トネリライナーノーツの地域団体の紹介企画「ダチアダチ」に登場した団体のキーマンが、それぞれに話し手と聞き手を務める対談が「ダチバナシ」です。
1席目となる今回の話し手には、足立区を拠点に“ぬいぐるみカフェ”「やわからん’s cafe」や、子ども向けアートイベント・教室「やわらかアートアカデミー」の活動をする“スズキミ”こと鈴木公子さんをお招きしました。また、聞き手は「平成医療福祉グループ」の勤務で、足立区西新井にある就労継続支援B型カフェ「OUCHI」に関わる水戸抄知さんが務めます。
(取材日:2023年10月23日)
大好きなぬいぐるみとの別れから悟る「自分の好きとは、さよならしてはいけない」
水戸さん 私とスズキミ先生が出会ったのが「ウーマンズビジネスグランプリ2013 in品川」というビジネスコンテストでしたけど、そこでスズキミ先生は3つも賞を取ったんですよね。あの時はまだ時代が追い付いてきている感じはなかったけれど、“未来に向けてすごく伸びしろのある存在”というふうに、ビジネスコンテストで活動自体を承認されたと思うんです。あの頃より前は、ぬいぐるみ活動の承認というところはどうでしたか?
スズキミさん ビジネスコンテストの時は、共感されて嬉しかったです。その前は、全く承認されていなくて。
水戸さん そうだったんですね。今でこそ、偏愛やなにかに夢中になる“オタクっぽさ”というのは、どこかプラスのイメージで捉えられることが多くなってきたと思うんですが、少し前までは“オタクっぽさ”というところはあまりポジティブに捉えられるとは限らない状況があった中で、今の道をどうやって切り拓かれていったのか。まずはその部分を伺いたいなと思います。
スズキミさん ぬいぐるみが好きなのは物心ついた時からで、いつも私の傍にいる絶対的な存在で、No.1ポジションなのは、“ぬいぐるみ”という感じでしたね。
自分が大きくなるにつれて、周りのお友だちはぬいぐるみを卒業していくんですけど、私はずっと好きで、「これって、ちょっと変かな?おかしいかな?」って思っていました。だから、大っぴらには「ぬいぐるみが好きです!」というのは、高校生ぐらいから言わなくなっていました。
水戸さん 高校時代から今のぬいぐるみ活動をするに至るまで、心の波も結構あったんじゃないかなって思うんですよね。いろんな人に何か言われたりとか、もしかしたら親御さんのような近い人にも何か言われたりしたこともあったんじゃないかなって勝手に想像したんですけど、当時はどうでしたか?
スズキミさん 大正解です。親がよく思ってなかった、っていうのはありますね。高校生の頃、「ぬいぐるみを持っていたら大人になれないから、ぬいぐるみを捨てなさい」って言われたんです。うちの親はすごく厳しかったので、これは逆らったらこの家で生きていけないなと思うくらいでした。
なので、ぬいぐるみたちをゴミ袋に詰めたんですが、大好きだったぬいぐるみの“コッコちゃん”とはどうしてもお別れができず…。なので、“コッコちゃん”の尻尾を切って、その尻尾だけを小さな缶に入れてずっとずっと宝物のように、遺骨のように大事にしていました。でも、ぬいぐるみのことはずっと忘れられず、「やっぱりあれは違うんじゃないか」とか「自分の好きとは、さよならしちゃいけない」とかって、大人になって思ったんです。
スズキミさん 大人になったら親の干渉もだんだん減ってくるので、新たにヒラメのぬいぐるみの“カレイちゃん”をお迎えして、この子はもうずっと可愛がってあげようって思ったし、自らを「ヌイグルミスト」として、「ぬいぐるみが大好きなスズキミです」と胸を張って言えるようになりました。
アート活動を通して、子どもたちの心を満たすためにできること
水戸さん 両親や自分と近い存在の人から拒絶されたりネガティブな反応をされたりしてしまうと、そこで好きという火が消えちゃう子の方が圧倒的に多くて、暗い悲しみになってなかなか拭い去れないんじゃないかなって思うんですけど、スズキミ先生はぬいぐるみへの想いを温めて今現在の形にまで昇華しています。その根源になってたものって、なんだったんですか?例えば、他に共感してくれる誰かがいたとか、本との出会いとかがあったんですか?
スズキミさん 心の拠りどころが、ぬいぐるみ以外になかったんですよね。あとは、絵を描くということもありましたけど、絵を描くことは発散で、寄り添ってほしいものはぬいぐるみでしたね。
水戸さん じゃあ、自分自身で内省しながら歩んできたっていう感じですか?
