メモリバが魅せる自由な表現の可能性 今井迪代さん【東東京のしなやかな女性5】

新型コロナに負けない!地域のしなやかな女性たち

大学生フォトグラファーとして活動する山本陸さんが、東東京地域で頑張る「女性」を紹介する企画「新型コロナに負けない!地域のしなやかな女性たち」の第5回。

今回は、足立区千住を中心に「音」をテーマにまちなかで展開しているアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」事務局の今井迪代(みちよ)さんにインタビュー。
(取材日:2020年5月30日)

zoomを使ってインタビュー
zoomを使ってインタビュー

今回取材するのは、「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」事務局(以下、音まち)の今井迪代さん(以下、今井さん)。私は、2020年2月の南三陸チャリティーイベント「第2回すきだっちゃ南三陸」で写真展を開催。このイベントで、今井さんもシャボン玉とぼんおどりを掛け合わせた「しゃボンおどり」を披露していた。お互い面識はあったが、お話をするのは今回の取材が初めて。私がzoomのアップデートに手こずって予定時間より10分ほど遅れて取材を開始した中でも、気持ちよく迎えてくれた優しい人だ。

音まちとは、東京都足立区千住エリアにて、「音」(アート)を通じて人と人との新たな縁(えん)をつむいでいくアートプロジェクトだ。今井さんは、音まちで「Memorial Rebirth 千住(以下、メモリバ)」というプロジェクトを担当しており、開催に向けての準備に励んでいた。メモリバは、2011年度から続くシャボン玉を使ったアートパフォーマンス。シャボン玉の中で踊って歌って参加者がひとつになる、人々の縁を繋ぐイベントだ。

しかし現在は、新型コロナウイルスの影響で活動自粛を強いられている。今年の4月19日に予定していた「Memorial Rebirth 千住 2020 舎人公園」も延期になってしまった。プロジェクトが開催できなくなった今、今井さんは、どのように地域の方と繋がり、どのように縁を繋ぐのだろうか。

音まちとメモリバ

音まちではメモリバの他にもいくつかのアートプロジェクトを行っている。一見関係のない言葉が似ている音の要素で結びつくだじゃれをヒントに、まったく新しいだじゃれ音楽の可能性を探求している「千住だじゃれ音楽祭」。日本に暮らす海外ツールの方々と現代アートの手法を介して企画されるプロジェクト「イミグレーション・ミュージアム・東京」などの計5つのアートプロジェクトを展開。

メモリバは、現代美術作家の大巻伸嗣氏が作り出す、シャボン玉を使ったアートパフォーマンスで、1分間に最大1万個のシャボン玉を生み出す装置を数十個並べて、無数のシャボン玉を作り出し、見慣れたまちなみを一瞬で光の風景に変貌させるというもの。2011年度から毎年場所を変え開催している。その過程の中で、オリジナルぼんおどりの「しゃボンおどり」が誕生したり、歌ができたりした。また、昼だけでなく夜中にシャボン玉を飛ばす「夜の部」も誕生。約10年の歴史があり、千住から始まり、2018年度には西新井で開催されるなど、区内の各所に広がっている。

自粛期間中のメモリバの取り組み

まちなかで行うアートプロジェクトは、大勢の人が一か所に集まるプロジェクトが多い。音まちやメモリバも例外ではない。新型コロナウイルスの影響で開催自粛せざるを得ない状況で、多くのプロジェクトが影響を受けた。

そんな中、メモリバでは、別の形で行える2つの取り組みを始めた。

1つ目は「メモリバ学校の昼やすみ」というオンライン動画プロジェクト。これは、メモリバをともに作り運営している市民ボランティアチーム「大巻電機K.K.」のメンバーとともに企画したもので、メモリバから発想を広げた自由な遊びを撮影しYouTubeにアップする。これまで、割れにくいシャボン液作りや消しゴムハンコを使ってメモリバの光景を紙の上で再現する動画などがある。

「メモリバ学校の昼やすみ 」の動画

2つ目は「#メモリバ0419」というプロジェクト。今井さんを含む事務局・学生スタッフや市民チームのメンバーは、Memorial Rebirth 千住 2020 舎人公園が延期になってしまったことを残念に思っていた。そこでせめて、その日を楽しみにしていて当日出会うはずだった人たちが、各々の場所からメモリバを通じて日常に思いを馳せるという行為をしたらどうか、またそれをみんなで共有することでそれぞれの場所からつながることができるのではないかと思い、このプロジェクトがSNS上で開かれた。4月19日の本番予定実施日の朝にSNSや事前イベントに参加してくださっていた方たちに呼びかけ、開催予定時刻だった15時と19時に、それぞれの場所から身近で大切な日常に改めて目を向けて写真や動画撮影しSNS等にアップ。投稿総数180を超え、今井さんの予想を上回る結果となった。

特設サイト「#メモリバ0419」写真掲載ページ
https://aaasenju3.wixsite.com/mrshabonodori/blank-5

メモリバで表現を自由に

Memorial Rebirth 千住 2020 舎人公園が延期になりながらも、次なる開催に向けできることから模索し挑戦し続けてきた。その活動で今井さんが目指すものは、「みんなが安心して表現をし、認め合えること」を諦めず後押ししていくことだという。

近年SNSの発達により、文章や写真、さらには動画といった形で、個々人の表現活動はより自由に、またハードルが低くなっているようにも見える。しかし今井さんは、実際に様々な人に出会って話をする中で、本当は自分なりに表現したいことがあるのに抵抗感や周りから変に見られたらどうしようといった怖さを抱えている人が、大勢いると感じているという。「何も全員が歌ったり踊ったりする必要はなく、ただその場でシャボン玉を見て『綺麗だな…』とたたずむことも、表現の1つ。そういった1人1人の存在を認め合いながら、日常では出会わない人が交差することで、まちに新たな「縁」ができていくのではないかな」と今井さんは語った。

今回の新型コロナウイルスの影響でオンラインの可能性も感じた一方で、オフラインでの出会いの影響はやはり大きいと再認識したという。今後は、今まで以上に集まれる価値を確認しながら活動していきたいと、今井さんは決意を新たにした。

※2020年9月17日 編集部追記
Memorial Rebirth 千住 2020 舎人公園について、今年度の開催は中止となりました。
https://aaa-senju.com/p/13135

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Memorial Rebirth 千住
特設サイト
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「新型コロナに負けない!地域のしなやかな女性たち」取材者の山本陸
「新型コロナに負けない!地域のしなやかな女性たち」取材者の山本陸

文=山本陸(トネリライナーノーツ サポーターズ)
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