3の居場所”で過ごすというところと、親でも先生でもない“斜めの関係”と言われる普段は関わらない人とのコミュニティでコミュニケーションを取ることの大事さというところで、中高生が対象の居場所をはじめました。
あとは、私が1人店長で「隠れ家酒場-ranatan-」という居酒屋もやってます。大人の居場所みたいな感じですね。
――“きっかけ”の方はどうですか?
中島さん “きっかけ”としては、様々なアーティストの方とか大学の教授の方とかおもしろい仕事をしている人をお呼びしてワークショップ「寺子屋」をやったり、展示やダンスをアートサイドの人にやっていただく「表現の場」という企画をやったりしています。
中島さん 「らんたん亭」に来る人がアートサイドの人たちと関わって実際に体験をする中で、「めっちゃこれおもしろいやん、ワクワクするわ」のように新しい発見・やりたいこと・ワクワクすることが見つかる“きっかけ”になったらいいなという想いがありますね。
――居場所づくりとアート関連のイベントを同時にする場所は、足立区にはあまり多くないように感じるんですけど、中島さんのどういう経験からアートって大切だなとか、そういう場を作りたいなとかって思ったんですか?
中島さん そうですね、アートと教育ってすごく似通ってる部分があるように感じているんです。一言でアートといってもいろんな解釈があると思うんですが、僕はアートを「創作過程」や「取り組む姿勢」なんじゃないかなって思っていて。
自身の経験とアートの可能性
――アートを「創作過程」や「取り組む姿勢」だと思うようになった経験はあったんですか?
中島さん 僕の経験からお話しすると、「自分がやりたいこと、興味があることってなんなんだろう」と考える“きっかけ”になったのが、写真だったんですよね。
カメラマンをずっとやっていたんですが、撮りたいものを撮ろうと思って最初は撮り始めるわけです。でも、本当に千差万別の撮り方があるから、たくさん撮っているとだんだん自分が何を撮りたいのかが分からなくなってくる時があって。アップするのか、引いて撮るのか、雰囲気が撮りたいのかなど、どこを撮りたいのかをしっかりと自分の中で整理できてないと、中途半端なものができ上がっちゃうこともあるんですよね。
だから、ある程度のレベルまでくると、創作は自分がどうしたいのかを考えた上で人に発表して、どういう風に認められたいかが軸にあるなと気づいた時に、“自分基準”で考えることが大切だなと感じたんです。
――なるほど。
中島さん もう1つ経験を言うと、大学時代に僕の周りで病んだり鬱状態になっちゃう人が多かったんです。そういう人たちって、どうしても自分のことを置き去りにして、自分がやりたいからじゃなくて、望まれてるだろうからやる。つまり、“他人基準”に考えてしまうんですよね。
自分のために生きるというよりかは、他人のために生きる。他人にどう評価されるかを怖がりながらビクビク生きてしまうところがあるな、っていうところも問題意識としてありました。
そういう経験から、アートのような“自分基準”になる「創作過程」はとても大事で、生きる上で息苦しさみたいなものを感じている人たちとアートは親和性がめっちゃ高いなと思って、アートと居場所をかけあわせた場をつくりました。
“アート的思考”の居場所作り
――アートのことが全然分からない私からすると、アートって「完成物」のことを指してるように思いますが、中島さんは「創作過程」と捉えてるんですね。
中島さん アートってわかりにくいですよね(笑)「中高生カフェ」のような食事支援とアートがどういう関わりがあるのかも説明が難しいんですけど、他人との違いを超えることができるのが“アート的思考”なのかなと思っていて。
例えば、街中で変わった絵とか変な動きをしてる人がいたら「ちょっと怖いから避けて通ろう」と思うけれど、美術館に入ってそれを見た時は「この人たちは何か意図があってやってるんだろうな」と理解しようとするじゃないですか。この場合、意図を理解しようとするのとしないのでは、思考が全然違うなと思うんです。
中島さん 現代アートの文脈は、「なぜこういうことをしたのか?と考えるところにアートがある」という考え方があると思うので、中高生だけでなく青年も大人も多様なアートや人と触れ合うことは、作品や文化を許容できる土俵を持って育てることに繋がるし、大事なことなんじゃないかなと考えています。
――中島さんは「中高生カフェ」をあまり“支援”としてやってるイメージではないんですけど、そのあたりどうでしょう?
