足立区加平で月に数回営業する「駄菓子屋 かしづき」は、地域に佇む普通の駄菓子屋でありながら、保護者が様々な子育ての悩みを聞ける場であり、また、子どもが安心して気軽に来られる場でもあります。そんな「駄菓子屋 かしづき」の店主である佐々木隆紘さんが、自身の想いや物語を綴る連載が「ほぼ月刊かしづき」です。
第4号は、「“ストレスに対処する力”の育み方」をテーマにお届けします。
こんにちは。「駄菓子屋 かしづき」店主の佐々木です。駄菓子屋をやっていると、遊びに来てくれた子どもたちの笑顔がたくさん見られて、とても嬉しい気持ちになります。しかし、時には子どもが泣いてしまう場面もあります。そのキッカケ第1位は、スーパーボールくじで、ほしいのが当たらなかった時です。
「キラキラがほしかったのに当たらなかった!」 「これじゃヤダ!」 その子がほしかったものに交換してあげるのも良いかもしれませんが、私たちは「また次ね!」と毅然と振る舞っています。そうすることで、子どもたちはストレスに上手く対処できるようになっていくと信じているからです。ということで、今日はストレスの対処について紹介させてください。
ストレスは万病の元
みなさんはストレスに強いですか?日頃からストレスを感じることはありますか?「ストレスは万病の元」という言葉を聞いたことがある人も多いかと思います。
ヒトはストレスに曝されると、自律神経やホルモンの影響によって、血圧や血糖値が上がったり、炎症が強まったりと様々な生理反応が起こります。そういった状態が長続きすることが病気の原因にもなるのです。
また、ストレスによって脳内の活性部位や脳内ホルモンの分泌にも偏りが出て、その結果、心理的に病んでしまうこともあります。何をするにも緊張してしまったり、不安に襲われたり、やる気が出なくなってしまう人もいるかもしれません。ストレスが心身に良くないと知っている人も多いと思いますが、このようなヒトの生理的なメカニズムによって心身に影響を及ぼすのです。
みなさんにとってのストレスはどんなことですか?職場の人間関係・近所付き合い・家族の病気・仕事のプレゼンテーション・近所の騒音・金銭的なやりくりなどなど…、様々な因子がそこにはあるはずです。しかし、同じ事象に対しても人それぞれストレスの感じ方や心身の反応は異なります。なぜならそれは、「ストレス対処能力」というストレッサー(ストレスの原因となる事象のこと)に対処する力が人それぞれで異なるからです。
ストレス対処能力とは
医療社会学者のアントノフスキー博士は、「何が人を健康にするのか」という研究を行ないました。その研究内容はナチス強制収容所から生還したユダヤ人を対象に、まず強制収容所での過酷な経験がその後の人生において心身の健康を害するかという視点で行われましたが、次に強制収容所から帰還したにも関わらず心身の健康が保たれていた29%の参加者に着目しました。なぜなら、その人たちに共通するものにこそ、「何が人を健康にするのか」という問いに対するヒントが隠されていると考えたからです。
そこで見出されたのが「ストレス対処能力」でした。「ストレス対処能力」とは、「この世界は首尾一貫している(筋道立っていて納得できる)と思える感覚」のことです。この能力が高い人は、何らかのストレッサーに遭遇したとしても上手く対処できるため、ストレスを感じにくいと考えられています。
この「ストレス対処能力」は、大きく分けると以下の3つの感覚から成り立ちます。
把握可能感
「把握可能感」とは、段取りをつけたり将来の予測ができたりする感覚を言います。置かれている状況を適切に把握できたり、今後の状況をある程度予測できたりする感覚のことです。
処理可能感
「処理可能感」とは、困難な出来事に対峙しても何とかなると思える感覚を言います。この感覚を得るには個人の資質だけでなく、相談できる人や社会資源、お金、権力、知識など、”周辺の資源”の影響が大きいと言われています。アントノフスキー博士は、これらの資源を「汎抵抗資源」と名づけて、ヒトの健康において重要視しています。
有意味感
「有意味感」とは、自分の身に起きることすべてに意味があると思える感覚を言います。自分が直面する苦労や苦難なども含め、やりがいを感じられる感覚のことです。
ストレスに強い人間になるには
上記のような感覚は、先天的に備わっているものではなく、環境によって後天的に形成されるものであるとアントノフスキー博士は述べています。それでは、「ストレス対処能力」を高めるには、どうすれば良いのでしょうか?また、子どもの「ストレス対処能力」を育むには、どのように子どもたちと関われば良いのでしょうか?
