にぎり娘が行く!第2回「distance art studio」建築家 猪又嵩史さん

にぎり娘が行く!

足立区東伊興にあるおにぎり屋「にぎりむすび」に関わる女性たち「にぎり娘」が、地域で活動している方の拠点にお邪魔して、その方との対談で物語を紐解く連載が「にぎり娘が行く!」です。

第2回のゲストは、「distance art studio」代表で建築家の猪又嵩史さん。対談ホストは「コミュニティKoen」代表で「にぎり娘」の山本亜紀子さんが、司会はトネリライナーノーツ編集長の大島俊映が務めます。
(対談日:2020年12月7日)

左が建築家の猪又嵩史さん、右が対談ホストの「にぎり娘」である山本亜紀子さん
左が建築家の猪又嵩史さん、右が対談ホストの「にぎり娘」である山本亜紀子さん

猪又嵩史さん(以下、猪又さん)は、設計や施工も行う建築家で「distance art studio」の代表を務めています。空き家の改修などのリノベーション案件を手掛け、コストを抑えるためにDIYの受託も。現在、猪又さんがリノベーションを手掛ける足立区東伊興にある「コミュニティKoenてらまちハウス」で、にぎり娘の山本亜紀子さん(以下、山本さん)が、猪俣さんにお話を伺いました。

想いも含めて空間になっていく(猪又さん)

――猪又さんと山本さんのご縁のキッカケってなんだったのですか?

猪又さん 初めましては、北千住の「rojicoya(路地裏寺子屋)」かな?

山本さん 猪又さんが関わった建物で言うと、和文化体験ができる築90年の古民家カフェ「rojicoya」と、北千住にある古民家のフォトスタジオ「Petit coeur」がありますが、どちらのオーナーとも私は知り合いなんです。そんな2人に「ママとキッズのサードプレイス」のプロジェクト(注1)の事を話したら、そこで建築家として推薦されたのが、猪又さんでした。すぐに「rojicoya」へ会いに行って、自分達のやりたい事を伝えたら、いいですねって言ってくれて。その場で「コミュニティKoen てらまちハウス」のリノベーションを引き受けてくださったんです。

猪又さん 「rojicoya」の建物で以前にやっていた「ROJIBI(千住旭町路地裏美術館)」を手掛けたのが、今の仕事の流れのスタートでした。北千住で空家の再生を行うNPO法人が、自らの手でリノベーションをしようとしていたんですけど、「ROJIBI」になる元の建物は廃墟同然で。僕がたまたま見に行った時、土台がグラグラしていて、このまま進めると危ないなと思ったんです。ちょうど設計事務所の仕事を辞めたタイミングだったので、そのNPO法人の代表に手伝いますよと言って、ガッツリ関わりました。

山本さん 「rojicoya」というよりも、その前の「ROJIBI」からなんですね。

猪又さん 「ROJIBI」のリノベーションは、それを仕事にすると言うよりも、バイト代程度をもらうだけのボランティア感覚でいたのですが、ちょっとそれどころでは済まないような大変な作業になりました。土台となる床を作って、改修で出た廃材でカウンターを作って、曲面の大きな白い漆喰壁を作って。それらの空間の骨格を作ることによって、古民家の良さを損なわないギャラリーとして機能するようにしました。

――そんな「rojicoya」で初めてお会いしてみて、お互いの印象はどうだったんですか?

猪又さん 「ママとキッズのサードプレイス」の話を聞く前から、会ってすぐに、これは上手くいくなと思いました。なんかパッと見の印象とかで、そういうのが大体分かります。

山本さん そうなんだ(笑)私の方は、こちらのやりたい事をイメージしてもらうのが、建築家さんにとって良いかなと思ったので、「こういう場所で、こういう想いで、こういう活動をしたい」と伝えました。そうしたら、想いの部分を1番汲んでくれたんです。その上で、「これは良いと思います」とか「上手くいくと思います」とか「こうしたら良いんじゃないですか」とか、色々と提案してくれたので、一緒に出来たら本当に良い場所が作れるのではないかなと思いました。

猪又さん 想いも含めて空間になっていくんですよね。だから、その想いを深く理解しない事には、良い空間を作る事には繋がらないです。例えば、「コミュニティKoen てらまちハウス」の建物は、元々は学習塾ですが、そこの痕跡を見て子どもの学びの場っていうのと、子育て支援をしている「コミュニティKoen」の想いをリンクさせる(繋げる)ように試みます。想いも建物もまっさらにしてしまうのではなくて、それぞれの“コンテクスト”(文脈)を残すのが大事だと思っていますし、それを重ねていった方が面白いです。

リノベーション中の「コミュニティKoen てらまちハウス」にて
リノベーション中の「コミュニティKoen てらまちハウス」にて

折れないところは、折れないです(山本さん)

――文脈を大事にされるキッカケはあったのですか?