中島さん 「中高生カフェ」は食事支援でもあるけど、「支援として助けてあげてる」というのは、おこがましさが介在するし、お互いにとって健康的じゃないなと思うところがあるので、僕はあんまり“支援”という感じにはならないようにやっています。
「らんたん亭」のスタッフも「料理を作りたいから勝手に作っているだけ」のように自由に過ごすから、子どもたちも同じようにそれぞれが自由に過ごして、結果として「なんとなくみんな楽しいね」というのが理想です。
地域の方たちの支えと「らんたん亭」のビジョン
――「らんたん亭」が最初にできた時、あまり地域との関わりってなかったように思うんですけど、3年経とうとする今、どういう風に関わりが増えていきましたか?
中島さん 最初は地域との関わりが全然なかったですね。僕自身、地域活動というものも初めてでしたし、この辺りのことを全然分かっていませんでした。その中で「らんたん亭」を最初に見つけてくれたのが、今も「らんたん亭」のサポートメンバーとして携わってくださってる岡井和弘さんです。
岡井さんは足立区でいろんなコミュニティに出入していてたくさんの人たちと常に関わりを持っている方なので、僕が他の団体やイベントに出向く前に岡井さんが出向いていて、地域の人たちから「らんたん亭のことは岡井さんから聞いています」と言っていただきスムーズに話すことができましたね。
中島さん あと、足立区綾瀬にあるコミュニティスペース「あやせのえんがわ」の森川さんもすごく応援してくださっていて、それぞれが応援してくださるおかげで、自然といろんな方たちとの繋がりができてきたのかなっていう気がします。
――そうやって地域の方と繋がることでの変化ってありましたか?
中島さん 町に知り合いが増えて、素直に自己肯定感が高まりました。地域活動をされている方の拠点に行った時、「らんたん亭」のことを知ってくださってる方に「会いたかったんです」と言っていただけるのは嬉しいですよね。
ご近所との繋がりもできてきて、八百屋さんに行ったら「子ども食堂してんだったら、これを持っていけよ」と言ってもらったり、「らんたん亭」の天井をぶち抜いた時も近所の木材店の方が協力してくださったり、Tシャツや自転車をくれる人がいたりと、地域の方に本当に支えてもらってます。僕は貰い物で生きていますよ(笑)
――今後の「らんたん亭」はどういう存在でありたいですか?
中島さん みんながいつでも来れる場所であり続けたいですね。そのためには継続を目標にして、多くくの方々に応援いただけたらなって思っています。
2024年9月11日で「らんたん亭」は3周年です。そこまでになんとか「三百人のらんたん守プロジェクト」という、月額500円からのマンスリーサポーターの方が300人集まることを目指して、運営費用をとりあえずプラスマイナス0円にできる状態にもっていきたいなと考えています。
どうしても、食材費や家賃、維持費などがかかってしまうので、「らんたん守」の方々のサポートがあるとこれからも持続可能な活動をやっていける未来が見えてくるので、引き続き頑張っていきたいと思います。
――「らんたん亭」に来てくれてる中高生から青年の人たちに対して、これからどんな風に人生を歩んでくれたら嬉しいとかありますか?
中島さん “誰かのために生きる”ということも素敵だと思うし、最終的にそこにたどり着くのは良いと思うんですけど、まずは“自分基準”で「自分がこれをやりたいからやる」と自発的に生きていけるのがベストですね。その上で「それが他人のためになった」という流れが、1番素敵だなと思います。
――その流れ、素敵ですね。ありがとうございました。
らんたん亭
ホームページ
https://rantantei21.wixsite.com/rantan
取材・編集=しまいしほみ(トネリライナーノーツ 編集者)
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/shimai/
撮影=山本陸
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/riku/