結論を書くと、上記のような感覚を育むには、「どんな経験をするか」が重要です。例を挙げながら説明していきます。
把握可能感の育み方
「把握可能感」の形成には、一貫した出来事の経験が重要だと言われています。簡単なところで言えば、「おはよう」と言えば「おはよう」と返事が返ってくる環境です。つまり、ルールが明確で、ルールを守っているのに理不尽に怒られたり罰を受けたりするようなことがありません。子育ての場面などにおいて、「ある日は褒められた行動が、別の日には叱られる」というようなことが続いてしまうと、子どもにとっては「一貫性のない経験」になってしまいます。それにより、現在の状況把握や将来の見通しを立てる能力である「把握可能感」が形成されにくくなってしまいます。ルールや規範が明確な関わり・環境が、とても大切になります。
処理可能感の育み方
「処理可能感」の形成には、過小負荷・過大負荷のバランスが取れた経験が重要だと言われています。過保護でもなく放任するわけでもない関わりを経験することで、自分はどの程度のことなら対処できるのか、困難な場合にはどういった手助けをしてもらうと乗り越えることができるのかを知ることができます。例えば洋服の着替えを全て親が行ってしまったり、また反対に、着替えに苦戦している子を放任して「まだ着替えられないの!?」などと叱ってしまったりすると、本人は「自分はどの程度ができるのか、またどこを手伝ってもらえば達成できるのかを知る経験」が得られず、過小負荷と過大負荷のバランスが取れた経験がなくなってしまい、「処理可能感」が形成されにくくなってしまいます。成功する経験はもちろん、失敗する経験も非常に重要であり、その子にあった難易度の課題に取り組むこと、適切に手助けをすることが大切になります。
有意味感の育み方
「有意味感」については、結果形成への参加の経験が重要であると言われています。言葉の通り、結果につながる重要な場に参加していることで、自分が行っていることは重要なことだと意味付けできる経験になります。子育ての場面においては、例えば、料理を作っているときに野菜を切るのを少しだけ手伝ってもらうことで「さっき切った野菜がカレーに入っているよ。美味しいね!」などという経験が、「有意味感」の形成に繋がることになります。
駄菓子屋 かしづきを通して取り組んでいること
私は地域で駄菓子屋を運営していますが、その目的の1つが、こうした感覚を育むための経験の場にしたいからです。冒頭で述べたスーパーボールの話も、「処理可能感」の形成に影響を与えます。くじ引きは自分ではどうしようもない運試しですから、そこで特別に交換などをすることはせずに毅然と振る舞うことで、子どもは「くじ引きなどは自分ではどうしようもない」と学びます。それは今後の人生において重要なことです。くじ引きで思い通りの景品を渡してしまえば、「自分ではどうすることもできない範疇」が分からなくなってしまいます。
駄菓子屋を毎日開けておくのが難しい側面はありますが、営業日には子どもたちと常に一貫した関わりを持つようにしています。お金の計算などに苦戦している時や、スーパーボールくじの番号を見ながら探している時は、必要最小限の助言で本人が自分の力で達成できるような声かけを心がけていますし、イベントなどでは子どもが参加することで、1つの作品が生まれたりゴールに到達できたりするような仕掛けを考えています。何気ない日常の小さな1コマではありますが、その積み重ねが子どもたちや保護者の方々の将来の健康に繋がるような場所にしていきたいと思って運営しています。
先ほど「処理可能感」のところで少しだけ紹介した「汎抵抗資源」ですが、「駄菓子屋 かしづき」もみなさんにとっての「汎抵抗資源」になれるように「何か困ったことあれば、あそこに頼ろう」と思ってもらえるような場所でありたいと考えて地域に佇んでいます。子どもだけでなく、保護者の方々、そして地域のみなさんにとって頼られる場所でありたいです。
駄菓子屋 かしづき
住所
東京都足立区加平1-12-3
ホームページ
http://dagashiya-kashizuki.com/
Instagram
https://www.instagram.com/dagashiya_kashizuki/
文=佐々木隆紘(トネリライナーノーツ サポーターズ)
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撮影=山本陸(トネリライナーノーツ サポーターズ)
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