2年連続開催の南三陸復興支援イベント
2020年2月11日、日暮里舎人ライナー「舎人駅」より徒歩6分のところにある全學寺(東京都足立区)で、お寺と大正大学とのコラボイベント「第2回すきだっちゃ南三陸」が開催された。
昨年も行われた南三陸の復興支援イベントだが、今回はもう一つ、お母さんを応援するというサブテーマがあった。大正大学の学生の一人が南三陸を何度も訪れる中で、震災後に女性が送った避難生活のたいへんさ、しかし、小さな子どもを持つ母親が気丈に振舞っていたということを知り、お母さんにスポットを当てることになった。
イベントは9時開場、10時から行われた山本亜紀子さんよる「ベビーダンス」で幕を開けた。山本さんは、子育てへの応援活動と地域に母親の居場所を作ることを目的として足立区を中心に活動する「コミュニティkoen」の代表で、そんな山本さんが教えるベビーダンスは、抱っこ紐で赤ちゃんを抱いたお母さんがボサノヴァやジャズのリズムに合わせてステップを踏む、親子で一緒にできるエクササイズだ。
育児に追われるお母さんたちは、運動不足になりがちになるし、肩こりなど体に変調をきたすことも。赤ちゃんを抱えながら行えるベビーダンスは、そうしたお母さんにとってのリフレッシュにもなる。赤ちゃんは適度な負荷になるし、お母さんに抱っこされてリズミカルに揺られる赤ちゃんはいつの間にか寝ちゃっていた。まさにwin-winの関係だ。
震災当時とその後の南三陸を伝える語り部
続いて11時過ぎから始まった「語り部の南三陸」は、この日のメインイベントといえるものだった。南三陸町戸倉で暮らす及川八千代さんを語り手、南三陸を拠点に活動するNPO法人「ウィメンズアイ」の塩本美紀さんを聞き手として、東日本大震災に見舞われた当時のこと、その後の暮らしなどが語られた。及川さんは今回のイベントが語り部初挑戦。これまでは、当時のことを話すと泣いてしまうからという理由で断ってきたが、「南三陸で子育てをしたお母さんに話してもらいたい」というオファーに共感し引き受けることに決めたそうだ。
震災時、及川さんは南三陸町の隣・登米市にあるスーパーの駐車場にいた。車に乗っていた及川さんは、地面が落ちると思ったほどの恐怖を感じたという。
震災後、及川さん一家は旦那さんの実家で避難生活を始めた。幸運にも住む家はあったが「届いた物資は避難所が最優先」という想いに駆られ、家が残った人はもらってはいけないという迷いを持つことも。食べ物がお腹いっぱい食べられない、子どもに食べさせたいものが手に入らないつらさを味わった。
語り部のあとは、及川さんへの質問の機会が設けられた。被災当初、旦那さんの実家で避難生活を送った及川さんの元には、お米がいっぱいあったという。そんな中で投げかけられた「お米はたくさんあったけどお腹いっぱい食べられなかったのはなぜですか?」という質問が印象的だった。それはもっともな疑問だから。及川さんはその疑問に「長期戦を覚悟していたから」と答えた。そのときあるからといって、たくさん食べるわけにはいかない。飽食の時代、望めば何でも手に入る場所に住む我々には、そんなことが想像できない。災害後を暮らす人たちとそうでない人たちの考え方の違いを、改めて実感させられたやりとりだった。
一方、ちょうどお昼時ということで、食堂では南三陸にまつわる料理が食べられる「無料食堂」がオープンしていた。こちらも前回に引き続き人気だったプログラム。第2、第4日曜日に熊野前のバー「NARROW」を間借りし、「narrow cafe」としてサンドウィッチやスペシャルティコーヒーを提供する長村孝則さんと大正大学生が調理を担当。
南三陸の名産であるタコを使った「タコ飯」、東北地方の郷土料理「はっと汁」、南三陸産地鶏卵「卵皇」を使った「卵焼き」が提供された。途中、ブレーカーが落ちるトラブルで米がダメになったりしつつも、100人以上のお客さんが南三陸の味を楽しんだ。
