足立区・荒川区の“外側”で活動している人に話を聞いて、そこから地域活動の学びを得る連載が「のりかえライナーノーツ」です。
今回の2本目では、デザイン・地域アートプロジェクトを実施する「株式会社ニューモア」代表で、福祉作業施設に通う利用者の方とのデザインチーム「想造楽工(そうぞうがっこう)」主宰のYORIKOさんにお話を伺いました。聞き手は、トネリライナーノーツ編集長の大島俊映が務めます。
(取材日:2023年4月12日)
YORIKOさんのプロフィール
- 「株式会社ニューモア」代表取締役
- 「想造楽工」主宰(班長)
1987年4月生まれ、埼玉県出身。専門学校桑沢デザイン研究所を卒業後、ロンドン芸術大学セントラルセントマーチンズに留学。帰国後、個人でデザイン業を担いながら全国各地に赴き、地域の人々と作り上げるアートプロジェクトに取り組む。
2020年に「株式会社ニューモア」を設立。主幹事業として、福祉作業施設に通う障害のある人たちが描くイラストレーションを商業展開するデザインチーム「想造楽工」を主宰している。
“いいものづくり”の三原則
――「ニューモア」という会社の事業の1つとして「想造楽工」を主宰されていて、私が携わっている「トネリライナーノーツ」や「ゼンガクジ フリー コーヒー」でもお世話になっていますが、どんな想いでこの会社というか、事業を始めたんですか?
YORIKOさん 私は「いいものづくり」がしたい、ということだけが原動力なんです。「いいものづくり」とはなにかというと、3つの原則が自分の中にあって、1つ目は「ビジュアル」ですね。自分が納得のいくいい絵をつくりたいんです。
2つ目は、安直ですけど「関わる人がやりがいを持って楽しくやる」こと。人の気持ちは大事ですよね。
3つ目は、その上で「対価がきちんとその人に支払える」こと。その3つが合わさって、「いいものづくり」だと思っているので、それをやっていきたくて会社を始めました。
――1つ目の原則から聞かせてください。YORIKOさんにとって“いいビジュアル”ってなんですか?
YORIKOさん それは、“自分の好み”ですね。私は「想造楽工」の世界観が好きなんですよ。イラストレーターのみなさんの描く絵が。だから、デザインの力を加えることで彼らの絵の持ち味をさらに上げて、完成させたいんです。
――イラストレーターのみなさんの話が出ましたが、2つ目の原則で言うと、「想造楽工」がはじまる前に、八王子の福祉施設さんの絵を描かれたそうですが、その時はYORIKOさんの中で、“協働する”、“みんなで作る”というのはどういう感じだったんですか?
YORIKOさん これまでも地域のお菓子屋のパッケージで、地元のお子さんに絵を描いてもらってそこからデザインをする、という事を地方でやっていたんです。その延長で、関わる場所の当事者の方たちに絵を描いてみてもらったらどうなるかなと思い、福祉作業施設に通う障害を持つ方々に試しに「絵を描いてみてください」と頼んだ結果、その世界観に度肝を抜かれました。「あっ、こういう力を持ってるんだ!いい絵だな」と。
彼らはこの絵をいつも描いているわけではなく、またそれを何か形にしていらっしゃるわけでもないので、もったいないなと単純に思って、そこの福祉施設の店舗デザインにみなさんの絵を全面的に使ってみたんです。
そうしたら、「リニューアルしたことによって、新規の利用者の方も来るようになりました」と福祉施設の方からお声をいただき、売上がすごく上がったんですよ。その時に、ものづくりでその場所にお力添えができることって、やっぱりたくさんあるなと思いました。利用者さんの絵を、室内にも外観にも使って、イメージアップに貢献ができて、立派なお仕事だなと思ったんです。
――なるほど。それは3つ目の原則に繋がっていきますね。
YORIKOさん デザインだけではダメで、まずはそこに原画があるのが前提です。その完成度をデザインによって引き上げて、1つの制作物として展開したことで、クライアントさんのお力添えになれた。
それはすなわち、「お仕事としての対価をクライアントから私たちにお支払いしてもらって、また、原画を描いてくれる利用者の方々にも私たちからお支払いができる」という仕組みを普通にできたら、みんなにとっていいんじゃないかな。そう思ったのが、「想造楽工」を実現するキッカケになりました。
協働のキーワードは「フラットであること」
――そこから「想造楽工」が正式にスタートして今日までで、福祉施設の利用者の方たちと協働することによる発見はありましたか?
