区民と挑む“ワケあり区”のイメージアップ戦略「足立区」栗木希さん 【和尚代筆 其の八】

和尚代筆

トネリライナーノーツ編集長であり、日暮里舎人ライナー「舎人駅」より徒歩6分にある寺院「全學寺」副住職である大島俊映が、地域の中にある物語を、その物語の主役たちに代わって描く連載が「和尚代筆」です。

足立区政策経営部シティプロモーション課の栗木希さん
「足立区 政策経営部 シティプロモーション課」の栗木希さん

其の八では、「足立区 政策経営部 シティプロモーション課」の栗木希さんの物語をお届けします。
(取材日:2024年7月2日)

「まちを誇りに思う気持ちを高める」シティプロモーションの仕事

シティプロモーション課の栗木さん(右)と、取材者の大島(左)
「足立区 政策経営部 シティプロモーション課」の栗木さん(右)と、取材者の大島(左)

――“足立区のシティプロモーション課”ってどういう仕事をする部署ですか?

栗木さん 足立区のイメージアップを推進する専管の組織で、そもそも、足立区のシティプロモーション課は東京23区で初めてのイメージアップ専管組織として、2010年に創設されました。

一般的なシティプロモーションというと、観光客誘致や移住・定住などを目的に町の知名度を向上させる外向きの活動をしているんですが、足立区のシティプロモーションは区民のみなさんの「まちを誇りに思う気持ちを高める」ことを最終目標に、区民や区内のみなさんに向けた様々な取り組みをしています。

例えば、広報物のブラッシュアップをしたり、町の方たちと繋がったり、企業のみなさんと繋がったりすることで、足立区の魅力をさらに磨き、価値を生んでいくというようなことをやっています。

シティプロモーションの仕事について熱く話す栗木さん
シティプロモーションの仕事について熱く話す栗木さん

――なるほど。例えば、広報物のブラッシュアップって、どういったことをするんですか?

栗木さん 区役所の中で作られる広報物は年間約450件ぐらいあるんですが、シティプロモーション課ができる前の区役所のチラシは、文字が多くお伝えしたいことをただ羅列して出していたんです。

しかし、それだと区民のみなさんは手に取ろうと思わないだろうというところで、区役所と区民のみなさんの距離を縮めるためにも「ビジュアルから変えていこう」とチャレンジをスタートしました。誰に届けたい広報物なのかというターゲットを考えるところから練り直してブラッシュアップする、そんな取り組みをしてます。私は、チラシやポスターといった広報物は区民のみなさんとの大事なコミュニケーションツールの1つだと思ってます。

――行政・区役所と住民の橋渡し役みたいなイメージの仕事なんですね。

シティプロモーションの仕事を掘り下げる大島
シティプロモーションの仕事を掘り下げる大島

――地域の人たち、特に地域で活動しているプレイヤーの方々と繋がるっていうところも大事にされてるのかなと思いますが、例えば、これまでにどういう方と繋がってこられたんですか?

栗木さん 例えば、今日の取材場所である「空中階」を管理している「センジュ出版」代表取締役の吉満さんや、大きな企業で言うと「JR」・「東武鉄道」・「東京メトロ」をはじめとする鉄道事業者さんや「セブン-イレブン」さんなどですね。

2022年の区制90周年の時に「足立区のおいしい給食」のプロモーションの一環で、足立区の子どもたちに人気の給食メニュー“えびクリームライス”を「セブン-イレブン」さんと商品化するというコラボ企画を実施しました。それが大好評だったので、現在も第2弾・第3弾と続いています。

――地域のステークホルダーと繋がって何かを企画していくことも、お仕事の一環になるんですね。

「実は給食のエビクリームライスが苦手だった」と明かす大島
「実は給食のえびクリームライスが苦手だった」と明かす大島

――栗木さんは今、肩書きで言うと何になるんですか?