続いて行われたのは、芝浦工業大学の武藤正義先生と、その教え子である同大学3年生の石井大地さんによるピアノ演奏会。武藤正義先生はふだん数理社会学を教えていて、フィールドワークとして、学生と一緒に、誰でも弾けるストリートピアノのイベントを主催している。演奏されたのは「春よ、来い」「パプリカ」、武藤先生のオリジナル曲「オレンジコースト」の3曲。前者の2曲は、さまざまなテレビやイベントで、応援ソングとしてたびたび起用される。最後の曲は、海をイメージして作られたもので、海が近い南三陸町との繋がりを感じられるとして演奏曲に選ばれた。
そして、石井さんは復興応援ソングである「花は咲く」を演奏。そうした曲に合わせて子どもたちは、この日に書院で実施された「楽器ワークショップ」で作ったペットボトルマラカスを振っていた。
14時からのプログラムはごきげん一家による演劇だった。「すきだっちゃ南三陸」では数少ない、2年連続での開催となったイベントだ。ごきげん一家は南三陸に演劇を届ける」復興応援活動を2018年から行っている。「生活は整ってきたけど娯楽が少ない」という、同地で今も叫ばれる悩みに立ち向かっているのだ。そのため、どうせやるなら現地の人に興味を持ってもらえるようにと、同地の民話をもとに劇を作っている。
今回は、入谷の桜沢の民話「風取らす」をもとにした演目。同地の方言をテーマにしたユニークな内容で、客席からはクスクスと笑う声がそこかしこから聞こえた。そして終幕後は、昨年と同様に「おもしろかった」と話しながら帰る観客の姿があった。
学生の目から見た南三陸
一方、全學寺内のなむなむ堂では、大正大学の3年生・山本陸さんによる写真展が一日を通して実施されていた。山本さんは昨年の「すきだっちゃ南三陸」を主催したコアメンバーでもある。これまでの取り組みを通して南三陸に興味を持った彼は、昨年10月と今年1月に南三陸を訪れ、同地の風景をたくさんカメラに収めてきた。そんな中から今回展示されたのは、南三陸の今を切り取った表題「今の暮らし、これからのわたし」。山本さんが4年前に初めて南三陸を訪れたとき、自分の暮らしを振り返る機会があったという。当時は震災から5年が経っていたにもかかわらず、復興が進んでいないこと、自分の無力さを感じた中でまずできることは南三陸を知ること。そしてそれを、多くの人に発信したいというのが個展を開く動機となった。
山本さんの写真は、お店の人たちや、墓前に向かって祈るおじいさんなど、南三陸の人たちの「日常」を切り取っていた。そして、そんな日常が我々のものと明らかに違うことが、個展を訪れた人にははっきりわかったはずだ。
そしてこの日の最後に行われたのは、全學寺の大島副住職や、大正大学で教鞭を執る齋藤知明さんの他、今回のイベントの趣旨に賛同した地域の若手僧侶たちによる追善法要と、西日暮里でトレーニングスタジオ「Studio景」を経営する、茂木慧太さんによる太極拳の法要演舞。東日本大震災被災者の追悼と復興祈願を、訪れたみんなで行った。
この日の来場者は約550人。昨年よりもたくさんの人が訪れ、盛況のままに幕を閉じた。なお、この日集まった募金は、NPO法人「ウィメンズアイ」に全額寄付される。
みんなの全學寺プロジェクト
住所
東京都足立区古千谷本町2-22-20
ホームページ
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今回の応援者 大島俊映さん(全學寺 副住職)
私が主宰する寺院コミュニティ「みんなの全學寺プロジェクト」が、大正大学の学生たちと南三陸の復興支援チャリティイベント「すきだっちゃ南三陸」を行うことになったので、トネリライナーノーツに取材をお願いしました。日暮里舎人ライナー地域のみなさんにこのイベントを知っていただくことで、被災地に対する見識を深めてもらうと共に、「みんなの全學寺プロジェクト」も応援していただけたら幸いです
文=井上良太(トネリライナーノーツ 副編集長)
トネリライナーノーツ記事
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撮影=久米貴文(トネリライナーノーツ システムマネージャー)