スズキミさん そうですね、自家発電型ですね。何かパワーを失ったら、ぬいぐるみとか絵とかで自家発電をして、心を満たして前を向いてきたって感じですね。
水戸さん スズキミ先生は子どもたちに向けて「やわらかアートアカデミー」の活動をされている中で、「絵を描く」ことではなくて「表現する場を提供してる」という印象なんですけど、今の話とその活動がすごい繋がった気がしました。
スズキミさん そうなんです、繋がるんです!子どもの頃、親からのネガティブな言葉を受けて当時の私の心はスッカスカだったんですけど、普通の親子でも「親は子どもの言ってることを全部は聞ききれない」ことや、「子どももママにお話をもっと聞いてほしかった、これを見てほしかった」と感じることはあると思うんですね。そこで、「子どもたちのもっと聞いてほしかった」という想いの受けとめを、社会の誰かが担ってもいいんじゃないかと思ったんです。
スズキミさん 私はアートを通して、絵や表現についても伝えますけど、いつも大事にしているのは、「子どもたちの心を満たすためにできること」なんですよね。子どもたちが言ってくれたことは絶対に聞くとか、ポジティブなリアクションで返すようにするとか。絵以外にも「今日は楽しかったな、聞いてもらえてよかったな」みたいな感情を持って帰ってほしいなと思っています。
水戸さん ちょっと涙、って感じです。私も子どもがまだ小さかった時はそんなに志の高いママじゃなかったと思っちゃいますけど、どんなママでも完璧な人はきっといないですよね。
子どもの“心の安全基地”を作る秘訣と、自らの“心の栄養”の摂り方
水戸さん 不登校が今増えている背景には、環境もあると思うんですよ。学校の環境だけじゃなく、家庭環境とか親子の関係性とか。課題を抱えている子は、親も課題を抱えてることがありますよね。そんな躓きそうになった子どもや親子がめげずに自分らしくいれるために、「気持ちが楽になる、明日が明るくなる」ようなスズキミ先生らしいメッセージをお伝えいただきたいです。
スズキミさん 普段も、心が壊れかけちゃったのかなっていう時も、「大好きだよ」とか「愛してるよ」とかっていうのを、1日に何回も言ってあげることをぜひ実践してほしいなって思います。
心理学的なところなんですけど、子どもの“心の安全基地”は、子どもの承認欲求を満たしてこそ築くことができます。その“心の安全基地”があれば、外でいろんな人とうまくコミュニケーションができたり、自分を表現したりできる、って言われているんです。“心の安全基地”が崩れてしまうと、外に出られなくなってしまいます。
スズキミさん “心の安全基地”は本当に身近な存在のお父さん・お母さんが1番頑丈なものを作れるので、それをご家庭でしっかり作ってあげてほしいですね。お子さんの話をしっかり聞く、そして、お子さんに興味を持って接する。冷静なコメントになっちゃいましたけど、そこは絶対に大事だと思っています。
水戸さん 日本全国津々浦々にスズキミ先生のような人がいて、地域の子どもたちにアート活動をしながら、親たちの心も癒してもらえると嬉しいな。スズキミ先生のような「自分は自分のままでいいんだ」って思って成長する子どもたちが足立区からも出てきて、ここから増えていくかもしれませんね。
スズキミさん 私とちょっとでも関わった子どもたちは、家庭でも社会でもリーダーシップを取って自分軸をしっかり発揮して暮らして、自分の幸せを自分で作ってほしいなって本当に思います。そうなると、心の底から嬉しいですね。
水戸さん ちなみに、今のスズキミ先生の1番の“心の栄養”はなんですか?何を原動力にして、いつもそんなにキラキラしてるのかなと思って。
スズキミさん こうやってぬいぐるみ活動やアートの活動を通して知り合ったみなさんと一緒に、何かを共創したりイベントをしたり、 ご縁が繋がってまた面白いことに発展していくのが面白くてたまんないですね。「こういう事をやりたい!」っていろんな人に言っていくうちに、「いいじゃん!いいじゃん!」って応援してくれる人しかいない状態に気付いて。今までは「ぬいぐるみを好きだって言ったら、変な顔されるかな」って勝手に思ってたんですけど、それを言ったらみんなが応援してくれるし、なんか楽しそうに色々聞いてくれるし。「あっ、自分の心を開けば、みんなも心を開いてくれるんだな」っていうのは気付きましたね。
水戸さん 今日はスズキミ先生の根源に触れられた気がします。とても価値のあるお話を、ありがとうございました。
やわらかん’sカフェ
ホームページ
https://nuigurumicafe.com/
やわらかアートアカデミー
ホームページ
https://sites.google.com/view/yawarakaart/
OUCHI
ホームページ
https://ouchi.support/
話し手=スズキミさん
聞き手=水戸抄知さん
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編集補佐=しまいしほみ(トネリライナーノーツ 編集者)
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撮影=山本陸(トネリライナーノーツ カメラマン)
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