栗木さん 今はシティプロモーション課の課長をしています。シティプロモーション課のメンバーは私を入れて13名いて、仕事の分担としては、係が3つあります。

1つは、広報物や庁内事業のブラッシュアップや、まちのみなさんと繋がりを作るプロモーション係。もう1つはシティセールス係といって、情報発信やテレビドラマやCM・映画などのロケ地を調整するロケーションボックスなどで足立区を外に売る役目をしています。あと、特徴的なのが、大学連携の係があり担当係長が2名所属しています。足立区内には6つの大学があるんですが、まちの価値をあげるためにも大学誘致を頑張ってきて、区内にある全ての大学と連携して子どもたちの体験機会の創出をとても大事にしているので、担当係長2名が各大学との調整役をしています。

それらの3つの係とともに、広報物に力を入れてるので、プロのグラフィックデザイナーが2名いますね。

仕事の原動力は足立区民の「まちを愛する気持ち」

栗木さんの「足立区」でのキャリアは「舎人地域学習センター」から
栗木さんの「足立区」でのキャリアは「舎人地域学習センター」から

――栗木さんのキャリアについてもお伺いしたいんですけど、区役所に入職されたのはいつからですか?

栗木さん 入職は1999年なので25年前ですね。大学を卒業して、1度民間の企業に就職したのちに公務員になりました。それで、最初の配属は「全學寺」の近所にある「舎人地域学習センター」だったんです。今はすべて指定管理になりましたが、昔は区の職員がいて「社会教育館」というところで区民向けの講座を作るなどの仕事をしていていました。

「舎人地域学習センター」には4年いたので、舎人にはとても思い入れがあります。その後、広報課に希望して異動になりました。

シティプロモーション課に配属になる以前のキャリアも伺いました
シティプロモーション課に配属になる以前のキャリアについても伺いました

――なぜ広報課を希望されたんですか?

栗木さん 講座を作ることも楽しかったんですが、発信することや伝えることに興味があったので、広報紙などを作ってみたかったんです。広報課に4年勤務して、「あだち広報」も担当しましたし、広報の映像も担当させてもらいました。

区役所の中に、今は使ってないんですが実はスタジオがあって、私は裏側のプロデューサー的な役割をやりながらケーブルテレビとお笑い芸人の木曽さんちゅうさんが司会を務める広報番組を作っていました。今でも木曽さんに会うと、「あの頃は全然OKを出してくれなかった」などと笑い話をします。

――そのあとは、何をされたんですか?

栗木さん その後、福祉事務所でケースワーカー、秘書課、環境政策課、観光交流協会で仕事をして、そのあとが今のシティプロモーション課ですね。今年で7年目になります。

「あだち広報」や木曽さんちゅうさんとの番組にも携わったことのある栗木さん
「あだち広報」や木曽さんちゅうさんとの番組にも携わったことのある栗木さん

――いろいろ異動するんですね。それって「経験してこい」みたいな感じで、ご自身の希望じゃない時もあるんですか?

栗木さん そういうこともありますね。ただ、私が公務員になりたかった理由の1つとして、ずっと同じことを続けるのが苦手だったので、4年くらいで全く畑が違うジャンルの仕事を経験できることがとても魅力的だったんです。

――なるほど。シティプロモーション課に配属になって、やりがいを感じる瞬間ってどんな時ですか?

栗木さん 本当に、今こういう瞬間です。私自身は、足立区を絶対にこうしたい!というような気持ちはあまりないんですけど、じゃあ自分の原動力は何かと考えると、それこそ大島さんみたいな方やまちのみなさんの「まちを愛する気持ち」にめちゃくちゃ感化されて、みなさんからエネルギーをもらっているんですよね。区役所だからこそできることはたくさんあると思うので、みなさんのお力になりたいというところですかね。

マイナスイメージを逆手に取った「ワケあり区、足立区。」

SNSでも話題の「ワケあり区、足立区。」について話す2人
SNSでも話題の「ワケあり区、足立区。」について話す2人

――今新しく仕掛けられてる、「ワケあり区、足立区。」は、シティプロモーション課で始まった企画なんですか?

栗木さん そうです、シティプロモーション課の発信で始まりました。これまで足立区内や区民のみなさんに向けたインナープロモーションを続けてきて、様々な課題解決の成果が現れてきたんですよね。

でも、一方で治安の話もそうですが、足立区っていいまちなのに、区外からの評価を見ると全然アップデートされていなくて、それこそ30年前の話で語られちゃうところがあります。

なので、そういうことを言われないようなファクトをたくさん集めて発信し、マイナスイメージと現実のギャップを解消するために、「ワケあり区、足立区。」を始めました。

「ワケあり区、足立区。」はマイナスイメージと現実のギャップを解消するための政策と話す栗木さん
「ワケあり区、足立区。」はマイナスイメージと現実のギャップを解消するための政策と話す栗木さん

――新しい章へすすむ、冒険に出るみたいな感じですね。実際に始まってみて「ワケあり区、足立区。」の手応えはどうですか?

