大学生フォトグラファーとして活動する山本陸さんが、東東京地域で頑張る「女性」を紹介する企画「新型コロナに負けない!地域のしなやかな女性たち」の第3回。
今回は、ボランティア団体「あだち子ども食堂 たべるば」代表の川野礼さんにインタビュー。
(取材日:2020年4月29日)
今回取材するのは、ボランティア団体「あだち子ども食堂 たべるば」代表の、川野礼さん(以下、川野さん)。私は、2019年2月の南三陸チャリティーイベント「第1回すきだっちゃ南三陸」で川野さんと初めてお会いし、2020年2月に開催された「第2回すきだっちゃ南三陸」で再会。どちらの機会でもそれほど話すことはなかったので、今回の取材ではほぼ初対面だった。でも川野さんが明るくハキハキした人だったので、とても話しやすかった。そんな川野さんは、ボランティア団体「あだち子ども食堂 たべるば」の代表を務めている。子どもの「孤食」と「固食」を減らすため、子どもたちが無料で利用できる食堂「たべるば」を月に2回、足立区の体験型複合施設ギャラクシティで開催している。たべるばを開催しているギャラクシティは、最寄り駅が西新井で、日暮里舎人ライナー「西新井大師西駅」からは自転車で10分。地域の子どもや保護者が安心できる居心地の良い居場所を作るため活動に励んでいる。
しかし現在は、新型コロナウイルスの影響で活動自粛を強いられている。たべるばを開催することができない状況になった今、川野さんは、どのように地域の子どもや保護者と繋がり、どのように安心できる居場所を作っていくのだろうか。
あだち子ども食堂 たべるばのルーツ
あだち子ども食堂 たべるばは、子どもが、ひとりで食事をする 「孤食」と偏った食事をする「固食」 をなくすため、無料食堂を開いているボランティア団体。核家族や、ひとり親、虐待など、家庭には様々な事情がある。子どもがひとりで、あるいは兄弟で寂しく食事をしている現状を見兼ね、月に2回、子どもたちが無料で利用できる食堂「たべるば」を開催している。その活動の裏には、「子どものうちからいろんな人と関わる楽しさを知ってほしい」という川野さんの想いがあった。
川野さんは、大学卒業後に一般企業に就職した。そこで、1年目にしていきなり人事の採用担当に配属された。働いたこともないのに採用担当になりプレッシャーを感じていたが、仕事自体は楽しく、優しい上司と出会い、気付いたら3年の月日が流れていた。社会人生活に慣れてきたとき、川野さんはある違和感を感じていた。それは、採用面接をしている際に、コミュニケーション能力が著しく低い大学生や専門学生が一定数いることだった。面接中も、上手くキャッチボールができず、落とさざるを得なかった。川野さんは、この就活生たちの「独特の距離感で話す」、「自分の話ばかりしてしまう」ことに漠然とした課題感を持った。
そんな頃、NPO法人カタリバに出会った。NPO法人カタリバは、高校生を対象に、本音で語り合う対話の授業をしている。子どもの時から対話を大切にすることで人と関わる楽しさを感じさせたい、という川野さんの意志がNPO法人カタリバでの活動になっていた。その活動を通し、感じていた違和感は間違いではなかったと自信がついた。そこで4年間従事した経験が、今の活動に繋がっている。
たべるばが自粛期間中にできること
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、多くの子ども食堂が機能しない状態になった。たべるばも例外ではない。これまで、2年間の活動を通し、子ども食堂がないと社会との繋がりを持てない子どもが一定数いることに危機感を感じていた。このままでは、その子どもたちの食事や、精神的な面での孤立が進んでしまう。さらに、足立区では3月2日から学校が休校になってしまい、経済的に困難な家庭では学習面でも孤立が進んでしまう。食事、精神的、学習面での孤立をなんとか阻止しようと川野さんは3つの取り組みを始めた。
ひとつめは、お弁当を配るプロジェクトだ。3月2日から4月3日までの平日に毎日お弁当を配った。たべるばに通っていた子どもを対象に1日40食、ひと月で950食ものお弁当を宅配。食事の面の支援はもちろん、精神的な面での支援も行っていた。このお弁当を配るプロジェクトは、なるべく同じ人が同じ家に届けようにし、それぞれの子どもと顔を合わせ、言葉をかわすことで精神的な安全を保っていた。
ふたつめは、食材の配達だ。4月3日以降、足立区の学校では給食が食べられることが区のホームページにも掲載されており一安心した川野さん。しかし、緊急事態宣言が発令され給食が食べられないことになってしまった。川野さんたちは今まで毎日お弁当を配り続けヘトヘトの状態だったので、今度は無理せずできる範囲での支援をすることにした。それが食材の配達だ。毎日ではなく食材が集まったら、ドライバー役と道案内役2人の最低人数で実施していた。3月にお弁当を届けていたお宅を中心に、食材と見守りが必要なところへ配っている。
みっつめは、 子どもにiPadを配り、オンラインでの見守りを始めた。iPadは、たべるばを開催していたギャラクシティから7台借りたそうだ。その7台を特に心配な子どもたちに貸して、毎日行っている。見守りのメインは交流。毎晩1時間のzoom会や自習タイム、おはようやおやすみのメッセージのやり取りなどを行っている。現在は iPadを回収し、パソコンを貸与して、引き続き見守りを続けている。
「人との繋がりが楽しくてやっている」
川野さんにとって、こうしたパワフルな活動の源は「人との繋がり」にあるという。ひとつめのお弁当を配るプロジェクトは、居酒屋さんに協力してもらいお弁当を作ってもらった。高校生にお弁当配りを手伝ってもらったり、Zoom学習で子どもと話したり、多くの繋がりから力をもらっている。
たべるばをひとつの選択肢に
川野さんは、あだち子ども食堂 たべるばを通し、さまざまな形で支援を続けてきた。川野さんがこの活動で目指すのは、たべるばがひとつの選択肢になることだという。
「たべるばみたいな、子ども食堂がだんだんなくなって、みんなが家族揃ってお家でご飯が食べれるとか、今日はひとりで食べたいからひとりになるとか、選択できる社会になってほしい。そして、その選択肢のひとつがたべるばであればいいと思う。私は続けるよ。だってみんなとご飯食べるの楽しいもん」
さまざまな活動で支援を続けている川野さん自身が、子どもたちとの食事や、地域の人たちとの交流を誰よりも純粋に楽しんでいる。その楽しむ気持ちが、どんな支援よりも安心できる居心地の良い場所を作っているのだろう。
あだち子ども食堂 たべるば
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