YORIKOさん “協働”と言ってきましたけど、実は意味を分解していなかったんですよ。単にいろんな人とやればいいのか?と今までもモヤモヤしていたところがあったので、改めて考えてみると、「対等さ」が超キーワードだなと自分の中で生まれたんです。
それはなにかというと、障害がある方たちの絵を使って活動をしているのは事実ですし、そこにSDGsなど様々なキーワードで依頼をしてくださる事はありがたい限りでなので、それを全面に出してもらってもいいし、出さなくてもいい。
でも、そこの「障害がある」ということを、持ち上げ過ぎたくないなという想いが1つあったんですね。「障害がある方の絵=すごい美術作品」と上げすぎたくもないんです。
――なるほど。
YORIKOさん みんなそれぞれが普通の1人の人間で、それぞれの強みもあるし弱みもありますよね。それを私たちデザインチームの持ち味と補完し合って、1つのものづくりをするというところにおいて、どちらが上か下かという関係をつくりたくないんです。「フラットでありたいというのが、自分の中の“協働”のキーワードだ」って思いました。
それって、なにに対してもそうなんですよね。子どもと大人の関係性にしても、健常者たちの関係性にしても、普通のお仕事のお客さんとつくり手にしても。上下の関係だと、なにもいいものが生まれないと感じました。
――僕もコミュニティをつくる時に、人と人の立ち位置をフラットにするというのをすごく大事にしてるので、めちゃくちゃ分かります。それでいうと、「ニューモア」って肩書も「班長」とか「副班長」とか呼んでいて、フラットな感じがしますよね。
YORIKOさん 「ニューモア」の社員の子が“見守りが好きだ”というところから、「副班長」って肩書きが始まったんです。「隊長」と「隊員」だったら上下関係ですけど、「班長」とか「副班長」とか「班員」とかって、その班の中でこっちだよと言ってる人もいれば、見守ってる人もいて、それは上下ではないというところがいいなと思ったので、今はそうしています。「想造楽工」では、私は「班長」です。
――「想造楽工」の世界観が、ここにも現れていて素敵ですね。
下積み時代に学んだ「他人に自分の物差しを“使わない”」という価値観
――デザインの専門学校を卒業したあとの、イギリスに留学した時に、1番学んだことって何ですか?YORIKOさんの三原則の軸が定まっていくのが、そこなのかなと思って。
YORIKOさん みんなが言葉を超えて繋がれる瞬間があって、でも一方で、人類みな兄弟とは言えない部分もある、ということですね。価値観って本当にそれぞれだから。宗教も違いますしね。そこを「我々は分かち合えますよね」と、自分の物差しで他人の幸せや判断基準を作ってはいけないな、ということを1番学んだ気がします。
例えば、道端で何かをやって、その辺の人が簡単に絡んでくれて、それは嬉しいことなんですよね。だから、同じ場所にいて「私とあなたは違うから、何も一緒にできない」ということはナンセンスで。相手が悪魔でも「私はこれをやりたい、一緒にどうですか」という風に接することが大事だと思います。属性の違う人たちと一緒にできることはたくさんあるし、何かいいことが生まれることもあるんです。
でも、属性が違っていても一緒にできることはたくさんあると同時に、「これをすれば、私たちはお互いにハッピーだよね」とは、誰に対しても言えることではないんじゃないか、とも思っています。「私たちって分かり合えてるよね」とか「これをしたらあなたも幸せでしょ」とかって言っちゃいけないな、って自分の中ですごく得た感じがします。
――そういう考えが根底にあるから、「想造楽工」が生まれたんだなと感じます。
YORIKOさん お仕事をしていろんな場所に絵が飾られた時、ほとんどの場合で、本人やその家族はとても喜んでくれます。でも、その時に「こんな風になったよ。良かったでしょ」という強要のようなことは、我々はしてはいけないなと思っています。相手にもよりますが、淡々と絵を描くことが彼らの喜びならば、描いたものが何か別の形になったとしても、私たちが「あなたもハッピーでしょ」と善意の押し付けのようなことをするべきじゃないなと思うので、そこはすごく意識していますね。