猪又さん 建築を学び始めてから、そういうのが当たり前な環境にいました。“サイトスペシフィック”という言葉があって、「その場に相応しい」という考え方です。コミュニティでの繋がりにも似ていますけど、“コンテクスト”をしっかり読み取っていって丁寧に繋げるのが、今の時代の建築の作り方だと思います。というか、いつの時代も本当はそうあるべきなんですけどね。

山本さん 他の建築家の方と仕事で関わった事がないので分からないですけど、すごいなって思います。すごく早い段階で現場を見に来てくださったり、プロジェクトのミーティングをしている事を伝えたら参加してくださったり。

猪又さん そういうので会うたびに、“コンテクスト”を繋げていくのが仕事ですし、それが自分の役割だと思ってるタイプの建築家です、僕は。それに、クライアントの想いやリノベーションする建物の背景だけではなく、周辺地域の環境や歴史も考えます。「コミュニティKoenてらまちハウス」で言えば、建物の前の道には魚のいる水路があったり、隣のお寺には鐘や桜の木があったり、寺町の歴史だったり。そういうのを考えることで、思いもよらない形でクライアントの要望を実現させる事も出来たりします。なので、想いを汲むという時間は、とても大事なんです。

――仕事の進め方で印象に残っている事はありますか?

山本さん こだわりが強いなって思います。私が「こうしたい」って言っても、「でも、これはこうが良い」って返されて、「私の場所なのに」と思う時はあります(笑)ただ、私も折れないところは、折れないです。

猪又さん 結構、それが大事なんですよ。折れないところまで持っていくのが。建築って1個やり始めると、物凄いエネルギーとコストがかかってしまうから、やらなくていい事を削ぎ落とさないと、クライアントも建築家も施工者も、ひいては利用者も、莫大な損失を抱えることになってしまいます。実際的なコストや法規はもちろん、施工者との調整や、地形と気候の兼ね合いまで、それらの様々な事を考慮するのも建築家の仕事です。

山本さん そうですね。今はもう完成が楽しみです。一緒にDIYをしたら、リノベーションを早く終わらせる事ができると思いますし。それと、このリノベーションが始まってから、「コミュニティKoen」のメンバーやKoenのイベントによく遊びに来てくれるママさん達が、お子さんと寄ってくれて、荷物を整理したり、壁紙を剥がしたりしてくれています。一緒に手伝いたいって言って来てくれる人たちがいるのは、凄く嬉しいですね。この場所を必要だと思ってくれている人がいるのを実感できるから。それで、一緒に関わる事で、必要だと思っていた場所が、自分たちの場所だと思ってもらえたら。

猪又さん 面白いのが、この場所に手伝いに来る人たちって、DIYをやりたいっていうよりは、山本さんに会いたくて喋りたくて来ているような気がします。それで、みんなが作業をやってくれるから、自分は何もしなくても完成するんじゃないかなと思うぐらい(笑)

――「コミュニティKoenてらまちハウス」でオープン予定の「にぎりむすび」についても猪又さんに伺おうと思うのですが、こちらはいかがですか?

猪又さん 楽しみですね。美味しい物が食べたいです。それに、近隣に住んでいる人たちやこの辺りを通る人たちが欲しかったものを提供できると良いですね。

山本さん 竹ノ塚だから、筍のおにぎりがあると良いとか言っていましたよね(笑)おにぎり屋は食事という面で、地域の人たちに喜んでもらいたいと思っているんですけど、オープン前だから実感はわかないですし、まだちょっと不安な部分はあります。オープンまでに、地域の人たちとの関係をいかに築いていけるかは、楽しみな部分でもあるんですけどね。

――それでは、山本さん、最後に恒例の質問をお願いします。

山本さん 好きなおにぎりの具はなんですか?

猪又さん Googleマップで「コミュニティKoenてらまちハウス」のストリートビューを見たら、隣のお寺で桜が咲いていたんです。それを見てふと思い出したのは、梅と紫蘇がご飯にまぶしてあった桜色のおにぎりを、うちの親がたまに作ってくれた事でした。

――それが1番好きなおにぎりっていう事でよろしいですか?

猪又さん 1番好きって言われると悩んじゃうなぁ(笑)そうしたら、メンマ。いや、チャーシューも良いな。

 「コミュニティKoen てらまちハウス」 の壁紙を剥がす2人
「コミュニティKoen てらまちハウス」 の壁紙を剥がす2人

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「にぎり娘が行く!」で対談ホストを務めた山本亜紀子さん
「にぎり娘が行く!」で対談ホストを務めた山本亜紀子さん

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