栗木さん 反響は結構ありました。まず、マスコミの方々が食いついてくれましたね。あと、“ワケあり”というワードが面白かったらしく、SNSでは大喜利のようにネタにされていました。そのことは全然気にしていなくて、悪い話をするのは足立区に実際には来ていなかったり昔の足立区しか知らない人たちだったりで、SNSの中で闇雲に言ってることが多いと思っています。

「今までマイナスに語られていたことを逆手に取る」というプロモーションは絶対にやると決めていたので、「ワケあり」ってネガティブワードにはなると思うんですけど、実は足立区で生き生きと暮らしてる方や、いろんなチャレンジしてる方がいる、そういうリアルな人たちの話を外に出していきたいなと思っています。

真剣な表情で話を聞く大島
真剣な表情で話を聞く大島

――めっちゃ面白いですね。短期的に反応がめっちゃ良かったところがあると思うんですけど、ここからどう長期に繋げていくかなど、展望などはありますか?

栗木さん 15年前にシティプロモーションが始まった当初は、区民の3割ぐらいの方しか足立区を誇りに思っていなかったんですね。それが、コロナ前は2人に1人が“自分のまちが好き”、“誇りに思う”と回答してくださるようになりました。でも、そうなるまでに10年かかったんですよね。

なので、区外へのイメージアップ、区外の人から「足立区いいね」って言われるのはそんなに簡単な道のりではないと思っているので、今回は瞬間風速的にガッと盛り上がりましたけど、ここからまた地道なプロモーションをやっていこうと思っています。

区民こそがシティプロモーターと語る栗木さん
区民こそがシティプロモーターと語る栗木さん

――「ワケあり区、足立区。」や、またはシティプロモーション課の課長としてなど、どういうふうな目標やビジョンや未来を、栗木さんは描いていらっしゃるんですか?

栗木さん 数値的なところで言うと、区外の方に向けて足立区のイメージ調査をやってるんですけど、足立区に良いイメージを抱いてくださってる方って2割程度なんです。区制100周年が8年後の2032年なので、その時までに、足立区に良いイメージを持つ区外の方の割合を2割から5割まで上げることですね。

ここからの勝負は、いかに区民のみなさんを巻き込んでいけるかだと思います。なぜなら、1番影響力を持っているシティプロモーターは区民のみなさんで、シティプロモーション課や役所ができることなんてたかが知れているんですよね。

例えば、大島さんのような1人の区民の方が5人に「足立区って良いところですよ」と伝えるのが1番強力なシティプロモーションになると思うので、区民のみなさんと区役所が一丸となって足立区のイメージを上げていきたいです。

終始和やかで熱のこもった取材となりました
終始和やかで熱のこもった取材となりました

――それが叶ったら、足立区はすごく素敵な町になりますよね。

栗木さん そうですね。町の資源的には100年に1度の変化の時で、現在、足立区の7ヶ所でエリアデザイン(再開発)が進んでいて、結構まちが変わっていくので私は伸びシロしかないと本当に思っています。そこに、区民のみなさんの気持ちも付いてくるといいなと思いますね。

あと、他の自治体は人口減少が進む中、足立区はまだ人が増えてるんですよ。そうなると、やっぱり引っ越してこられる方たちにはワクワクしてほしいし、区外の人に足立区に引っ越すと言ったら「えっ、大丈夫?」と言われることも多いようですけど、「足立区だから引っ越す」「住んでみるとすごく良いまちだった」と言ってもらえるようなまちにしたいですよね。

――めっちゃ良いですね。今日はありがとうございました。

足立区 政策経営部
シティプロモーション課
ホームページ
「ワケあり区、足立区。」
特設ページ

「和尚代筆」取材者の大島俊映
「和尚代筆」取材者の大島俊映

取材=大島俊映(トネリライナーノーツ 編集長)
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/oshima/

編集補佐=しまいしほみ(トネリライナーノーツ 編集者)
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/shimai/

撮影=山本陸
トネリライナーノーツ記事
https://tonerilinernotes.com/tag/riku/