我々がこういう事をやりたくて、力が必要だから一緒にやってほしいという依頼をして、施設利用者さんの持ってる力を提供してもらって、ものづくりをやりましたよ、と。そこに対して「ありがとう」と感謝する。そして、お金が1番に来てはいけないと思っていますけど、2番目には大事だと思うので、きちんとお金をお支払いしています。
――この流れで、「いいものづくり」における三原則の1つである「対価がきちんとその人に払えること」についても伺いたいです。お金を稼ぎたいというより、お金をちゃんと循環させて、みんなが行った事に対してそれぞれ支払われていくという形を大事にされてると思うんですが、そこにこだわった理由はありますか?
YORIKOさん フリーランス時代に芸術祭やアート関連の活動をして、そこではボランティアが当たり前になっていたので、現地の方たちはお金を求めず快く引き受けてくれたんです。それはそれでいいんですが、私自身、底なし貧乏を繰り返し「出世払いでいいよ」と奢り奢られの世界に、悔しいと思っていたところがありました。
デザインって、自分の表現をしたいからやるのではなくて、誰かのなにかをもっと良くするためにある設計だと思います。だから、「誰かのためにものづくりをする。その結果、先ほどの例のような良い結果になった。そうしたら、結果に対してお金を貰う」という風に、関わった人にちゃんと対価をお渡しすることはすごく自然で当たり前だし、そうであるべきなんじゃないか。と、20代の武者修行から痛感して、やっぱり大人としてちゃんと払えるようになりたいし、そのための活動をしたいという想いがあります。
YORIKOさんが描く「想造楽工」の“これから”
――私はシンプルに「想造楽工」でうまれてくるビジュアルが好きなんです。まず絵が素晴らしいというのは前提ですが、それをデザインとして完成させるYORIKOさんの役割って、どういうことを意識していますか?
YORIKOさん 「想造楽工」のゆるい感じが好きだけど、やっぱりちゃんとお仕事にしたいので、そのお金をお支払いしてくれるお客さんの求める世界をつくるのは絶対条件ですね。なので、お客さんによって「少し大人っぽくしたい」や「もっとポップな感じにしたい」という依頼があればなるべくそうなるよう、福祉作業施設の利用者さんに描き方の提案をしてディレクションを行い、依頼に合わせるようにします。
でも、前提として、原画から選んでデザインするのは我々なので、私たちのテイストにはなっちゃうと思うんですよね。そこを気に入ってくれる人がいたら嬉しいなと思いますね。
――最後に、「想造楽工」を今後はどうしていきたいですか?
YORIKOさん 日本を変えたいとか、世界を変えたいなどは特に思っていなくて。でも、「それぞれに頑張っている人がいて、いいよね」という人たちが増えていけば、その場所は少しずつ良くなっていくんじゃないでしょうか。その積み重ねだなと思って、「いいものづくり」をちゃんと続けていきたいです。
▼想造楽工
ホームページ
https://sozogakko.com/
オンラインショップ
https://sozogakko-store.com/
Instagram
https://www.instagram.com/sozogakko_official
▼株式会社NEWMOR
https://newmor.net/
聞き手=大島俊映(トネリライナーノーツ 編集長)
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編集補佐=しまいしほみ(トネリライナーノーツ アシスタント)
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撮影=山本陸
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